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side マルティナ② あり得たかもしれない風景
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「はー、いい天気だなぁ……」
マルティナは紅茶を飲んで一息ついた。天気も良くて、自然の広がるこの土地はとても気持ちがいい。空の青と木々や芝生の緑の色彩の対比が美しい。家族でピクニックに来たという状況だったら、もっとこの開放感ある景色を素直に楽しめたかもしれない。アイリーンの夫の生家のレッドフォード公爵家の辺境にある村の一つらしい。アイリーンとクリストファーが暮らしているというこじんまりとした屋敷のテラスで優雅にお茶をしているところだ。大きくて素朴なテーブルに、マルティナ夫婦とリリアン夫婦が並んで座り、対面する位置にアイリーン夫婦が座っている。
「アイリーンは紅茶は止めておいたほうがいいんじゃないか?」
「たまにはいいでしょう? 私の分だけハーブティーを淹れるもの手間じゃない」
「私もアイリーンと同じものを飲むから大丈夫だ。用意してもらおう」
「相変わらず、過保護だなぁ。二人目だし、体調もいいし大丈夫なんじゃないの?」
「マシュー、出産は命掛けなんだぞ! 気を付けても気を付けても足りないくらいだ。マシューは本当にのん気だな……そんなんで伯爵家の当主が務まるのか?」
「公爵家を投げ出した人に言われたくないね。物事を継続するコツは、適当にやることだぞ!」
「なるほど、それも一理あるか……」
「クリストファー、マシューの言うことを真に受けちゃだめよ」
「でも、マシュー様も時々、ほんの時々ですが物事の核心をつきますよね。奥様、ハーブティーが入ったようですよ。その紅茶は口もつけていないようですし、僕がいただきますよ」
アイリーン夫婦の隣に座ってマシューは楽し気に会話している。その親し気な様子から、マシューと姉夫婦の距離が近いのが伝わってきた。マシューの横には、クリストファーによく似た神父服に身を包んだ青年が座っていて、なにくれとなくアイリーンの世話をしている。この国にいた頃は、いつもマルティナの味方をしてくれていたマシューが姉と親し気にしているのを見て、胸がざわざわする。
「マルティナ、リリアン、詳しい説明もせずに連れてきちゃってごめんね。アイリーンがクリストファーと結婚した後、次期公爵夫人失格の烙印を押されて、公爵家の辺境に幽閉されて、その五年後に病で亡くなったって話は聞いているよね。クリストファーも事故で亡くなったことになっている。簡単に言うと二人は亡くなった事になっていて、二人レッドフォード公爵家の籍には入っていない。ただの村人として暮らしているんだ。夫婦として」
マルティナがじっと見ている視線に気づいたマシューが簡単に姉の身に十年間にあったことを簡単に説明してくれた。クリストファーは婚約者であった時代も、アイリーンを溺愛していると噂になっていたが、こんなにも自分の気持ちを態度や言葉で表す人ではなかった。子どもを宿しているのであろうアイリーンの身を気遣い、アイリーンに愛おしそうに触れる、その様子から姉を大事にしているのが伝わってくる。テーブルで給仕してくれる侍従や侍女達も微笑ましくアイリーン夫婦を見守っている。アイリーンは自分を大切に思ってくれる人に囲まれて幸せに暮らしているのであろう。マルティナは無意識に自分のお腹をなでた。
「ふーん……。アイリーン姉様の子ども、名前なんていうの?」
リリアンはマシューの話に興味なさそうに相槌を打った。リリアンは母の墓参りでも、アイリーンに対面してもまるで他人事のように淡々としている。
「デイジーよ」
マルティナははっとして、アイリーンの顔を見る。マルティナ達の亡き母親の名前はマーガレット。デイジーはマーガレットにとてもよく似た花だ。たまたまなのか、わざとなのか……。柔らかく微笑むアイリーンの顔を見ても答えはわからない。マルティナ達のいるテラスから少し離れた場所で、仲良く遊ぶ子ども達を見る。綺麗な花が咲き乱れる傍らの青々とした芝生の上で座り込んで熱心に花冠を作っている。アイリーンの娘のデイジーは、娘のローレンと同じくらいの年頃に見える。デイジーはアイリーンの小さな頃にそっくりな美少女だ。膝には少し年の離れたリリアンの娘のエルシーを乗せている。二人は先ほど会ったばかりとは思えないくらい打ち解けて、たまに笑ったりしながら、手を動かしている。今回の旅になぜか同行しているエリックの母のナディーンに時折作り方を教えてもらったり、アドバイスをもらっているようだ。自分達三姉妹の生んだ子どもは、くしくも三人とも女の子で、まるで仲の良い姉妹のように見えた。もしかしたら、自分達もああだったのかもしれないと思わせる風景だった。マルティナの胸の奥がツキンと痛んだ。
