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25とある騎士の独白①
しおりを挟む私は凡庸な男だった。
実家では伯爵家に生まれながらも跡継ぎは長子と決まっている。
跡継ぎになれないならば独立するしかない。
兄と跡目争いをする気はないし、子供に恵まれない叔父夫婦の家に養子縁組をする気はない。
自分の立場を心得ていた。
同時に私は、領主という器ではないことを幼少期から解っていた。
兄は優秀だった。
領主として相応しい器を持っていた。
ただ体が弱いのが唯一の欠点だ。
だからこそ、私は騎士の道を選んだ。
騎士になることは幼少期からの夢であったが同時に兄を守ってあげたかった。
世間では悪く言われているが本当は誰よりも領民想いの優しい人だ。
騎士として身を立てながら兄を陰から支えよう。
そう思っていたが、私が十歳の頃に侯爵家との縁談がまとまった。
相手は貴族派のご令嬢。
身分はずっと上であるが、父と交流があり幼馴染でもある。
侯爵様は男子に恵まれないことから私を婿養子にしたいと望んでいたが、当初は戸惑った。
特に猛反発したのは兄だ。
「一体何をお考えなのです!相手はあの我儘令嬢ですよ!」
「言葉を慎め」
「父上はルイスを邪魔者扱いし、早々に領地から出して援助もなせず…挙句の果てに将来もつぶす気ですか!ルイスにとって騎士は転職なのですよ」
「一介の騎士よりも高位貴族になれるんだ」
「形だけのでしょう。婿養子といっても傀儡にされるのが落ちです」
「子が生まれれば変わるだろう…これは王命だ」
「くっ!」
兄は私の事を心配してくれている。
相手は貴族派であるが王族派とも交流がある。
対する我が家は王族派であるが、辺境伯爵家の直下でもある。
もし私が侯爵家に入った時、兄と対立したらどうなるか。
「ルイス、お前の人生だ。私や父上に義理立てするな…幼馴染だとしても、同情で婚約する必要はない」
「無礼だぞ!」
「父上にとって私もルイスも道具ですからね。生き残るために使える道具は多い方がいいのでしょうが、私は使われるだけの道具ではありません」
「なっ…」
元より父と兄は考えが違い過ぎた。
兄は聡明すぎたのだ。
故に父と反発しているが、父は婿養子故に跡継ぎの決定権を待たないでいた。
兄に当たりが強いのもその所為だが、兄は頭の回転が速く父の嫌がらせも軽くスルーしたのだ。
だが今回は難しい。
「兄上、相手は侯爵家です」
「だが!」
「断ることはできません。ですが、アラクネ様は少し我儘でありますがそんなに悪い方ではありません」
そう現侯爵様よりも素直だ。
手のかかる妹のように思っていたし、ちゃんと話せばわかってくださる。
「それに、騎士を諦める気はありません。すぐに結婚というわけではありませんし」
「解った。だが、無理はするな」
この時はまだ明るい未来を信じていた。
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