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2 私が私の気持ちに気づくまでの日々
8 大団円の後で
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「リリアン、よくがんばったわね。大丈夫?」
全てが終わっても、まだ力が入らずに椅子に座ったまま、ぼーっとしているとエリックが声をかけてくれる。カリスタとチェルシーもすごい勢いで話しをしながらも、ちらちらとリリアンを気にしてくれている。
「エリックも、カリスタ姉さんもチェルシー姉さんもかばってくれてありがとう。おかげで、最後までがんばれたよ」
リリアンは自分の前に座るカリスタとチェルシーに抱き着いた。
「あれぐらいなんてことないわよ。本当はあの子がうちに来た瞬間に言いたいことが百個くらいあったわよ」
チェルシーがリリアンの頭を撫でてくれて、くすぐったい気持ちになる。
「ほんとーに、疲れたわねぇ。でも、これであのたかり屋の親子が店に来ないと思うとせいせいするわねぇ」
「そうね、マーカス家だけじゃなくて、最近はうちのほうまで被害を被っていたからね」
「カリスタ姉さんのお店や、うちのお店にも来てたんだ……私なにも知らなかったな」
「リリアンは店舗の方には出てないから知らなくても仕方ないじゃない。解決したんだから、もう気にしない気にしない」
エリックが横からリリアンの頬を指でつついている。いつものプレスコット家の雰囲気に戻ったことにリリアンはほっとした。
男爵一家を成敗して、興奮冷めやらぬナディーンは今度は、マーカス家の当主夫婦に噛みついている。マーカス家でも同じように三兄弟にちょっかいをかけたエイダを放置して、長男フレドリックの妻のジョアンナと三男のブラッドリーの妻のマルティナが窮地に陥っていたのを見て見ぬふりをしていた件について説教しているようだ。ナディーンの女性にしては低めの声が響き渡っている。
そして今度は、長男のフレドリックの妻のジョアンナと話し込んでいるようだ。異国出身のジョアンナは本を扱う商売をしていて、博識なナディーンと気が合うらしい。プレスコット家にも時折、顔を出してくれる。
父上は部屋の片隅で、みなのお茶の用意の指示を家令に出しているようだ。
「母上はパワフルだなぁ……」
「ねー、リリアン、アタシにお礼のハグはないの?」
「え?」
次の瞬間、カリスタとチェルシーにくっついていたリリアンをエリックが抱きしめた。リリアンの頬が赤く染まる。どうして、今までエリックと一緒にいて平気でいられたのだろう? どうしても、異性として意識してしまう。幼少期の気持ち悪い体験を思い出しても、エリックとのスキンシップへの嫌悪感はまったく湧かない。
「はー、疲れた。やっと終わったわねぇ。リリアン、よくがんばったわぁ。色々と辛い思いさせてごめんね」
マーカス家の当主夫婦に噛みついて、ジョアンナを捕獲し、一段落ついたナディーンはエリックからリリアンを奪うようにして抱きしめる。
「あー、エリックにも迷惑かけてごめんね?」
「こういう事なら仕方ないけど。惹きつけるためにベタベタしてきても振り払っちゃだめとか、愛想よく相手しろとか、かなり地獄だったわよ」
リリアンを腕に納めたまま、エリックに目線だけをむけておざなりに謝るナディーンにエリックから本音が零れる。
「ほんとに悪かったと思ってるわ。でもね……、リリアンに手を出していいって誰が言ったの?」
リリアンを抱きしめながら、ナディーンがエリックを見る目が鋭い。
一瞬にしてざわめきが収まり、みんなの視線がエリックに集まる。マーカス家の一同もシンと静まり返っている。マルティナも驚いた顔をしてこちらを凝視している。
「手を出すなんて、母上、人聞きの悪い……ちょっと、ちょこーっと距離を縮めたというか……そろそろ、無害な家族じゃなくって、意識してほしいなーなんて思っちゃったりしただけで……」
「エリック! 私の目が紫色のうちは、許しません!」
「それ一生許さないって事じゃない! 母上、私の母親でもあるでしょう?」
「まだ、私の可愛いリリアンは渡しません!」
「あのー、ははうえ……」
「なぁに? リリアン」
「私も、嫌ではないので、エリックを怒らないでほしいというか……」
「「「リリアン!!!」」」
