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14 お揃いのピアス

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  冒険者ギルドでのルナの薬師としての冒険者登録の手続きを終えて、ギルドから出るとルナはほっとした。

 「じゃ、用事も済んだし、どこかでごはんを食べて帰る?」

 「あのもう一つお願いがあって……」
 ルナはサイラスに自分で家を借りたいことを伝えると、サイラスの顔からごっそりと表情が抜けた。

 「ダメ。それだけは許せない。なんで? せっかく一緒にいられるようになったのに! 一緒に暮らせばいいじゃないか! なんで? なんで? ルナは僕と一緒に暮らすのが嫌なの?」
 サイラスから責めるように断られて、ルナの両目から涙が溢れる。

 「ごめんなさい、サイラス、迷惑ばかり掛けてごめんなさい。だって、早く自立しないと。ちゃんと仕事して、ちゃんと生活して、ちゃんと家を借りて。そうしないと、サイラスに迷惑掛けちゃうし、早くしないと他の人にサイラス取られちゃうし……」
 「わーごめんごめん、ルナ。キツイ言い方しちゃって、ごめんね。怒ってるわけじゃないんだ。わかったよ。なんか色々考えてるんだね。とにかく、ここじゃあれだから、帰ろう」
 
 サイラスの転移の魔術で家まで帰ると、サイラスはルナのとりとめのない話を根気よく聞いてくれた。

 「そっか。わかった、わかったよ。マークのクソがクソなことをルナに吹き込んだせいで、ルナは僕に養われることに抵抗があるんだね。わかったよ、即急にルナが安心して安全に暮らせる家を探そう。ただし、条件がある。僕が隣に住むから」

 「えっ? でも、この家はどうするの? それって自立してるっていえるのかな?」

 「ねぇ、ルナ。一応、紫の魔石があるし、ルナには保護魔術を掛けているけど、万全じゃないんだ。ルナと離れたところに住んだら、ルナが心配で心配で僕の方がどうにかなっちゃいそうだよ。ちゃんと別の家で、家賃を自分で払うんだから自立してるっていえるでしょ。たまたま、僕が隣に住んでるだけって思えばいいよ。あと、この家はルナと二人で暮らすために借りた家だから、ルナがいなかったら意味がないからいいんだ」

 「私はサイラスが隣に住んでくれたら、心強いし、うれしいけど……。いいのかな……」

 「ね、僕のためだと思って。それがだめなら、結婚しよう。そうしたら、二人で一緒に住んでてもおかしくないでしょう? 僕としてはそっちの方がいいけど」

 「えっ、結婚?」

 「僕はルナが好きで、ルナも僕が好きでしょ? だったら、もう結婚しちゃってもいいかなって」

 「サイラス、うれしいけど、結婚は私がもっとちゃんとサイラスに釣り合うようになってからで……」

 「じゃ、ルナが自立するまで待つから、隣に住むくらいいいでしょう?」

 「……うん」

 先にサイラスの方が折れてくれたので、ルナも譲歩することにした。マークに注意されたら、サイラスに内緒でマークに住居を斡旋してもらえばいいだろう。

 サイラスは数日も経たずに、治安が良くて、冒険者ギルドから近い集合住宅を探し出してくれた。元々、家具や荷物の少ないサイラスとまだほとんど荷物のないルナの引っ越しは速やかに終わった。

 サイラスは毎日、ルナの家で朝ごはんと夜ごはんを一緒に作って食べて、眠る時に隣の自分の家へ帰っていく。ルナの調剤用の部屋や器具を揃えるのもサイラスが協力してくれた。

 そこから順調に仕事が進むかと思ったが、なかなか思うように進まない。

 まず、薬の材料となる薬草や素材が、辺境の村なら過酷な場所はあれど、採取する場所はわかっていたし、難所にある物はある程度ストックしていた。

 しかし、王都では、まず採取できる場所から探さなければならない。冒険者ギルドで素材を買うこともできるので、しばらくは冒険者ギルドで購入することにした。しかし、常に入荷されるとも限らないし、品質もまちまちだ。

 さらに、新たに買いそろえた調剤用の器具は、ヤクばあちゃんの小屋で使っていた器具より新しい型で、コツをつかむのにしばらくかかりそうだった。

 こういった時にルナはヤクばあちゃんに鍛えられていて良かったと思った。やりたいことは明確なのに、その道のりが途方もない。そんな経験を繰り返していたので、ルナは狼狽えずに一つずつ事にあたっていった。

 調剤に関することは、問題が山積みだが、時間をかけて試行錯誤していけば良い。今、ルナを一番悩ませているのはサイラスだった。

 「贅沢な悩みだよなぁ……」
 サイラスはことあるごとに、ルナを外に連れ出そうとする。買い物やピクニック、観劇、カフェ。それはどれも魅力的で、でも少しでも早く仕事を軌道に乗せたいルナは誘いに乗っているいる時間がない。
 
 正直にしばらくは仕事に集中したいから、遊びに行けないことをサイラスに告げると、朝ごはんと夜ごはんを一緒に食べることを条件にして、納得してくれた。それから、サイラスも家に籠ってなにか熱心に作業をしているみたいだった。

◇◇

 「ルナ、ルナ。やっとできたんだ。ハイ、ルナにプレゼント」
 ある日、サイラスがそっとルナに手を差し出してきた。サイラスの手のひらに乗っているのは、銀の金具の紫と空色の魔石がついたピアス。

 「うわー綺麗。サイラスの瞳の色みたいね。でも、なんで? 誕生日でもないのに?」
 「なんかルナとお揃いの物を着けたくて、作っちゃった! ホラ、僕はもう着けてるんだ。僕の方は両方とも紫なんだよ! これ、音声通話もできるから。仕事中とか、ルナと離れてる時でも連絡取れるし。ルナも着けてくれる?」

 「えっ? そんなすごい物を貰っていいの?」
 「うん。ルナに着けてほしくて作ったんだよ」
 「ありがとう」
 「じゃ、着けるね。痛くないし、膿んだりもしないようにしてあるから。ずっと着けててね」
 サイラスが着けてくれたピアスは、その言葉通り着けているのを感じさせないものだった。

 「ふふっ、サイラスの瞳の色のピアス、うれしいな。ありがとう」
 鏡に映る自分を見て、ルナはほっとした。ずっとサイラスに釣り合うようにとなにかに急き立てられるようにがんばってきたけど、サイラスの瞳の色をまとっていると少しだけ、サイラスの隣にいてもいいんだと思えた。

 「うん、僕もルナが僕の色をまとってると安心するよ。……認識阻害と防御と感情共有と映像共有と位置情報感知の魔術も刻んであるから、僕もこれで安心できるよ」
 サイラスのつぶやきは小さすぎて、ルナの耳には届かなかった。

 それからは、ピアスが安心感をくれたおかげなのか、ルナの肩の力が少し抜けた。数々の課題を乗り越えて、薬やポーションの作成も品質の良い物を安定して調剤できるようになった。サイラスからの外出の誘いを断ることもなくなった。
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