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【番外編】side マーク⑥ 最後はめでたしめでたし

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 無事に成人を迎えて、多少のゴタゴタはあったものの無事にルナちゃんは王都に来ることができた。なんだかんだ言って、すぐに結婚するんだろうなという俺の予想に反して、ルナちゃんはサイラスにかたくなに線引きした。

 しばらくは、サイラスに押し切られてサイラスの家で暮らしていたけど、治安がよくて、冒険者ギルドから近い集合住宅を、借りて一人で暮らし始めた。冒険者ギルドで冒険者登録をすると、コツコツ調合をはじめ、薬やポーションを納め始めた。うん、有言実行はすばらしい! でも、もういいんだよって何度言いたくなったか……おじさん、前言撤回したいよ……

 ルナちゃんが一人暮らしをはじめて、ちゃんと仕事がしたいからと締め出され、四六時中傍に居られなくなったサイラスがまた目を血走らせて、今度はピアスを作り始めた。

 「魔力の塊を作って、そこに魔術を刻むんだ、そうすると核となる魔石が小さくても力が弱くても、どれだけでも魔術を付与できるんだ……ふふふ……認識阻害……今度はルナを他の人間の印象に残らないようにして、防御と感情共有と映像共有と位置情報と……音声通話もできるようにして……」
 愛を越えて怨念のこもった、銀の金具の紫色と空色の魔石がついたピアスをルナちゃんと自分の両耳につけてやっと、安心したようで、いつものサイラスに戻った。

 サイラスの愛が重いせいだけではなく、ルナちゃんが心配でピアスをつけたくなる気持ちはよくわかる。冒険者ギルドもルナちゃんの可愛さに、激震が走った。そんなルナちゃんにデレデレするサイラスも見ものだった。

 サイラスとルナちゃんが王都ギルド本部に冒険者登録に現れた時のことだ。儚い妖精みたいなルナちゃんを抱え込むようにべったりとくっついているサイラス。サイラスはルナちゃんにデレデレしつつも、周りの見惚れている男たちを牽制するのを忘れない。

「すみません、冒険者登録お願いします」

――脳内幼妻、実在したんだ――!!!!!

一瞬ギルド内が静まった。心で思うことはみんな一緒だ。その気持ちよくわかる。
 
 その後も、毎日、時間の許す限りルナちゃんにまとわりつくサイラスにルナちゃんも幸せそうな笑顔をふりまきつつ、毎日あいさつのようにされるプロポーズに『うん』ということはなかった。意地悪とかじらしているわけではなく、サイラスの横に立つのにふさわしいくらい仕事や自分に自信がつくまで待ってほしいという理由だった。なにそれ、また泣かせにきてる?

 ルナちゃんは、虐げられるか、ヤクさんに薬師として鍛えられるか、人生の大半を厳しい状況で過ごしていたので、休憩や遊びの時間をとるのに罪悪感があるようだった。そんな、ルナちゃんをサイラスは買い物やピクニックに連れ出して、隙あらば甘やかしていた。

 あらゆる事態を想定した万能ピアスをしていても、避けきれない不快な出来事はある。
 そういった出来事もサイラスはあらゆる手を使って排除していった。

 ある時は、サイラスにロックオンした受付係の貴族令嬢を自分がルナちゃんに擬態して叩きのめした。ついでにその貴族令嬢の家ごと追い込んだ。

 え? 擬態する魔術なんてあるの? なにそれ? もうギルドの諜報部門で働いて。
 後から聞いたら、ルナちゃんへの訪問を制限されている時に、時折、猫に擬態してルナちゃんの様子を見に行っていたらしい。

 きっとこの受付嬢、ルナちゃんを溺愛してデレデレするサイラスを見て、ルナちゃんさえ排除すれば、自分がそのポジションに成り代われると思ったんだろうなぁ、ご愁傷さま。昔のように正面から挑むばかりではなく、裏からも画策できるようになったなんて、サイラスの成長も感じられるな。

そして一同、再認識した。

―――このカップル、触るな危険アンタッチャブル案件だ。

 ルナちゃんが王都にきて三年の月日が経ち、サイラスのプロポーズが三桁を越えたある日、俺はルナちゃんを呼び出した。

 俺の対面に座り、緊張するルナちゃん。既視感のあるこの光景。俺はしょうこりもなくお節介をやくことにした。

 ああ、ルナちゃん。君は年を重ねても変わらないんだね。そのまっすぐで綺麗な紫の瞳に向き合う。
 昔は君のこと、天才を誑かす希代の悪女じゃないかって疑ってごめんね。
 真面目に仕事に取り組んで、誠実に人と向き合う娘と同じ年頃の君のことも、サイラスと同じくらい大事に思っているんだよ。
 
 今ならまだ、ヤバイくらいのサイラスの思いから君を逃してあげられるかもしれない。
 だって、世の中の男はサイラス一人じゃないだろう?
 しかし、ルナちゃんの思いはサイラスの激重な気持ちと釣り合うくらい深いものだった。

 ほっと、一息ついたところで、サイラスが襲撃する。
 派手に登場したサイラスは、えぐえぐ泣いてるルナちゃんを抱きしめると、えげつない殺気を向けてくる。

 ルナちゃんを横抱きにすると、颯爽と執務室を後にした。転移魔法じゃなくて扉から入ってきたことはちょっと成長が感じられるのか?
 またしてもルナちゃんのおかげで、俺の首が無事だったのは間違いない。

 ◇◇

 どこまでも続く青く澄み渡る空に祝福の声があがる。
 今日、婚姻した揃いの銀髪を煌めかせた麗しいカップルを見つめて、静かに俺は涙を流した。

 「やっと、この日を迎えたか!! 長かった長かった……俺の不毛な日々……サヨナラ胃痛! ルナちゃん、絶対にその危険物サイラスの手を放さないでくれよな…」

 俺の余計なおせっかいから、しばらくしてサイラスがプロポーズを成功させた。
 それから一ヶ月後、この良き日を迎えているというわけだ。

 ルナちゃん、サイラスの手を絶対放さないでくれよ!!
 ギルドと俺の胃袋の平和のために!!

【マーク視点 end】
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