マルティナは紅茶を飲んで一息ついた。天気も良くて、自然の広がるこの土地はとても気持ちがいい。空の青と木々や芝生の緑の色彩の対比が美しい。家族でピクニックに来たという状況だったら、もっとこの開放感ある景色を素直に楽しめたかもしれない。アイリーンの夫の生家のレッドフォード公爵家の辺境にある村の一つらしい。アイリーンとクリストファーが暮らしているというこじんまりとした屋敷のテラスで優雅にお茶をしているところだ。大きくて素朴なテーブルに、マルティナ夫婦とリリアン夫婦が並んで座り、対面する位置にアイリーン夫婦が座っている。
「アイリーンは紅茶は止めておいたほうがいいんじゃないか?」
「たまにはいいでしょう? 私の分だけハーブティーを淹れるもの手間じゃない」
「私もアイリーンと同じものを飲むから大丈夫だ。用意してもらおう」
「相変わらず、過保護だなぁ。二人目だし、体調もいいし大丈夫なんじゃないの?」
「マシュー、出産は命掛けなんだぞ! 気を付けても気を付けても足りないくらいだ。マシューは本当にのん気だな……そんなんで伯爵家の当主が務まるのか?」
「公爵家を投げ出した人に言われたくないね。物事を継続するコツは、適当にやることだぞ!」
「なるほど、それも一理あるか……」
「クリストファー、マシューの言うことを真に受けちゃだめよ」
「でも、マシュー様も時々、ほんの時々ですが物事の核心をつきますよね。奥様、ハーブティーが入ったようですよ。その紅茶は口もつけていないようですし、僕がいただきますよ」
アイリーン夫婦の隣に座ってマシューは楽し気に会話している。その親し気な様子から、マシューと姉夫婦の距離が近いのが伝わってきた。マシューの横には、クリストファーによく似た神父服に身を包んだ青年が座っていて、なにくれとなくアイリーンの世話をしている。この国にいた頃は、いつもマルティナの味方をしてくれていたマシューが姉と親し気にしているのを見て、胸がざわざわする。
「マルティナ、リリアン、詳しい説明もせずに連れてきちゃってごめんね。アイリーンがクリストファーと結婚した後、次期公爵夫人失格の烙印を押されて、公爵家の辺境に幽閉されて、その五年後に病で亡くなったって話は聞いているよね。クリストファーも事故で亡くなったことになっている。簡単に言うと二人は亡くなった事になっていて、二人レッドフォード公爵家の籍には入っていない。ただの村人として暮らしているんだ。夫婦として」
マルティナがじっと見ている視線に気づいたマシューが簡単に姉の身に十年間にあったことを簡単に説明してくれた。クリストファーは婚約者であった時代も、アイリーンを溺愛していると噂になっていたが、こんなにも自分の気持ちを態度や言葉で表す人ではなかった。子どもを宿しているのであろうアイリーンの身を気遣い、アイリーンに愛おしそうに触れる、その様子から姉を大事にしているのが伝わってくる。テーブルで給仕してくれる侍従や侍女達も微笑ましくアイリーン夫婦を見守っている。アイリーンは自分を大切に思ってくれる人に囲まれて幸せに暮らしているのであろう。マルティナは無意識に自分のお腹をなでた。
「ふーん……。アイリーン姉様の子ども、名前なんていうの?」
リリアンはマシューの話に興味なさそうに相槌を打った。リリアンは母の墓参りでも、アイリーンに対面してもまるで他人事のように淡々としている。
「デイジーよ」
マルティナははっとして、アイリーンの顔を見る。マルティナ達の亡き母親の名前はマーガレット。デイジーはマーガレットにとてもよく似た花だ。たまたまなのか、わざとなのか……。柔らかく微笑むアイリーンの顔を見ても答えはわからない。マルティナ達のいるテラスから少し離れた場所で、仲良く遊ぶ子ども達を見る。綺麗な花が咲き乱れる傍らの青々とした芝生の上で座り込んで熱心に花冠を作っている。アイリーンの娘のデイジーは、娘のローレンと同じくらいの年頃に見える。デイジーはアイリーンの小さな頃にそっくりな美少女だ。膝には少し年の離れたリリアンの娘のエルシーを乗せている。二人は先ほど会ったばかりとは思えないくらい打ち解けて、たまに笑ったりしながら、手を動かしている。今回の旅になぜか同行しているエリックの母のナディーンに時折作り方を教えてもらったり、アドバイスをもらっているようだ。自分達三姉妹の生んだ子どもは、くしくも三人とも女の子で、まるで仲の良い姉妹のように見えた。もしかしたら、自分達もああだったのかもしれないと思わせる風景だった。マルティナの胸の奥がツキンと痛んだ。
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