【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~

紺青

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1 私が私を見つけるまでの日々

4 退屈な日々

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 マルティナ姉さまが学園に通うようになって、リリアンは暇を持て余すようになった。お母さまはほとんど邸にはいないし、時折茶会に連れ出されるが、話すことを一切禁じられているので、苦痛な時間だった。話すこともできないので、友達もできない。そんな退屈な日々の中で、やはり支えとなったのはマルティナ姉さまだった。

 マルティナ姉さまがリリアン以外の家族にも振り回されて忙しいのも、大変なのも知っていた。マルティナ姉さまはお母さまの愚痴を聞いて、アイリーン姉さまの勉強のお手伝いをしているのも知っている。でも、リリアンにはマルティナ姉さましかいない。まるで試すかのように、我儘をたくさん言って、マルティナを呼び出した。

 マルティナ姉さまにだって譲れない大事なものがあるのを知ったのは、黒いクマのぬいぐるみが欲しいとねだった時だった。

 マルティナ姉さまの部屋は、アイリーン姉さまとリリアンと同じ並びにあって、同じ広さがある。衣装部屋だって同じ広さだ。ベッドや机やソファなどの家具は同じようなものが置かれている。マルティナ姉さまに侍女はついていないけど、清掃や洗濯はきちんとされている。ただ、明らかに二人の姉妹と比べて、衣類や小物などの持ち物が少なく、部屋は閑散とした印象だった。

 だから、余計にその黒いクマのぬいぐるみが目立ったのかもしれない。

 ある日、いつものようにマルティナ姉さまの部屋に遊びに行くと、黒いクマのぬいぐるみを掲げて、愛おしそうに眺めていた。マルティナ姉さまが大事に持っていたからなのか、マルティナ姉さまの関心をそのクマが集めていたからなのかわからない。

 気づいたら、猛烈にその黒いクマのぬいぐるみが欲しくなった。
 「きゃーっ、なにこのクマさん!!! かーわーいー!!」
 マルティナ姉さまの手から、クマのぬいぐるみをつかみ取って、ぬいぐるみを空にかかげてくるくる部屋を回る。
 「えー黒いくまさんー赤いリボン似合ってる~、わーリリアン、これほしい!」

 「返して!!! これはあげられない!!」
 マルティナ姉さまは、すごい剣幕でリリアンに迫ると、リリアンの手からクマのぬいぐるみを取り上げて、怒りの声をあげた。マルティナ姉さまがリリアンに声を荒げたのはこの時が初めてだった。

 「これだけは、リリアンにあげられない。譲れない。初めてもらった誕生日プレゼントなの。大事な人からもらった物なの。だから、あげられない」
 黒いクマのぬいぐるみをしっかりと抱きしめて、マルティナ姉さまは言い放った。マルティナ姉さまが自分のために怒るのを見たのは初めてかもしれない。リリアンはその剣幕にショックを受けて、涙がこみあげてくる。
 
 ショックを受けたのは、マルティナ姉さまが怒ったからだけではない。この時、気づいたのだ。

 いるのかいないのかわからないお父さま、いつも嫌なことを言うお母さま、いつもやることを押し付けているアイリーン姉さま……そして、いつも我儘ばかり言っている妹。数少ないマルティナお姉さまの大事なものを奪おうとする妹。

 きっと、マルティナ姉さまにとって、家族は嫌な存在だわ、私も含めて。

 マルティナ姉さまに謝ると、涙が止まらなくなった。優しいマルティナ姉さまは許してくれて、涙を拭いてくれて、頭を撫でてくれた。

 お願い。もう我儘言わないから、リリアンのこと嫌わないで。

 それからはマルティナ姉さまの気を惹きたくて言っていた我儘を止めた。そうしたら、時々、一緒にお茶してくれるようになった。マルティナ姉さまの部屋で、黒いクマのぬいぐるみも一緒に並べて、マルティナ姉さまが淹れてくれたお茶を飲む時間は、我儘を言ってそれを聞いてもらう時間よりもっともっと楽しかった。

 そんな穏やかで退屈な日々を過ごしながらも、リリアンには漠然とした不安があった。どれだけマルティナ姉さまが工夫してくれても、自分は二人の姉とは違って、マナーも勉強も最低限しか身につかない。

 貴族の学園に通うことはできるのだろうか?
 年が離れているマルティナ姉さまはリリアンが入学する頃には卒業している。きちんと卒業することはできるのだろうか?

 そんなもやもやした不安が晴れることはなかった。
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