50 / 133
②
しおりを挟む私を申し訳なさそうに見る目は普段のルリ様らしくない。
何時も堂々としていて凛々しい彼女にはこんな表情は似つかわしくない。
「姫…すまない」
「ルリ様が謝られることはありません」
「しかし!」
自己犠牲なんかじゃない。
これは私が望んだことなのだから。
何より。
「ムカつきました」
「え?」
「国の為だと言いながら一人にすべてを押し付ける何と愚かで情けない王族に」
「姫…」
私が他国のやり方に口を挟むのはおかしい。
だけど、犠牲にされた者の気持ちはどうなるの?
自分達だけ安全な場所にいて、何一つ顧みようとしない。
「私、結構怒ってますの」
「そうなのか」
「はい、これまで心を殺して生きてまいりましたが、ここにきてようやく心を取り戻しました」
かつて私は感情を持ってはならなかった。
国情勢の違和感を考えてはいけない状況にあった。
だけど胸の中でいつも変だと思っていた。
政治を担う者達は自分の保身しか守らず、世界の断りを乱して、世界の平和だと訴えながら犠牲者を前提とした戦略や、国民を犠牲にして貴族の生活を守ろうとする考えがおかしいと思っていた。
「イフリートにお説教をしてまいります。大丈夫です。いざという時はマクシミリアン様を盾にして逃げます」
「おぃぃ!何普通に俺を盾にしようとしてんだよ!」
「半分冗談です」
「半分本気かよ」
逃げることはしない。
でも、少しの冗談でルリ様を安心してもらいたい。
「ありがとう姫」
「ルリ様」
「どうか無事で戻ってきてくれ」
抱きしめられた時に私を抱く手が震えていた。
泣きたくても泣けないなんて悲しい。
こんなにも優しい人を死なせてはダメだ。
「では準備は良いか」
「はい!」
「エリーゼ!必ず無事で帰って来てくれ」
足元が光る中、アルバシア様にかけられた言葉に笑顔で返事をする。
「はい、必ず生きて戻ります」
「おい!マニゴルド、万一エリーゼの体に傷一つでも残してみろ!私の奥義で八つ裂きにしてやるからな!」
今…ルリ様に名前を呼ばれた?
今までは姫と呼ばれていたのに。
「お前ら!少しは俺を心配しろ…どわぁぁ!俺の体!」
「無駄口をたたくと魂と体が粉々になるぞ」
「こんのぉクソ爺!」
一瞬の出来事で私達は体から魂が抜けた状態で精神の世界に誘われた。
1,128
お気に入りに追加
3,939
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

愛せないと言われたから、私も愛することをやめました
天宮有
恋愛
「他の人を好きになったから、君のことは愛せない」
そんなことを言われて、私サフィラは婚約者のヴァン王子に愛人を紹介される。
その後はヴァンは、私が様々な悪事を働いているとパーティ会場で言い出す。
捏造した罪によって、ヴァンは私との婚約を破棄しようと目論んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる