32 / 117
第一章
31因縁の相手
しおりを挟むずっと物静かだったカディシュがここまで荒い言葉をぶつけることにリグルは信じられなかった。
「やはり血は争えないな。陰湿な母と、女遊びが激しいあの男」
「伯爵!」
リグルは肩を震わせた。
「お父様…どういうことですか」
「所詮蛙の子は蛙ということだ」
リグルは真っ青になる。
最悪な事態を想像しながらもあり得ないと思った。
(どういうこと?まさか…そんなはずはないわ!)
リグルはこれまで周りを上手く騙してきたはずだ。
誰にもばれたことはない。
(もし知っていたたとしたら何故?)
カディシュが婚約を承認せざる得ない立場だったとしても、娘の愛しているなら婚約を断る方法はある。
何より婚約していたころに花嫁修業と言えば何も言えなかった。
だから娘にそこまで関心は無くなったと思った。
…なのだが。
「陛下、つきましてはこの場でよろしいですか」
「ああ、構わん宰相」
殺伐とした空気の中宰相がある書類を取り出す。
「こちらは、エステード夫人が長らくクラエス侯爵に対して侮辱罪に等しい行為をしていた手紙です」
「なっ…」
「奥方を失った彼に迫っていたそうですね…もはや脅迫です」
「母上!」
「お前!」
書類の中には見慣れた便箋があった。
「何を馬鹿な…」
(何であれが!)
数十年前にリグルが送った手紙だ。
容姿に自信があったリグルは何度かカディシュに手紙を送った。
寂しい夜を慰めてやる等というものだ。
「何度か相談されていたそうですよ…辺境伯爵殿に」
「プライベートな事を!なんて非常識な」
「非常識なのはどっちだ…妻の命日にこんな手紙を送り付け、娘が邸を開けている最中に邸に来て不倫を促すなど」
「妻の婚約者を寝取り、妻の悪い噂を流したまで黙っていましたが…堪忍袋の緒が切れましたよ」
他にも証拠となり品を見せられる。
その中には小瓶が取り出される。
「媚薬なども送り付けられたようですね」
「なっ!」
当時贈り物として送った品の中に強力な媚薬を忍ばせた。
しかしその品は法律で禁じられているのだ。
「証拠品としてすぐに提出させていただきました」
「なんて真似を」
「貴女に批難される筋合いはありません」
氷のような冷たい目。
これまでこんな冷たい目を向けられたこともない。
(まさか…)
ここまで用意周到に証拠品を保管していたこともだが、婚約破棄に至るまで作業が早すぎた。
書類を用意するにしてもそうだが、ヘリオスを初めとして、他の令息達の悪い噂が流れるのも早すぎた。
すべて計画的だったとしたらと思うリグル。
「まさか、すべて計画的だったの」
「さぁ?」
あくまで知らないと言うカディシュに怒りをぶつけたが意味がなかった。
むしろ醜態をさらしただけにすぎなかった。
234
お気に入りに追加
5,223
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる