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第一章
30冷たい視線
しおりを挟む「屑だな」
あまりにも最低な言葉に誰もが耳を疑う。
声を出すこともできない中、ローゼマリーは冷めた目を向けながら告げる。
「何所までも愚かな男よ。神経の図太さだけはこの世の終わりが来ても変わらないか」
「言うだけ無駄だろ。この状況で復縁とはどこまで恥知らずな男」
メティスも心の底から軽蔑をした。
公の場で醜態を晒し、言いたい放題を言うこの男は何所まで自分の事しか考えていないのか。
「ソフィア!」
「婚約解消は成立しましたわ。狂言もいい加減いしてください」
「なっ…誰かに向かって言っている!」
これまで従順だったソフィアが初めて従わなかったことが許せなかった。
「田舎貴族でしかない貴様の婚約者になってやった俺にそんな生意気を言って…お前は俺の言うことを黙って聞いていればいいんだ!黙って聞いて俺の願い通り動けばいいんだ!」
「それはもはや人形ですわ」
「それだけしか価値はないだろう?女は男の道具だ。それが正しいんだ」
ヘリオスはこの場でフリーレン王国の理念を侮辱し、すべての女性を否定している。
「止めぬか!」
「そもそも、社交界のハミダシモノの一族が…貴様など誰も愛されないんだ」
「ヘリオス!」
これまでのストレスをぶつけるように言い放つ。
「ハミダシモノ…確かにそうかもしれぬな」
黙っているソフィアに変わりカディシュが前に出る。
「お父様…」
「確かに不道徳と言われてきた私はハミダシモノだ」
「そっ…そうだ」
「夫婦の形も歪んだ輩とは相いれないだろう」
「は?」
カディシュは妻を失い十年。
他に後妻を迎えることもせず、女遊びをしないことで色々噂を流されていた。
貴族の大半、特に宮廷貴族は妻以外に愛人を囲んでいる。
しかしカディシュは清廉潔白な所があり、妻一筋だったことで有名だ。
「私は甲斐性無しでしょうな。妻一人しか愛せない」
「ハッ、馬鹿な男だ」
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「ええ、私も亡き夫に操を捧げていますもの」
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特に女性で爵位を賜った彼女達は夫を今でも愛していたのだ。
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同時に不貞をして当然だと豪語するリグルを冷めた目で見ていた。
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