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第一章
9大賢者
しおりを挟む部屋に入ってきたのは法衣の姿ではなく貴族の装いをしたエリオルだった。
「エリオル?」
「おお、リモージュ侯爵」
「はい?」
国王は今なんと言ったのかと思った。
聞き間違いかと思ったのだ。
「リモージュ侯爵…いや、大賢者殿というべきか」
「大賢者…」
更に眩暈がした。
まさかそんなジョブを手に入れていたなんて知らなかったのだ。
「俺の父親が隣国の侯爵だったんだよ。まぁ隣国に行くまで知らなかったけど」
「そうなの?」
「ああ、母親は平民だけどね。それで隣国で賢者の称号を得た後に大賢者の称号も得た後に家督を継いだ。そうじゃないと奪えないだろ」
「奪う?」
「君を」
ストレートに恐ろしい事を告げた。
確かに合理的であるが、普通は考えないだろう。
「でも…」
「これは同盟を結ぶためだ。でも俺の気持ちもある」
「エリオル」
ずるい言い方だった。
表向きは国を救うためだと言いながら後押ししている。
これならば正当な理由があるので誰も文句は言えない。
むしろ言ったらどうなるか解らないだろうが。
「表向きは同盟の為ということにしている。あの馬鹿にそれ相応の報いを受けさせる」
「お願いします」
「少しばかり痛い目を合わせなければならんからな…そうそう。今回の話を受けるにあたりローゼマリー殿下にも話をしなくてはならん」
「そうですね」
とんとん拍子で話は進み、その後ソフィアの父も交えて話し合いが行われた。
話し合いもめどが立ったころ。
二人は王宮の庭園を歩いていたのだが…
「エリオル、何で言ってくれなかったの」
「その方が驚くだろ?」
「驚いたわ!」
ドッキリさせたかったというエリオルに少し拗ねるソフィア。
それだけびっくりしたのだ。
「言っただろ?ちゃんと地位を貰ったと」
「まさか侯爵だなんて」
「まぁ、祖父には跡継ぎがいないからね。侯爵の地位が欲しいなら大賢者ぐらいなってみろって言われて」
「それ、お父様と同じじゃない」
「本当に苦労したんだ」
なろうと思ってなれるものじゃない。
しかし最短で賢者の称号を得たエリオルだからこそできた芸当だった。
他の人間なら何年、何十年かかっても無理な話だ。
一生かかっても無理かもしれない。
「恐ろしいわ」
「死ぬ気で頑張ったんだ。だから許して」
「うん、許す」
子供のような表情で言うエリオルはまるで母親に許しを求める幼子だった。
本当に大賢者か疑いたくなるような表情だったが、この笑顔が好きだった。
変わったものは多くあるけど、変わらないものがあることがとても嬉しくてたまらなかったソフィアは笑顔を浮かべた。
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