75 / 87
75.誘拐
しおりを挟むこれはどういうこと!
どうして愛がこんな姿を晒されているの!
制服のワイシャツは胸元がギリギリ見えるぐらいまで破れ、顔は殴られた痕。
血が少しついていてゾッとした。
「何だこれは…」
「愛ちゃん!」
スマホの画面を見たお義母様が絶句した。
お義父様も言葉を失っている。
『うっ…』
顔色が悪い。
もしかして何度も殴られている?
貧血気味の表情をしていていてもたってもいられなかった。
『よぉ、久しぶりだな』
「これはどういうことです」
電話口から聞こえて来たのは、今最も会いたくない人で声も聞きたくない人だった。
『随分だな、夫に向かって』
「貴方とは既に離婚が成立していますので他人です」
『だが、元に戻るんだから問題ない』
元に戻る?
何を馬鹿な事を言っているの?
「貴方は莉麻さんと再婚したんでしょう?子供もいるのでしょう」
『あんな女、俺の妻に相応しくない!贅沢ばかりして無駄に金を使うわ、役には立たない!俺の生活をめちゃくちゃにするだけだ!』
「なんてこと…」
自分の都合で身勝手な事をしておきながらなんて無責任なの。
不倫をして、本当に愛する人と一緒になりたいと言って私にあんなことをして愛を散々傷つけて。
『なぁ、やりなおそうぜ?俺達は夫婦としてなぁ?』
『お母さん!こんな男の言う事なんて聞く必要ないわ』
『うるせぇ!』
『きゃあ!』
目の前で愛が殴られ椅子に座った状態で地面に叩きつけられる。
なんて事を!
『てめぇは黙ってろ。お前さえいなければ良かったんだ。お前なんて生まれてこなければ千歳も不幸な目に泡なったんだ。出来損ないの娘なんて産みやがって』
『私だってアンタみたいな紐男を父親に持ちたくなかったわ』
画面越しにも解る。
愛は恐怖よりも怒りを抱いている。
『てめぇ!』
「やめてください!愛に乱暴な真似は…」
『屑男が!アンタなんて誰からも愛されないわよ…あんたみたいな男の方が必要ないのよ!』
だめだわ。
愛も頭に血が上り、あの人を挑発している。
『ぶっ殺されてぇのか!』
服が裂ける音が聞こえた。
『そんなに回されたいなら増してやるよ。二度とそんな口がきけない体にしてネットに流してやる』
流す…
ネットに?
何を何て聞くまでもない。
「貴方は自分の娘に!」
『こんなクソガキなんていらねぇんだよ。なぁ千歳…やり直そうぜ?俺とお前と二人きりで』
狂っている。
この男は頭がおかしくなったのだと思った。
『てめぇ…ふざけんなよ…ぐっ!』
『きゃああ!北条さん!』
「北条君!」
血だらけで倒れている北条君が踏みつけられる。
『このままだとこいつ死んじまうぞ?』
「何が目的です」
なんとかしないと。
早く二人を助けないと危険だわ。
北条君は血を流し過ぎている。
下手すれば命の危険性もあるし、愛を晒し物にされるなんて耐えきれない。
0
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!
つくも茄子
恋愛
伊集院桃子は、短大を卒業後、二年の花嫁修業を終えて親の決めた幼い頃からの許嫁・鈴木晃司と結婚していた。同じ歳である二人は今年27歳。結婚して早五年。ある日、夫から「離婚して欲しい」と言われる。何事かと聞くと「好きな女性がいる」と言うではないか。よくよく聞けば、その女性は夫の昔の恋人らしい。偶然、再会して焼け木杭には火が付いた状態の夫に桃子は離婚に応じる。ここ半年様子がおかしかった事と、一ヶ月前から帰宅が稀になっていた事を考えると結婚生活を持続させるのは困難と判断したからである。
最愛の恋人と晴れて結婚を果たした晃司は幸福の絶頂だった。だから気付くことは無かった。何故、桃子が素直に離婚に応じたのかを。
12/1から巻き戻りの「一度目」を開始しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる