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48.懐かしい人達
しおりを挟む突き飛ばされたはずが、痛みが来なかった。
「何処までも下衆な男が」
「いい加減にしろ」
引く声が耳に響く。
この声は――。
「いででで!」
「他所の店に手を出し、あげくの果てに商品を踏みつぶし、あげくの果てに女に手を出すとは下衆の極みだな。死んでもお前は下等生物のままか」
誰かが私を支え、目の前には腕を捻り上げられていた。
「鬼塚君…北条君!」
懐かしい顔ぶれだった。
鬼塚君は以前よりも貫禄が出て、北条君は高校卒業以来だった。
金髪だったのに茶髪になっていた。
「千歳さん怪我は…」
「大丈夫で…うっ!」
突き飛ばされた時に足を挫いてしまった。
「おい、袖が…」
「え?」
腕を思いっきり掴まれた時に袖が破れ痣ができてしまっている。
「暴行を加えたのかお前!」
「いだだだ!」
頭を鷲掴みする北条君。
高校の時から常に喧嘩をしていた彼は力技が強かった。
体育の授業の柔道や、剣道では負けなしだった記憶がある。
「ねぇ、見てよ」
「酷いわね。営業妨害をするだけで飽き足らず。他所のお店の従業員に暴力だなんて」
「あそこのハンバーガを買うのは止めようか」
「そうね」
騒ぎを遠目から見ていた一般客の人達は冷たい目を向けた。
「会場内で暴力行為をしている知らせを受けただが、君か」
「はい、彼が、他所の店の人の営業妨害を行い、暴行を加えていました」
「は?」
「ちょっと!」
彼と一緒に私を馬鹿にしていた彼女と、従業員だと思われる彼等もとばっちりを食らうと思い抗議した。
「私達は関係ありません」
「そうです。この人に暴行を加えていたのは宮内さんと莉麻さんだわ!」
「僕達は関係ありません!」
言い逃れをしようとする彼等だったが。
「君達は見ているだけ止めなかったのか?」
「え…それは」
「だって…ねぇ?」
自分達は関係ないと言うが、傍観していた時点で無関係ではないと厳しい言葉を浴びせる鬼塚君だった。
「そんな中」
「ちょっと!アンタ達!」
背後から声をかけたのは、一般客の女性達だ。
「アンタ達のハンバーガーを食べて息子がお腹を壊したわ」
「私の父は食中毒で倒れたわ!」
「何のこのハンバーガー!脂っこくて食べられた物じゃないし。お肉は傷んでいるじゃない!」
買ったハンバーガーを見せてクレームの荒しとなる。
「そう言われましても…」
「大体、メニューには安心安全とか言って、アレルギー表記もされていないし。私は買う前に牛乳アレルギーだって伝えたわよ!」
「そうよ!どうしてくれるのよ!」
このフェスではアレルギー対応もする事が義務付けられており、売り場に置く際にも最新の注意が必要だった。
「そう言われても自己責任ですし…」
「何よその態度は!謝罪もないわけ…こんな最低な店、星無しよ!最低ランクをつけてやるわ」
「それよりも、どう責任を取ってくれるのよ!」
一人の女性の腕の中でぐったりしている子供がいた。
「奥様、そちらのお子様は…」
「さっき、ハンバーグを食べてアレルギー反応が出たの。少ししか食べてなかったから大事に至らなかったけど。この子は食が細いのに嘔吐なんてしたら…」
泣きそうな表情をする奥様の傍に向かい、私は籠の中に入っている飲み物を出しだす。
「こちらをどうぞ。山羊のミルクと蜂蜜で作った蜂蜜ミルクです。胃が空っぽですと体に悪いです」
「牛乳じゃないの?」
「こちらは牛乳アレルギーの方の為に作った飲み物です。こちらならアレルギー反応はないかと…症状を見たところ、小麦粉アレルギーと魚もアレルギー症状が出ていますので。こちらのお豆腐ハンバーガーはいかがでしょう?ハンズは米粉で作っております」
「ありがとう」
ハンバーガを差し出すと安堵した表情で受け取ってくださった。
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