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2 私が私の気持ちに気づくまでの日々
12 ちょっと一休み
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それから、リリアンはしばらくお店を休む事にした。
チェルシーとエリックにデザインが思いつかなくなっている事は伏せたがそれ以外の理由は隠さずに全部話した。エリックのリリアンへのアプローチが原因で、年頃の従業員との間がギスギスしている事。最近入った事務員の子の当たりが強い事。ただ、その子の言うように、リリアンだけ事務的な事や面倒くさい事を免除されているようにも見えて、きっと他の従業員にも不満が溜まっているであろう事。
「ごめんね、リリアン。私がお店にあまりいないせいで、そういった事に気づいていなかったわ。今、そんな事になっているのね……」
チェルシーから謝られて、リリアンは頭を横に振る。
「ごめんなさいね。アタシが原因でもあるのね……リリアンに最近、周りの当たりが強いと思っていたけど、そういう事だったのね……。きっとチェルシー姉さんやアタシの前では取り繕っていただろうし……リリアン、辛かったわね。言ってくれてよかったわ」
なぜかエリックの方が泣きそうな顔をしていて、申し訳ない気持ちになる。
「エリックの態度が変わったのがきっかけではあるけど、きっとみんな、私がチェルシー姉さんやエリックに特別扱いされているのにどこか不満があったんだと思う。それが表面に出ただけだよ。私もいい年だし、どう働くのか、どこで働くのかちゃんとこの機会に考えてみようと思うの」
チェルシーやエリックの態度や言葉はリリアンを心底気遣ってくれるもので、母上の言う通り、二人はちゃんと家族としてリリアンを思ってくれているのがわかった。
リリアンは、二人をまっすぐに見て、自分の意思を告げた。そろそろ姉離れ、エリック離れをしなければいけない時期なのかもしれない。
◇◇
お店を休むと決めたら、少し気持ちが軽くなった。やはり、店の雰囲気や他の従業員の態度はかなりリリアンにとって重荷だったようだ。
最近は、母上に付いて色々な人の話を聞きに行ったり、一人で布や素材のお店に行ったり、ケイリーの花屋に遊びに行ったり、マルティナやエミリーの家に顔を出して子ども達と遊んだり、気ままに過ごしている。
「チェルシーとエリックのお店で働くようになってから、碌に休んでなかったものねー」
今日も母上とのんびりランチをしていたら、そんな事を言われる。
「確かに……。楽しかったから、気にならなかったけど、ずっと服やデザインに埋もれるように暮らしていたのかも……」
思い付きで動くチェルシーとそれに振り回されるエリックという忙しない二人につられて、リリアンもずっと働き詰めだった。服もデザインも大好きだし、居心地も良かったから全然苦ではなかったけど。
「人生ね、立ち止まる事も必要よ。立ち止まるのって、すごく勇気がいるけどね。でも、時々立ち止まって、自分の気持ちを確認して、広い視点で物事を見るのも大事よ。もうすぐ、リリアンも十六歳だし、いい機会なんじゃないかしら?」
「確かに。たぶん、色々と問題が出てこなくても、なにか行き詰るようなもやもやする感覚はあったかもしれない。あのお店から離れたら、自分にはなんにもなくなっちゃうとか、デザインがなかったら私はなんの価値もないって思っちゃってた。エリックの気持ちもうれしいけど、どこか受け身だったのかも……」
食後の紅茶を飲みながら、リリアンはちゃんと自分の気持ちや今後どうしたいのか考えていこうと思った。
エリックが今、リリアンをどう思っているのかわからない。今でもリリアンを好きなのか? 本気で好きなのか? それとも、他の人に心変わりしたのか? それでも、まずエリックの気持ちは置いておいて、それに流されずに、自分はエリックをどう思っているのか考えてみようと思った。
まずはエリックとの関係性をはっきりさせてから、仕事について考えよう。一つずつ解決していこう。そう思ったら、この状況から抜け出せるかもしれないと希望が少し湧いてきた。
それから、しばらく自分の好きなように過ごしながら、自分の気持ちを見つめ、リリアンなりに答えが見つかった気がした。
◇◇
