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1 私が私を見つけるまでの日々
6 黒いクマちゃん受難の日
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時折、王子様のようなエリック様の事を思い出して、またお家に遊びに来てくれないかなぁなんてのんきなことを考えていた。
夏の暑い時期に、領地にお母様と一緒にしばらく遊びに行って帰ってくると、マルティナ姉さまの雰囲気が少し変わっていた。髪の毛が肩程の長さまで短くなって、すっきりしていた。新しい髪型はよく似合っていた。それだけでなく、肌も艶々しているし、表情も明るい。リリアンは久々に会ったマルティナ姉さまの変化がうれしかった。
そんなある日、事件が起こった。
夜、眠れなくてマルティナ姉さまの部屋へ行くと、珍しく扉が開いていて、アイリーン姉さまの声がする。アイリーン姉さまが低い声を出す時は本当に怒っている時だ。次の瞬間、アイリーン姉さまが、ブラッドリー様からの贈り物のクマのぬいぐるみの片腕を引きちぎったのが見えた。
「っ!!!」
声がでないようにとっさに口を手で押さえて、自分の部屋へと走った。
「なにがあったんだろう……」
ベッドにもぐって、布団を頭からかぶっても、まだ心臓がドクドク言っている。
二人がなにを話していたかは聞こえなかったし、アイリーン姉さまの表情は見えなかった。でも、マルティナ姉さまが絶望する表情だけは脳裏に焼き付いている。こんな時、リリアンにはなにもできない。アイリーン姉さまに逆らうなんてできない。それに、リリアンが出て行ったところで、結局マルティナ姉さまがリリアンをかばってよけいにひどいことになるに違いない。
いつもいつもリリアンが辛い時や苦しい時はマルティナ姉さまが助けてくれるのに、自分はマルティナが困っていてもなにもできない……。自分は本当になんのためにいるのだろう?
それからのマルティナ姉さまはリリアンから見てもわかるくらいに憔悴していった。ごはんも少ししか食べていないし、学園から帰ると部屋に籠ってしまう。最近は表情も外見も明るくなったのに、また以前のように、いや以前よりももっとひどいものになった。
アイリーン姉さまはそんなマルティナ姉さまを満足したようなほの暗い表情で見ていた。リリアンはそんな姉さま達にじりじりとしながらも、なにもできることはなかった。
その日も、暗い表情で帰って来てすぐに部屋に閉じこもったマルティナにかける言葉がみつからなかった。
こんな時に誰か頼りになる人がいれば……
その瞬間に浮かんだのは、ブラッドリー様の顔。以前、アイリーンお姉さまのドレスのお下がりを直す時に家令に商会へ送るように言っていたはず……
「……あのぅ」
「どうされました、リリアン様」
リリアンはいつも表情の変わらない高齢の家令が苦手だったが、思い切って声をかけた。
「今日は、お母さまは? アイリーンお姉さまは?」
「奥様は今日は晩餐会に招待されておりまして、アイリーン様も婚約者のクリストファー様と観劇の予定と伺っております。お二人ともお帰りは遅いようですが、なにか急ぎの御用事でもありましたか?」
「そう……あのぅ、以前、マルティナ姉さまのドレスを直すのをお願いした商会へ行きたいんだけど……」
「承知いたしました。馬車を用意しますので、リリアン様も準備してください」
「え? いいの?」
「マルティナ様もお帰りになったので、空いている馬車がありますので、大丈夫ですよ」
子どもであるリリアンの突飛なお願いをなぜ聞いてくれたかはわからないけど、いそいそと準備して、ブラッドリー様の商会へ向かった。リリアンには難しいことはわからなくて、とにかくそこに行けば、ブラッドリー様に会って、助けを求められると思ったのだ。
夏の暑い時期に、領地にお母様と一緒にしばらく遊びに行って帰ってくると、マルティナ姉さまの雰囲気が少し変わっていた。髪の毛が肩程の長さまで短くなって、すっきりしていた。新しい髪型はよく似合っていた。それだけでなく、肌も艶々しているし、表情も明るい。リリアンは久々に会ったマルティナ姉さまの変化がうれしかった。
そんなある日、事件が起こった。
夜、眠れなくてマルティナ姉さまの部屋へ行くと、珍しく扉が開いていて、アイリーン姉さまの声がする。アイリーン姉さまが低い声を出す時は本当に怒っている時だ。次の瞬間、アイリーン姉さまが、ブラッドリー様からの贈り物のクマのぬいぐるみの片腕を引きちぎったのが見えた。
「っ!!!」
声がでないようにとっさに口を手で押さえて、自分の部屋へと走った。
「なにがあったんだろう……」
ベッドにもぐって、布団を頭からかぶっても、まだ心臓がドクドク言っている。
二人がなにを話していたかは聞こえなかったし、アイリーン姉さまの表情は見えなかった。でも、マルティナ姉さまが絶望する表情だけは脳裏に焼き付いている。こんな時、リリアンにはなにもできない。アイリーン姉さまに逆らうなんてできない。それに、リリアンが出て行ったところで、結局マルティナ姉さまがリリアンをかばってよけいにひどいことになるに違いない。
いつもいつもリリアンが辛い時や苦しい時はマルティナ姉さまが助けてくれるのに、自分はマルティナが困っていてもなにもできない……。自分は本当になんのためにいるのだろう?
それからのマルティナ姉さまはリリアンから見てもわかるくらいに憔悴していった。ごはんも少ししか食べていないし、学園から帰ると部屋に籠ってしまう。最近は表情も外見も明るくなったのに、また以前のように、いや以前よりももっとひどいものになった。
アイリーン姉さまはそんなマルティナ姉さまを満足したようなほの暗い表情で見ていた。リリアンはそんな姉さま達にじりじりとしながらも、なにもできることはなかった。
その日も、暗い表情で帰って来てすぐに部屋に閉じこもったマルティナにかける言葉がみつからなかった。
こんな時に誰か頼りになる人がいれば……
その瞬間に浮かんだのは、ブラッドリー様の顔。以前、アイリーンお姉さまのドレスのお下がりを直す時に家令に商会へ送るように言っていたはず……
「……あのぅ」
「どうされました、リリアン様」
リリアンはいつも表情の変わらない高齢の家令が苦手だったが、思い切って声をかけた。
「今日は、お母さまは? アイリーンお姉さまは?」
「奥様は今日は晩餐会に招待されておりまして、アイリーン様も婚約者のクリストファー様と観劇の予定と伺っております。お二人ともお帰りは遅いようですが、なにか急ぎの御用事でもありましたか?」
「そう……あのぅ、以前、マルティナ姉さまのドレスを直すのをお願いした商会へ行きたいんだけど……」
「承知いたしました。馬車を用意しますので、リリアン様も準備してください」
「え? いいの?」
「マルティナ様もお帰りになったので、空いている馬車がありますので、大丈夫ですよ」
子どもであるリリアンの突飛なお願いをなぜ聞いてくれたかはわからないけど、いそいそと準備して、ブラッドリー様の商会へ向かった。リリアンには難しいことはわからなくて、とにかくそこに行けば、ブラッドリー様に会って、助けを求められると思ったのだ。
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