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60.左遷~良純side
しおりを挟むローンを抱えての生活でも大丈夫だと思っていた。
次のボーナスも入ればどうにかなるはず。
「君は別の支社に移動となる」
「は?」
「聞こえなかったか?君は移動だ。支社にな」
何故俺が支社に移動なんだ。
本社からの移動なんて左遷と同じじゃないか!
「支社にて、現在関わっているハンバーガー店の立て直しをしてもらいたい。無論これは辞令だ」
「私がそんな…」
「解雇にならないだけ有難いと思いたまえ!」
デスクを乱暴に叩かれる。
その所為で書類の山は床に落ちるが、部長の顔がまりにも恐ろしくて何も言えなかった。
「黒木社長を怒らせ、あげくの果てに社長の怒りは相当な物だった…解雇をしないだけ幸せに思いたまえ!君が会社に残りたいならば、与えられた仕事をこなせ。いいな」
「…はい」
拒否権はなかった。
ここで会社を辞めたとしても俺の務めるプラズマプライズは大手の企業だ。
解雇になったなんて知られたら、一流企業は雇って貰えない。
この会社にいるからこそ恩恵を受けていた部分もあるし、タワーマンションに住み続ける事もできなくなる。
なんとしてでも仕事を成功させなくてはならない。
俺が任されたのはかつては老舗パン屋で現在はハンバーガー専門店だ。
しかし、不況により経営が傾いたらしい。
三か月後に開催されるフェスで顧客から一番の評価を受ければ、持ち直す事ができる。
こんなものは楽勝だと思っていた矢先に、あの女がフェスに参加するのを耳にした。
楽しそうに笑い、パン屋で働く姿を見て怒りを覚えた。
あの女の所為で俺がこんな惨めな思いをしているのに!
「千歳さん、そろそろ店じまいにしましょう」
「はい店長」
「今度のフェスは俺達が優勝スよ!このアイデアは誰にも真似できませんって」
店にこっそり侵入し、俺は奴らのアイデアを盗む方法を思いついた。
多少は費用がかさむが、金を使って人を雇い、アイデアを盗んだ。
残念な事にレシピは盗めなかった。
何故ならパソコンにはメニューのデータはあってもレシピノートの字が汚くて読めなかったからだ。
だが、当日に同じ商品が安く売られていたら確実に客は俺達を選ぶだろう。
安全性なんて二の次だ。
貧乏人が望むのは安さと見た目の良さで味なんて解るはずがないのだから。
そう思っていたのに。
アレルギー症状を起こして病院に運ばれたり、食中毒を起こしてしまう事態になった。
そして俺は――。
「今回の責任は全て君にある」
部長に理不尽な扱いを受け、全ての責任を負わされることになるのだった。
会社は勿論解雇されてしまった。
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