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第一章
24変わるもの変わらないもの
しおりを挟む庭園でたわいない話をしながら薔薇を一輪手折り、凍らせる。
「これは…」
「永遠に枯れない花だ」
氷魔法で花を永久に凍らせ差し出す。
「俺の変わらない愛を受け取ってくれるか」
「はい、喜んで」
薔薇を凍らせ意中の相手に送る行為は正式な求婚だった。
これはフリーレン王国の風習である。
「流石に知っていたか」
「フリーレン王国は素敵な風習が多いですから」
「王配殿下が若いころに求婚されてから流行したんだ」
「そうだったの」
本当に仲の良い夫婦だ。
普通王家の夫婦はここまで仲睦まじくない。
「苦労された方だからな。聞けばあの方も決して身分は高くないのだが、品行方正で優秀だったことで本当は養子縁組されるはずだったんだ」
「え?」
「だがあえてお断りされたそうだ。フリーレンの血を守る為に血縁者が王になるべきだと」
「ご立派だわ」
普通なら王座を欲するはずだ。
今でも男尊女卑は酷いので、女性に頭を下げるのを屈辱だと言う者は少なくない。
女王が治める国を良しとしない貴族も多いのだが。
「ああ、そして頭の回転が速い方だ」
「え?」
「表向きな摂政は陛下が行うが、裏工作や交渉は殿下がされている。女性が君主など軟弱だと言う敵国を油断させ無血開城を行っているのも殿下だ」
上手く状況と自分の地位を使い分けている。
「まさしく内助の功だ」
「ある意味、策略家なのね」
「だが、陛下への愛は本物だ」
白いだけでは国を守ることはできない。
時として腹黒いことをしているが、その動力源は愛する妻を守りたい。
「俺はあの方に学んだよ。例えどんなに自分の手を汚してでも守るべきものは守らないといけないと」
「エリオル…」
「俺なんてまだまだだがな」
そっとエリオルの手を握りながらソフィアは思った。
離れている時間はとても長く、その間にどれほどの苦労を重ねて来たのだろうか。
「私が想像するよりもずっと苦しい思いをしていたのね」
「君ほどじゃない」
「比べる事なんてできないわ」
手を握りながら薔薇園を出ていく二人はゆっくり歩いていく。
すっかり大人の男性になってしまったエリオルを見て少し寂しさを感じる。
「どうしたんだ?」
「すっかり大人になってしまったと」
「君もだろう?もう何年になると思っているんだ」
幼いころと同じように行くはずもない。
「変わったものはあるさ…だけど変わらないものもある」
「そうね」
微笑みを浮かべるソフィアは強く手を握り返そうとした時だった。
中庭の方が騒がしいと感じた。
「いいからテレサに合わせろ!」
「困ります!」
甘い空気がぶち壊しになる声が響いた。
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