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第一章
6幼馴染
しおりを挟む音楽が奏でられ、エリオルは手を差し出す。
「踊っていただけますか姫君」
「喜んで」
完全に他には目に入っていない。
見守っていたギャラリーは見入ってしまう。
二人のダンスは誰が見ても息ぴったりで、熟練の夫婦でもここまで完璧に踊れるものではない。
「エリオル、どうして」
「隣国で魔物の襲撃を受けた時に、ロゼ…王女殿下が救出してくださったんだが」
「え!」
普通そこに王女が出てくるか?とも思ったが。
身近にお転婆な王女殿下がいるのでありえない話ではない。
「ローゼ・マリー王女殿下は騎士団を動かす権限もある。魔物討伐は自ら赴かれた…というか同じ学校で、俺達は強制的にパーティーを組まされたんだよ」
「ぶっ飛んだ姫様ね」
「ああ、そのおかげで俺もそれなりに強くなった。うちのメンバーは恐ろしいほど強いよ」
心底疲れた表情をするエリオルを見て相当大変だったのだと思った。
その一方で悔しかった。
「どうして連絡くれなかったの」
「君の父君に止められたんだ。婚約が決まった…会うことはできないと。どうしても会いたいなら娘を奪い取れるぐらいの地位を持ち帰れと」
「お父様…そんなことを」
「どうしても娘が欲しくば賢者ぐらいになってみせろ。そうしたら娘をそっくりそのままくれてやると」
かなり無茶な要求だった。
しかしそれぐらいしないと難しい状況だった。
「俺は平民だからね」
「でも、私だって…」
「平民のような暮らしをしても君は貴族だ。だから俺は何が何でも手柄欲しかった。君を迎えにいけるだけの」
エリオルは身分制度をこれほど憎く思ったことはない。
どんなに愛していても自分は平民でソフィアは貴族令嬢だった。
「どんなに思っても君を不幸にすることになる」
「エリオル…」
真実の愛を貫くというのは聞こえはいいが、小説のように簡単なものではない。
一生後ろ指をさされて生きて行かなくてはならないのだから。
「でもタイミングが良かったな・・というかお膳立てをしてもらったんだが」
「誰が?」
「この国のお姫様に」
「殿下…」
そういえば今回の婚約破棄を匂わすような事を言っていたなと思い出す。
まさかこのこととは思わなかったが。
「おいエリオル。いつまで楽しんでいるんだ。私にも彼女を紹介しろ…このヘタレめ」
「王女殿下、邪魔してはなりません」
「お前達、俺の存在を無視するな」
ダンスの一曲が終わると誰よりも早く勇者御一行が声をかけて来たので他の者は声をかけることが叶わなかった。
しかもその中にメティスが加われば完全に不可能だったが、離れた場所で取り残されたへリオルは殺意を向けていた。
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