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第一章
3祈り
しおりを挟む王女宮を出た後にとある場所に来ていた。
女神像が飾られている塔だった。
そこで祈りの舞を舞っていた。
十年間ずっと舞を舞っていたのには理由がある。
「どうか無事で…エリオル」
隣国にいる友を思いだながら今日も祈りの舞を捧げる。
「無事よね…」
まだ王都に来る前の事だ。
ソフィアには仲の良い幼馴染がいた。
相手は平民であるが優しく聡明だった。
勉強をして国の為に人の為に役に立てるように必死で頑張っていた。
隣国に留学し、才能が認められ奨学金を得て貴族が通う学校に通っていると聞くが。
その直後だ。
隣国で魔王軍の襲撃を受けたと聞かされて音信不通になった。
エリオルだけではない。
立派な魔法使いになると言っていた友人も安否が不明だった。
「エリオル、ルクス…」
二人を思わない日はない。
魔物が討伐されても、行く不明になっている人は少なくない。
探したくても隣国、フリーレン王国は大国だった。
簡単に足を踏み入れることはできないし、今は戦後といえど軽はずみな行動はできない。
だから祈るしかない。
「どうか二人を無事に…」
祈るしかできないことが辛かったが、ソフィアにできることは少なかった。
それでも領地を守り被災地に食料を届けて、その食料の中には思い出の果物もあるので二人が食べてくれていると祈るよりほかなかった。
「エリオル…早く帰ってきて」
その場を後にした後にソフィアは邸にてリストを確認した。
「アン、ワインとウィスキーの数は大丈夫かしら?」
「はい、果汁水も問題ありません」
「パイはレモンパイとチェリーパイにするわ」
「かしこまりました」
大急ぎで準備する中、大量の食糧が届く。
「お嬢様、ヘリオス様が馬車を持ち出したようで」
「またなの?」
ここ最近はクラエス家の馬車を勝手に持ち出している。
「ついに馬車を借りるお金すらないのね」
「調子に乗り過ぎですわ」
使用人達からの評価は最悪だが、貴族の婚姻は本人の意思はない。
ソフィアも好きで婚約したのではないのだが、責任から逃れることはできない。
本当は…
『ソフィア、俺が戻ってくるまで待ってて…必ず相応しい男になって戻ってくるから』
幼いころの初恋。
大好きな人との約束だった。
ソフィアも幼かったのだ。
けれど、隣国での魔王軍襲撃を聞かされ絶望的だった。
待っていたかった。
けれど貴族令嬢として敵わなくなったのだ。
小さな国であるアルフェッカ王国は軍事力が弱い。
隣国は責められても守ることができるが、後に他国に頼らなくてはならないだろう。
ソフィアの父も娘の初恋を実らせてやりたかったが泣く泣く縁談を受け入れたのだ。
万一にも他国に捧げられるなんてことはしたくなかったのだ。
だがソフィアにとっては誰であろうと同じだった。
愛する人以外は皆変わらないが、領民の為にも心を殺したのだった。
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