85 / 133
③
しおりを挟む医学が進んだ国からすれば私の祖国の医療は時代遅れだった。
基本、マリンパレスでは人間の治癒力を高めるのを優先する。
だから滅多に風邪を引くこともなく抵抗力も強い。
薬に頼るよりも自然治療をすることが多いのだ。
だからこそ、アグナレス王国の貴族はちょっとしたことで医者に診てもらうのが驚いた。
薬に頼りすぎたり、魔導士に治癒魔法を使ってもらったりと。
自身の治癒力を知らないでいるのだと思った。
アグナレス王国だけでなく、医療先進国でもそうだ。
「他所の国の方々は、自己治癒能力が少ないのね」
「薬や回復魔法に頼り過ぎているのが当たり前になっているのですわ」
「それはある意味危険だわ」
薬や回復魔法にたよりきっていることになる。
それに魔法は無限じゃないわ。
何時か使えなくなったらどうするのか。
「魔法に依存してばかりの方が多いのです。ですから教皇様も過度な治癒魔法は禁じているのですが」
「反発する方がいるのね」
「他国では回復魔法の方が早いと」
効率を選ぶのは悪い事じゃないけど、リスクもあるのだけど。
「あっ…動いたわ」
「まぁ!」
膨れたお腹を触ると、我が子が動いたのが解る。
「元気な子だわ」
「ええ」
女の子かしら?
男の子かしら?
まだ性別は解らないけど、早く生まれて欲しいわ。
なんて思っていたのだけど。
「アルバシア様、何です。この箱は」
「ベビー服だそうだ」
「性別はまだ決まっておりませんが」
「ああ、そう伝えたんだが。女王陛下から…」
隣国の女王陛下か。
「兼用で着れるようにしたと。足りなかったらまだ追加を贈ると」
「追加…」
既に部屋を埋め尽くす程の贈り物にまた追加されるのか。
「限度を知らないのですか」
「相手は女王陛下だ…」
これが王族か高位貴族なら解る。
でも私の地位ではどうなんだろうか。
「だが、私達の子を喜んでくださっていることは嬉しい」
「ええ」
私達の子。
男の子でも女の子でもいい。
元気に生まれてきて欲しい。
そう思いながら私達は幸せを感じていた。
少し前まではこんなにも幸せになるなんて思わなかったのに。
1,116
お気に入りに追加
3,943
あなたにおすすめの小説

妹がいらないと言った婚約者は最高でした
朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。
息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。
わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。

一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・


勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!
朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。
やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。
迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

今世は好きにできるんだ
朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。
鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!?
やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・
なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!!
ルイーズは微笑んだ。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる