115 / 133
⑭
しおりを挟む私がエリーゼ様の護衛騎士として働くようになり周りの人間は軽蔑の目で見てきた。
まるで汚いの物を見すような目だった。
これがエリーゼ様が置かれている状況かと思うとあの馬鹿王子に不快感を抱いた。
私達はこれまであんな馬鹿王子を守ろうとしてきたのか。
妻がつらい思いをしているのに見て見ぬふりをして、かと思えば面倒な仕事を押し付ける。
現に今もだ。
「エリーゼ様、その書類は」
「ええ予算の見直しで」
よく見ると筆跡はあの馬鹿王子のものだ。
面倒な計算などはエリーゼ様に押し付け、ほかにも戦死した遺族への手紙もすべてエリーゼ様が書いているのに、あて名はアラクネ様になっている。
「何故このような…」
「私の名前で出せば、また反感を奪います。人気取りもいい加減にしろと…そんなつもりはないのですが」
申し訳なさそうに微笑まれるお姿が痛々しい。
お召し物も質素で寒い冬は寒さをしのぐこともできず薪すら十分に用意されていない。
この状況を殿下は知っているはずだ。
先日のこの離宮に仕えていたメイドがエリーゼ様の待遇の悪さを心配して意見を出したが不敬罪になり王都を追放された。
少しでもエリーゼ様に味方をするものは酷い仕打ちを受ける。
どうしてここまで酷いことができるんだ。
幼少期からともに手を取り合ってきたのではないのか?
殿下はエリーゼ様に情の一つもないのか。
「ルイス、私は大丈夫ですわ」
「しかし!」
「今は貴方もいますでしょ?おかげで寒い冬は暖炉の火で温まることができます。ありがとう」
「…はい」
私は何もできない。
護衛騎士でもできることは限られている。
なのにお礼を言われて情けなくなった。
「私は悔しゅうございます」
「ルイス…」
誰よりも国を思い、尽くしてくださる方を冷遇するなんて。
私の怒りは消えなかった。
そんな中、アラクネ様が離宮に現れた。
婚約時代の時と変わらず声をかけられてきたが、声を聴くだけも嫌悪感が募る。
そして言ってしまいたくなる。
――この悪女が!
――聖女の皮を被った魔女め!
言いたいが必死で言葉を飲み込んだのだ。
それでも私に縋るような目を向けた彼女に軽蔑以外の感情は抱けなかったが、その翌日。
私はエリーゼ様の護衛騎士の任を解かれてしまった。
理由は未婚の男が王太子妃の住まう離宮に寝泊まりするのは外聞が悪いことだったが建前であることが解った。
その挙句迷惑な親切心をひけらかしあの馬鹿王子は私に縁談を持ってきたのだった。
777
お気に入りに追加
3,943
あなたにおすすめの小説


妹がいらないと言った婚約者は最高でした
朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。
息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。
わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。

一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・


勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!
朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。
やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。
迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

今世は好きにできるんだ
朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。
鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!?
やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・
なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!!
ルイーズは微笑んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる