【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青

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~なくてはならない存在になった私~

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 折に触れて訪れる海岸に、マルティナは今日も散歩に来ていた。太陽の光に反射して、腕に煌めく腕輪を見て結婚したんだという実感が湧いて、幸せな気持ちになる。

 ここまで自分を支えてくれて、今日もマルティナのお願いを聞いて、海に連れ出してくれた彼に手を振る。

 「ブラッドリー」
 今は過保護な彼の忠告により、海には入れない。お腹に大事な命がいるのだからマルティナにも否やはない。少し丸みをおびてきたお腹をやさしくなでる。

 波打ち際をゆっくりと歩いている。それだけでも、海を眺めたり、波の音を聞いたりするだけで、マルティナの心は十分満たされた。

 自分が子どもを産むことに葛藤がなかったわけではない。

 母のようになってしまうかも?
 ちゃんとした家庭で育っていない自分が子供を育てられるのだろうか?

 不安や悩みはとめどなく溢れてくる。でも、それらのことをマルティナはもう一人で抱え込むことはなかった。

 ブラッドリーはもちろん、母や父や長兄夫婦やエイミー達にも打ち明けた。みんな口を揃えて、ブラッドリーもいるし、家族、ひいては一族みんなで育てればいいと言ってくれた。

 なによりエリックの一言が決定打だった。
 「リリアンちゃんがあの家にいてまともに育ったのは、マルティナちゃんがやさしさと厳しさと愛を注いだからでしょう。幼少期から面倒をみていたんでしょ。こんないい子に育てておいて、子育てに自信ないなんてどの口が言うの?」

 妊娠してからは、夜眠る度に悪夢を見た。夢にはなぜか母が出てきて、ただひたすらマルティナを罵倒してきた。

 最近は家族のことを思い出すことも少なくなってきたのに、なぜだろう?

 すごく消耗したけれど、いつでも起きればブラッドリーがいてくれるから乗り越えられた。その悪夢も悪阻がおさまると、嘘のように見なくなった。

 貝殻や丸みを帯びたガラスの欠片を拾い集めながら、歩み寄る彼にゆっくりと近づいていく。

 「マルティナは本当に海が好きだね」
 「だって、見たことなかったし、キレイだし、気持ちいいし、宝物がいっぱいあるじゃない?
 あーねぇねぇ、こんなかんじのデザインってどう? 薄い透ける布を重ね合わせて。ひらひら軽いかんじにするの。あーエリックとリリアンに話さなくちゃ」
 浜辺にガリガリと思いついた服のデザインを枝で書いてみる。
 自分には実務能力しかないと思っていたけど、エリックにはマルティナもデザインのセンスがあると言われた。

 「ハイハイ、紙に書いて、明日会いに行こう。まずは俺のことかまってくれない?」
 「ふふふ、そうね、愛しい旦那様」
 ブラッドリーはマルティナを抱き上げるとそのまま横抱きにして浜辺を歩きだす。
 「あーしあわせー」
 ブラッドリーの新緑を思わせるすっきりとした香りとぬくもりに包まれて、安心感を感じる。

 時折、あの家族ーー血のつながっただけの人達との過去を思い出すこともある。少しチクリとまだ痛みは感じるけど。
 今は、ブラッドリーもブラッドリーの家族もいるし、リリアンとエリックもいるし、エミリーという友達もできたし、商会で働く人たちもいる。みな陽気で温かくて、マルティナの生活は満ち足りていて、愛が溢れている。

 あそこにしがみつかなくてよかった。
 ここが私の居場所って胸を張って言える。
 
 胸に顔を摺り寄せるマルティナにブラッドリーは口づけをおとした。

【end】
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