「悩めるお年頃のお嬢さん、それで、結論は出たの? 仕事だとか恋だとかの?」
ケイリーが観葉植物の世話をしながら、楽しそうにリリアンに尋ねる。お店を休んでから、ケイリーにも仕事のことやエリックのことを洗いざらい話していた。
「うん。母上とゆっくり話してたら、すっきりしてきて……」
「あー、ナディーンさんって不思議なところあるよね。聞き上手というか……」
ケイリーの務める花屋のオーナー兼店長であるマダムとナディーンが友達らしく、マダムとナディーンと時折お茶をしているので、ケイリーもナディーンと面識がある。
「エリックの気持ちはわからないんだけどね……」
「いいじゃない。前はエリックさんの気持ちもわからない、自分の気持もわからないだったけど、今はリリアンの気持ちはわかったんでしょう? 相手の気持ちがわからないなら、余計に自分の気持をオープンに伝えたほうがいいよ」
「うん。自分の気持をそのまま伝えてみるよ。怖いけど」
「うん。リリアンは正面から行く方がいいと思うよ。恋の駆け引きとかテクニックで、自分の気持ちを見せない方がいいとか言われたりもするけど、リリアンにはオープンに行く方が似合ってる。エリックさんの気持ちはわからないけど、リリアンの気持ちを聞いて無下にする人じゃないでしょ?」
ケイリーにからっと笑って言われるとリリアンの気持ちも軽くなる。
「そうだね。そうしてみる。仕事については、デザインのアイディア浮かばなくなったことも含めて、家族のみんなに話して、アドバイスをもらおうと思うの」
「いいじゃない。いいじゃない。せっかくプレスコット家っていう恵まれた環境にいるんだからね。使えるものは全部使っていけばいいのよ」
将来について悩み初めてから、ずっとリリアンはみんなに頼らず早く自立しなければ、一人でなんとかしなければと焦っていた。でも、結局どうすることもできなくて頭の中で問題を拗らせるばかりだった。だから、もう甘えられるところは甘えてしまおうと開き直ったのだ。自分にはできない事がたくさんある。考えることも得意じゃない。だから、できる人に頼って、知恵をもらって、自分でできる事をがんばろうと思ったのだ。そうと決めたら気持ちがすっきりとした。
「いい顔してるよ。リリアンはそうやって笑ってるのが一番いいよね」
ケイリーの笑顔に後押しされて、リリアンはさっそく行動に移すことにした。
チェルシーとエリックにデザインが思いつかなくなっている事は伏せたがそれ以外の理由は隠さずに全部話した。エリックのリリアンへのアプローチが原因で、年頃の従業員との間がギスギスしている事。最近入った事務員の子の当たりが強い事。ただ、その子の言うように、リリアンだけ事務的な事や面倒くさい事を免除されているようにも見えて、きっと他の従業員にも不満が溜まっているであろう事。
「ごめんね、リリアン。私がお店にあまりいないせいで、そういった事に気づいていなかったわ。今、そんな事になっているのね……」
チェルシーから謝られて、リリアンは頭を横に振る。
「ごめんなさいね。アタシが原因でもあるのね……リリアンに最近、周りの当たりが強いと思っていたけど、そういう事だったのね……。きっとチェルシー姉さんやアタシの前では取り繕っていただろうし……リリアン、辛かったわね。言ってくれてよかったわ」
なぜかエリックの方が泣きそうな顔をしていて、申し訳ない気持ちになる。
「エリックの態度が変わったのがきっかけではあるけど、きっとみんな、私がチェルシー姉さんやエリックに特別扱いされているのにどこか不満があったんだと思う。それが表面に出ただけだよ。私もいい年だし、どう働くのか、どこで働くのかちゃんとこの機会に考えてみようと思うの」
チェルシーやエリックの態度や言葉はリリアンを心底気遣ってくれるもので、母上の言う通り、二人はちゃんと家族としてリリアンを思ってくれているのがわかった。
リリアンは、二人をまっすぐに見て、自分の意思を告げた。そろそろ姉離れ、エリック離れをしなければいけない時期なのかもしれない。
◇◇
お店を休むと決めたら、少し気持ちが軽くなった。やはり、店の雰囲気や他の従業員の態度はかなりリリアンにとって重荷だったようだ。
最近は、母上に付いて色々な人の話を聞きに行ったり、一人で布や素材のお店に行ったり、ケイリーの花屋に遊びに行ったり、マルティナやエミリーの家に顔を出して子ども達と遊んだり、気ままに過ごしている。
