寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ

文字の大きさ
上 下
102 / 133

25とある騎士の独白①

しおりを挟む




私は凡庸な男だった。
実家では伯爵家に生まれながらも跡継ぎは長子と決まっている。

跡継ぎになれないならば独立するしかない。
兄と跡目争いをする気はないし、子供に恵まれない叔父夫婦の家に養子縁組をする気はない。


自分の立場を心得ていた。
同時に私は、領主という器ではないことを幼少期から解っていた。

兄は優秀だった。
領主として相応しい器を持っていた。

ただ体が弱いのが唯一の欠点だ。
だからこそ、私は騎士の道を選んだ。

騎士になることは幼少期からの夢であったが同時に兄を守ってあげたかった。
世間では悪く言われているが本当は誰よりも領民想いの優しい人だ。


騎士として身を立てながら兄を陰から支えよう。
そう思っていたが、私が十歳の頃に侯爵家との縁談がまとまった。


相手は貴族派のご令嬢。
身分はずっと上であるが、父と交流があり幼馴染でもある。


侯爵様は男子に恵まれないことから私を婿養子にしたいと望んでいたが、当初は戸惑った。


特に猛反発したのは兄だ。



「一体何をお考えなのです!相手はあの我儘令嬢ですよ!」

「言葉を慎め」

「父上はルイスを邪魔者扱いし、早々に領地から出して援助もなせず…挙句の果てに将来もつぶす気ですか!ルイスにとって騎士は転職なのですよ」


「一介の騎士よりも高位貴族になれるんだ」

「形だけのでしょう。婿養子といっても傀儡にされるのが落ちです」

「子が生まれれば変わるだろう…これは王命だ」

「くっ!」


兄は私の事を心配してくれている。
相手は貴族派であるが王族派とも交流がある。

対する我が家は王族派であるが、辺境伯爵家の直下でもある。


もし私が侯爵家に入った時、兄と対立したらどうなるか。


「ルイス、お前の人生だ。私や父上に義理立てするな…幼馴染だとしても、同情で婚約する必要はない」

「無礼だぞ!」

「父上にとって私もルイスも道具ですからね。生き残るために使える道具は多い方がいいのでしょうが、私は使われるだけの道具ではありません」


「なっ…」


元より父と兄は考えが違い過ぎた。
兄は聡明すぎたのだ。


故に父と反発しているが、父は婿養子故に跡継ぎの決定権を待たないでいた。
兄に当たりが強いのもその所為だが、兄は頭の回転が速く父の嫌がらせも軽くスルーしたのだ。


だが今回は難しい。


「兄上、相手は侯爵家です」

「だが!」


「断ることはできません。ですが、アラクネ様は少し我儘でありますがそんなに悪い方ではありません」


そう現侯爵様よりも素直だ。
手のかかる妹のように思っていたし、ちゃんと話せばわかってくださる。

「それに、騎士を諦める気はありません。すぐに結婚というわけではありませんし」


「解った。だが、無理はするな」


この時はまだ明るい未来を信じていた。


しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

妹がいらないと言った婚約者は最高でした

朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。 息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。 わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。 やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。 迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。 怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。 マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。 だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

今世は好きにできるんだ

朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。 鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!? やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・ なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!! ルイーズは微笑んだ。

処理中です...