【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~

紺青

文字の大きさ
上 下
6 / 33
1 私が私を見つけるまでの日々

6 黒いクマちゃん受難の日

しおりを挟む
 時折、王子様のようなエリック様の事を思い出して、またお家に遊びに来てくれないかなぁなんてのんきなことを考えていた。

 夏の暑い時期に、領地にお母様と一緒にしばらく遊びに行って帰ってくると、マルティナ姉さまの雰囲気が少し変わっていた。髪の毛が肩程の長さまで短くなって、すっきりしていた。新しい髪型はよく似合っていた。それだけでなく、肌も艶々しているし、表情も明るい。リリアンは久々に会ったマルティナ姉さまの変化がうれしかった。

 そんなある日、事件が起こった。
 夜、眠れなくてマルティナ姉さまの部屋へ行くと、珍しく扉が開いていて、アイリーン姉さまの声がする。アイリーン姉さまが低い声を出す時は本当に怒っている時だ。次の瞬間、アイリーン姉さまが、ブラッドリー様からの贈り物のクマのぬいぐるみの片腕を引きちぎったのが見えた。

 「っ!!!」
 声がでないようにとっさに口を手で押さえて、自分の部屋へと走った。

 「なにがあったんだろう……」
 ベッドにもぐって、布団を頭からかぶっても、まだ心臓がドクドク言っている。
 
 二人がなにを話していたかは聞こえなかったし、アイリーン姉さまの表情は見えなかった。でも、マルティナ姉さまが絶望する表情だけは脳裏に焼き付いている。こんな時、リリアンにはなにもできない。アイリーン姉さまに逆らうなんてできない。それに、リリアンが出て行ったところで、結局マルティナ姉さまがリリアンをかばってよけいにひどいことになるに違いない。

 いつもいつもリリアンが辛い時や苦しい時はマルティナ姉さまが助けてくれるのに、自分はマルティナが困っていてもなにもできない……。自分は本当になんのためにいるのだろう? 

 それからのマルティナ姉さまはリリアンから見てもわかるくらいに憔悴していった。ごはんも少ししか食べていないし、学園から帰ると部屋に籠ってしまう。最近は表情も外見も明るくなったのに、また以前のように、いや以前よりももっとひどいものになった。

 アイリーン姉さまはそんなマルティナ姉さまを満足したようなほの暗い表情で見ていた。リリアンはそんな姉さま達にじりじりとしながらも、なにもできることはなかった。

 その日も、暗い表情で帰って来てすぐに部屋に閉じこもったマルティナにかける言葉がみつからなかった。

 こんな時に誰か頼りになる人がいれば……

 その瞬間に浮かんだのは、ブラッドリー様の顔。以前、アイリーンお姉さまのドレスのお下がりを直す時に家令に商会へ送るように言っていたはず……

 「……あのぅ」
 「どうされました、リリアン様」
 リリアンはいつも表情の変わらない高齢の家令が苦手だったが、思い切って声をかけた。

 「今日は、お母さまは? アイリーンお姉さまは?」
 「奥様は今日は晩餐会に招待されておりまして、アイリーン様も婚約者のクリストファー様と観劇の予定と伺っております。お二人ともお帰りは遅いようですが、なにか急ぎの御用事でもありましたか?」
 「そう……あのぅ、以前、マルティナ姉さまのドレスを直すのをお願いした商会へ行きたいんだけど……」
 「承知いたしました。馬車を用意しますので、リリアン様も準備してください」
 「え? いいの?」
 「マルティナ様もお帰りになったので、空いている馬車がありますので、大丈夫ですよ」
 子どもであるリリアンの突飛なお願いをなぜ聞いてくれたかはわからないけど、いそいそと準備して、ブラッドリー様の商会へ向かった。リリアンには難しいことはわからなくて、とにかくそこに行けば、ブラッドリー様に会って、助けを求められると思ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

この祈りは朽ち果てて

豆狸
恋愛
「届かなかった祈りは朽ち果ててしまいました。私も悪かったのでしょう。だれかになにかを求めるばかりだったのですから。だから朽ち果てた祈りは捨てて、新しい人生を歩むことにしたのです」 「魅了されていた私を哀れに思ってはくれないのか?」 なろう様でも公開中です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

処理中です...