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3君がいない王宮~エルバートside
しおりを挟む翌日、王都日報は王太子妃が大戦の英雄に下賜された報道が大きく取り上げられた。
世界を救った英雄に同盟国、友好国は多額の資金と領土を差し出すのが暗黙の了解だった。
だけど我が国からは金貨一枚も渡すことなく、領土も差し出すことはなく、今後もクラリス聖教皇国はあくまで友好国という形を取った事で非難の声が上がった。
しかも王太子妃を下賜するなんてことは前代未聞で、他国からしばらくの間い冷たい目を向けられた。
それどころか、戦争時は団結をしていた辺境地の貴族達が最近は会議でも王家に対して否定的だった。
「陛下、このままでは国民は餓死するでしょう。戦死した騎士の遺体も早く見つけなくては」
「税金をこれ以上上げては民の不満は爆発するでしょう。他国からの援助はもはや受けられないでしょうし」
意見を出したのは北の辺境伯爵と西の辺境伯爵だ。
双方ともに国土を守る役目を担っているのだが、王家に対して忠誠を誓っているとはいい難い。
「王妃陛下、どうお考えなのかご意見を言聞かせください。戦後の爪痕は未だに酷く、瘴気が充満している」
「その件に関しては…」
「王都の結界を強化してもその他は結界を強いてくれないのかと私の方に手紙が届きました。戦時中に送られた物資がぱたりと止まったと」
「物資?なんのこと…」
アラクネはキョトンとした表情をする。
被災地に物資を送っていたのは…
「何故そんなことをする必要があるのです?戦死した遺体に関しても王家がすることではないわ」
「王家がすることではない?」
「ならばせめて追悼慰霊団を再び」
「そんなことは修道女にさせればいいでしょう。わざわざ騎士団を派遣する必要はありません」
「貴女は…」
追悼慰霊団。
過去に戦場で亡くなった騎士を静かに眠らせるために戦場に赴き墓を整え、祈りをささげていた。
しかし費用の無駄だと経費削減になったが、エリーゼが寄付を集めて活動をしていた。
ここ半年は活動を許可していなかったが、戦争が激しくなり活動は危険だったこともあり護衛騎士を派遣する余裕もないと断念したが、本当は費用の無駄だったからだ。
追悼慰霊団の活動費はエリーゼが寄付を呼び掛けていたが母上が有意義に使うべきだと黙って別の事に使った。
「それに戦争が終わったとなれば聖地巡礼もしていただかなくては…被災地に手紙を送ってくださったアラクネ様に是非領主が」
「手紙?」
「はい、この度の戦争で戦死したギルド達の奥方に何度も手紙を」
「何のこと?私は手紙なんて一度も出していないわ」
「そうだ。何故そんな手紙を出す必要がある。第一私達が何故そんなものに手紙を出す必要が…」
その時だった。
私の言葉を遮るようにデスクを叩いたのは北の辺境伯爵だった。
「陛下、今なんと申しました」
「陛下は国民の命はどうでもよいと…ギルド達はこの度の戦争で危険も承知で戦場に行きました。子もいる者もいたというのに…残された者等どうでもよいと」
「なんと惨い事を。我ら辺境伯爵家もいざという時は捨て石ということですな」
「国王陛下ともあろう方が」
何故だ。
私は彼らに何か気に障るようなことを言ったのか。
「こちらの手紙に見覚えはありましょうか、アラクネ様」
「ないわ。この手紙…」
「これは」
字を見ると古語で書かれていた。
「この文字は…」
「手紙が送られた領地は建国する前から住んでいる者達です。いわば我が国の最古の貴族です」
通常は母国語なのだが、この手紙に書かれているのは外国語だ。
「定期的にこの手紙を書いていたのはやはり姫様でしたか」
「ええ…」
姫様だと?
思えば辺境伯爵達はエリーゼに対してずっと姫様と呼んでいた。
国が焼け野原となった後も、現在では既に王太子妃でもないというのに今でも敬意を持っているようだった。
その意味が私には解らなかった。
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