リリアンが思わず正直に答えると、ナディーンとカリスタとチェルシーの悲鳴が響き渡り、マーカス家の方から笑いが零れた。
全てが終わっても、まだ力が入らずに椅子に座ったまま、ぼーっとしているとエリックが声をかけてくれる。カリスタとチェルシーもすごい勢いで話しをしながらも、ちらちらとリリアンを気にしてくれている。
「エリックも、カリスタ姉さんもチェルシー姉さんもかばってくれてありがとう。おかげで、最後までがんばれたよ」
リリアンは自分の前に座るカリスタとチェルシーに抱き着いた。
「あれぐらいなんてことないわよ。本当はあの子がうちに来た瞬間に言いたいことが百個くらいあったわよ」
チェルシーがリリアンの頭を撫でてくれて、くすぐったい気持ちになる。
「ほんとーに、疲れたわねぇ。でも、これであのたかり屋の親子が店に来ないと思うとせいせいするわねぇ」
「そうね、マーカス家だけじゃなくて、最近はうちのほうまで被害を被っていたからね」
「カリスタ姉さんのお店や、うちのお店にも来てたんだ……私なにも知らなかったな」
「リリアンは店舗の方には出てないから知らなくても仕方ないじゃない。解決したんだから、もう気にしない気にしない」
エリックが横からリリアンの頬を指でつついている。いつものプレスコット家の雰囲気に戻ったことにリリアンはほっとした。
男爵一家を成敗して、興奮冷めやらぬナディーンは今度は、マーカス家の当主夫婦に噛みついている。マーカス家でも同じように三兄弟にちょっかいをかけたエイダを放置して、長男フレドリックの妻のジョアンナと三男のブラッドリーの妻のマルティナが窮地に陥っていたのを見て見ぬふりをしていた件について説教しているようだ。ナディーンの女性にしては低めの声が響き渡っている。
そして今度は、長男のフレドリックの妻のジョアンナと話し込んでいるようだ。異国出身のジョアンナは本を扱う商売をしていて、博識なナディーンと気が合うらしい。プレスコット家にも時折、顔を出してくれる。
父上は部屋の片隅で、みなのお茶の用意の指示を家令に出しているようだ。
「母上はパワフルだなぁ……」
「ねー、リリアン、アタシにお礼のハグはないの?」
「え?」
次の瞬間、カリスタとチェルシーにくっついていたリリアンをエリックが抱きしめた。リリアンの頬が赤く染まる。どうして、今までエリックと一緒にいて平気でいられたのだろう? どうしても、異性として意識してしまう。幼少期の気持ち悪い体験を思い出しても、エリックとのスキンシップへの嫌悪感はまったく湧かない。
「はー、疲れた。やっと終わったわねぇ。リリアン、よくがんばったわぁ。色々と辛い思いさせてごめんね」
マーカス家の当主夫婦に噛みついて、ジョアンナを捕獲し、一段落ついたナディーンはエリックからリリアンを奪うようにして抱きしめる。
「あー、エリックにも迷惑かけてごめんね?」
「こういう事なら仕方ないけど。惹きつけるためにベタベタしてきても振り払っちゃだめとか、愛想よく相手しろとか、かなり地獄だったわよ」
リリアンを腕に納めたまま、エリックに目線だけをむけておざなりに謝るナディーンにエリックから本音が零れる。
「ほんとに悪かったと思ってるわ。でもね……、リリアンに手を出していいって誰が言ったの?」
リリアンを抱きしめながら、ナディーンがエリックを見る目が鋭い。
一瞬にしてざわめきが収まり、みんなの視線がエリックに集まる。マーカス家の一同もシンと静まり返っている。マルティナも驚いた顔をしてこちらを凝視している。
「手を出すなんて、母上、人聞きの悪い……ちょっと、ちょこーっと距離を縮めたというか……そろそろ、無害な家族じゃなくって、意識してほしいなーなんて思っちゃったりしただけで……」
「エリック! 私の目が紫色のうちは、許しません!」
「それ一生許さないって事じゃない! 母上、私の母親でもあるでしょう?」
「まだ、私の可愛いリリアンは渡しません!」
「あのー、ははうえ……」
「なぁに? リリアン」
「私も、嫌ではないので、エリックを怒らないでほしいというか……」
「「「リリアン!!!」」」
リリアンが思わず正直に答えると、ナディーンとカリスタとチェルシーの悲鳴が響き渡り、マーカス家の方から笑いが零れた。
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