「チェルシーとエリックのお店で働くようになってから、碌に休んでなかったものねー」
今日も母上とのんびりランチをしていたら、そんな事を言われる。
「確かに……。楽しかったから、気にならなかったけど、ずっと服やデザインに埋もれるように暮らしていたのかも……」
思い付きで動くチェルシーとそれに振り回されるエリックという忙しない二人につられて、リリアンもずっと働き詰めだった。服もデザインも大好きだし、居心地も良かったから全然苦ではなかったけど。
「人生ね、立ち止まる事も必要よ。立ち止まるのって、すごく勇気がいるけどね。でも、時々立ち止まって、自分の気持ちを確認して、広い視点で物事を見るのも大事よ。もうすぐ、リリアンも十六歳だし、いい機会なんじゃないかしら?」
「確かに。たぶん、色々と問題が出てこなくても、なにか行き詰るようなもやもやする感覚はあったかもしれない。あのお店から離れたら、自分にはなんにもなくなっちゃうとか、デザインがなかったら私はなんの価値もないって思っちゃってた。エリックの気持ちもうれしいけど、どこか受け身だったのかも……」
食後の紅茶を飲みながら、リリアンはちゃんと自分の気持ちや今後どうしたいのか考えていこうと思った。
エリックが今、リリアンをどう思っているのかわからない。今でもリリアンを好きなのか? 本気で好きなのか? それとも、他の人に心変わりしたのか? それでも、まずエリックの気持ちは置いておいて、それに流されずに、自分はエリックをどう思っているのか考えてみようと思った。
まずはエリックとの関係性をはっきりさせてから、仕事について考えよう。一つずつ解決していこう。そう思ったら、この状況から抜け出せるかもしれないと希望が少し湧いてきた。
それから、しばらく自分の好きなように過ごしながら、自分の気持ちを見つめ、リリアンなりに答えが見つかった気がした。
◇◇
「悩めるお年頃のお嬢さん、それで、結論は出たの? 仕事だとか恋だとかの?」
ケイリーが観葉植物の世話をしながら、楽しそうにリリアンに尋ねる。お店を休んでから、ケイリーにも仕事のことやエリックのことを洗いざらい話していた。
「うん。母上とゆっくり話してたら、すっきりしてきて……」
「あー、ナディーンさんって不思議なところあるよね。聞き上手というか……」
ケイリーの務める花屋のオーナー兼店長であるマダムとナディーンが友達らしく、マダムとナディーンと時折お茶をしているので、ケイリーもナディーンと面識がある。
「エリックの気持ちはわからないんだけどね……」
「いいじゃない。前はエリックさんの気持ちもわからない、自分の気持もわからないだったけど、今はリリアンの気持ちはわかったんでしょう? 相手の気持ちがわからないなら、余計に自分の気持をオープンに伝えたほうがいいよ」
「うん。自分の気持をそのまま伝えてみるよ。怖いけど」
「うん。リリアンは正面から行く方がいいと思うよ。恋の駆け引きとかテクニックで、自分の気持ちを見せない方がいいとか言われたりもするけど、リリアンにはオープンに行く方が似合ってる。エリックさんの気持ちはわからないけど、リリアンの気持ちを聞いて無下にする人じゃないでしょ?」
ケイリーにからっと笑って言われるとリリアンの気持ちも軽くなる。
「そうだね。そうしてみる。仕事については、デザインのアイディア浮かばなくなったことも含めて、家族のみんなに話して、アドバイスをもらおうと思うの」
「いいじゃない。いいじゃない。せっかくプレスコット家っていう恵まれた環境にいるんだからね。使えるものは全部使っていけばいいのよ」
将来について悩み初めてから、ずっとリリアンはみんなに頼らず早く自立しなければ、一人でなんとかしなければと焦っていた。でも、結局どうすることもできなくて頭の中で問題を拗らせるばかりだった。だから、もう甘えられるところは甘えてしまおうと開き直ったのだ。自分にはできない事がたくさんある。考えることも得意じゃない。だから、できる人に頼って、知恵をもらって、自分でできる事をがんばろうと思ったのだ。そうと決めたら気持ちがすっきりとした。
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