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61.大切な贈り物~姑side
しおりを挟む穏やかな昼下がり。茶室でお茶を飲みながら義父と静かな時間を過ごす。
義父は優れた茶人でもあり、日本芸能をこよなく愛する方で三味線が得意で良く聞かせてもらった。
「静かだな」
「はい」
寂しそうな表情。
最近では物忘れも激しくなりながらも記録して忘れないように努めていた。
「先日の見合いの件だが…このまま進めても良いんじゃないか」
「千歳さんの望む通りに致します」
「ああ、それが良い」
世間では旧姓を名乗って入るけど、宮内の家の籍は残っている。
「あの子は私達に遠慮して足を運ばないが、ちゃんと贈り物をしてくれな。これが届いていたぞ」
「これは…」
「来月は母の日だからな」
箱を開けると中からはスーツと靴が入っている。
普段着物である私だけど洋服も好きだったが着る機会は少なかった。
「お初さんの好きな色だろう?」
「覚えていてくれたのね」
お洒落なスーツで、靴も合わせてある。
水色のスーツに帽子もセットで靴はシルバーですごく綺麗な色合い。
「きっと似合うぞ」
「はい…」
二人で買い物に行った時に立ち寄った服飾店の店で飾られているスーツや靴。
和の物よりも洋の物が好きだったけど口に出して言えなかった。
でも、気づいていたのね。
「私にもスーツと帽子と靴が入っていた」
「まぁ、素敵な色」
スーツの背広を羽織帽子を被る義父。
片手に持っている杖を持てば、英国紳士のように素敵だった。
「優しい子だ…本当に」
「はい、こうなってしまいましたが…優しい嫁でした」
結婚して当初は色々衝突した事もあれど、私はあの子が好きだった。
厳しくしても、親族から舐められないようにとしたことがこんなことになるなんて今も後悔している。
だけど…。
「今度こそは幸せになって欲しいですわ。いいえ、ならなくては」
「愛の教育費は受け取って貰えないだろうが…口座に溜めているんだろう」
「はい」
離婚した以上は受け取れないと返されるも、鬼塚さんとの関係が上手く行った時はお祝いに無理やりにでも受け取って貰おう。
せめてこれぐらいは受け取って欲しい。
「私達にしてあげられるのは金銭的な支援だけです」
「だろうな…」
金銭的な支援でさえ、あの子は遠慮するだろうけど。
でもこれだけさせて欲しいの。
こんな言い方はしたくないけど、お金は合って困る事はない。
勿論恩を着せるつもりは一切ないけど。
そんな時だった。
玄関から夫の怒鳴り声と何かが割れる音が聞こえたのは。
「いい加減にしろ!」
普段穏やかな夫がここまで声を張り上げるなんてありえないと思った私達は急いで部屋を出て行くと。
「何をしに来たのです」
愚息がいた。
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