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②
しおりを挟む聖女は平和の象徴だった。
戦争時は聖女が重宝され、王の権威を強くさせるにも絶対必要だった。
侯爵令嬢の肩書もあり聖女である肩書。
片や私は亡国の姫で肩書を失い、夫婦となった後も白い結婚のままだった。
世継ぎを産めない妃は王宮内では価値もないも同然だった。
これ以上王宮にいる必要もない。
だから私は何度も進言したのだから。
「殿下、私はもうお役に立てません。ですから…」
「何度も言わせるな。出家なんて認めない。そんなみっともないことを!」
「出家して聖職者になるのが何故みっともないのですか」
私は聖職者になる事が悪い事ではない。
女神様に仕え祈りながら生活をするのだから。
「殿下落ち着きくださいませ。エリーゼ様は精神的に病んでいるのです」
「だが、この状況下で勝手すぎる。出家してしまえば楽隠居できると考えるなんて!見損なったぞ。今でも何もしないでのうのうと暮らしているというのに」
私がのうのうと暮らしている?
「言いたくないが修道女なんて無銭飲食と同じだ。神に祈ると言いながら…」
「殿下…貴方様は聖職者の皆様をそのようにお考えだったのですか」
「何だその目は!」
ずっと反論しなかった私に殿下は怒りを露わにした。
婚約時代も私は口答えをすることはなかったけれど、聖職者を侮辱する行為は許せない。
「殿下、落ち着きくださいませ。エリーゼ様の故郷は信仰心が強い国ですわ。ですがエリーゼ様、世界情勢をお考えくださいませ」
「聖女としての重圧に耐えているアラクネに申し訳ないと思わないのか!君の代わりに王太子妃の役目を担ってくれているのに!」
「殿下…良いのです。私は殿下の…国の役に立てるならこの身を捧げます」
涙を浮かべながらも私を見る目は蔑んでいる。
口元に笑みを浮かべている。
「なんて酷いのかしら」
「まるで魔女のようだわ」
「アラクネ妃がお可哀想だわ」
「本当に…」
傍に控える侍女は私を睨む責めるようだった。
侍従も騎士も私の発言は嫌な仕事から逃げたいがための口実だと信じて疑わない。
私はそんなつもりはない。
妃一人の生活費は税金で賄われている。
ただでさえ赤字国でもあるのにこれ以上国民を苦しめたくない。
それならば出家した方がいいと思ったのだ。
「少しはアラクネを見習ったらどうなんだ!」
私との間には愛はない。
元より政略結婚であったが、愛情が生まれ絆が生まれていた。
だけど、そんなもの風前の灯でしかない。
私達の間に既に情はなくなっているのだから。
ならば手放してくれればいい。
だけど、それを拒んだのはアラクネ妃だった。
「私が妃になったばかりに…お許しください」
「何を言うんだアラクネ」
「だってそうでございましょう?離宮に追いやられ、肩身の狭い思いをさせてしまって…ですが私は戦争が終結したら身を引くつもりですわ。ですから…」
「アラクネ…君はなんて人だ」
目の前でアラクネ妃を抱きしめ方を抱きながら零れる涙を唇で拭う行為に私は嫉妬心を抱くこともない。
茶番劇でも見せられているのか。
そんな最低な事を思うようになった私は…
「アラクネ様はやはり聖女様ですわ」
「何所までお優しいのか。それに引き換え鬼畜外道ではありませんかエリーゼ姫」
「まさしく悪女だ」
そう、彼らの言うような悪女なのかもしれない。
アラクネ妃に思う所はあるけど、彼女が国の為に身を捧げていたのは本当だし。
国の為に何一つ貢献できず祖国が焼かれても離宮に引っ込むしかない私にいら立ちを感じているのは仕方ない事だと思ったのだ。
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