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4 三姉妹のハズレだった私の再生
5 誕生日の朝
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「マルティナ、誕生日おめでとう。絶対に誰よりも早く言いたかったんだ」
今日は仕事が休みの日だったが、朝早くに目覚めて、台所でのんびりと温かいお茶を飲んでいると、ブラッドリーから散歩に誘われた。マーカス家からほど近いマルティナお気に入りの花が咲き乱れる散歩道でブラッドリーにお祝いを言われて、今日が自分の誕生日だとはじめて気づいた。
「えーと、これプレゼント」
ブラッドリーから細長い包みを渡される。ブラッドリーのはにかんだような笑顔に胸がきゅんとする。
「ありがとう。開けていい?」
「うん、気に入ってもらえるとうれしいんだけど……」
散歩道で立ったままだったけど、気がはやって、包みを開くと、黒色のベルベット生地の長方形のアクセサリーケースが出てくる。パカッと開くと、鮮やかな赤色が美しいルビーを配置した花を象ったネックレスが鎮座している。
感極まって言葉も出ないマルティナにブラッドリーが言葉を続ける。
「シンプルなものより、モチーフがいいかなって。ハートとか蝶々とか鳥とか迷ったけど……マルティナが笑うと花が咲いたみたいだから……花にしてみたんだけど……つけていい?」
ブラッドリーの耳は真っ赤に染まっている。マルティナは何も言えずにただ頷く。マルティナにネックレスを付けながら、ブラッドリーはさらに言葉を重ねる。
「本当は二年前、クマのぬいぐるみじゃなくて、このルビーで作ったアクセサリーを贈りたかったんだ」
「えっ、でも、あの頃ってまだ会ってそんなに時間が経ってなかったよね?」
「うん。あの頃からマルティナがずっと好きなんだ」
首でネックレスの留め金を止めるブラッドリーの手の体温が高い気がする。
マルティナの顔も真っ赤に染まる。
「えーと、私も長期休暇の頃には、ブラッドリーが好きだったわ。うん、それからずっと好きで忘れられなかったの。今でも好き」
そのまま後ろから抱きしめられる。
ブラッドリーの大きな体に包まれて、マルティナは幸せを感じた。
ずっと、ずっとこの大きな胸板に身を預けたかった。
「あー今日はこのまま、ずっと二人でいたい……マルティナを一人占めしたい……でも、そんなわけにもいかないな。マルティナの誕生日をお祝いしたい人が列をなしてるから」
そっと抱擁がとかれて、手をつないで歩きだす。横で並んで歩くブラッドリーの照れたような横顔を眺めて、マルティナは幸せな気持ちに包まれた。
毎年、毎年、ブラッドリーは私の欲しいものをくれる。いつもこれ以上ないってほど、満たされた気持ちにしてくれるのに、また更にそれを上回るものをくれる。胸に弾む赤い花のネックレスを眺めて、自分の幸せをかみしめた。
「マルティナは今日は台所立ち入り禁止な。あ、他の家事も禁止だから。ブラッドリーと街でもぶらぶらしてきなよ」
長男家族がせわしなく台所仕事をする横で、一番上の息子のイーサンが言い放つ。朝食後に、いつものように家事を手伝おうとして、拒否された。
「だって。行こう。マルティナ」
仕事のある日は、ブラッドリーの母が中心となって、通いのお手伝いさんが洗濯や掃除、食事の準備をしてくれている。仕事が休みの日は男女問わず、家族のうちの手の空いている人が家事をするシステムだ。どうやら、誕生日は免除らしい。
その言葉に甘えて、ブラッドリーと街をぶらぶらする。午前中しか開いていないという市場を見て回る。この国に来てだいぶ経ったが、まだまだ知らない食べ物がある。生で食べられる果物は試食もあって、色々な果物を食べてみた。
果物のジュースを飲んで、一休みして、串に刺さったかわいく細工された飴をブラッドリーに買ってもらって、飴をかじりながら、のんびり歩く。その間、ずっとブラッドリーと手をつないだままだ。
「あのね、ブラッドリーこのネックレスもすごくうれしい。二年前はクマのぬいぐるみで、一年前はメッセージカードだったよね。クマのぬいぐるみはリリアンにあげてしまったけど……」
「うん、そうだね」
「クマのぬいぐるみもメッセージカードも、ブラッドリーが隣にいないときに、私の心を守って、奮い立たせてくれたの。ありがとう。ブラッドリーはいつも私がその時、一番欲しい言葉や物をくれるね」
「そうかな……その時、その時に、自分なりに精一杯のものを贈ったつもりではあるけど。それが、マルティナを支えてくれてたなら、うれしいな」
隣を歩くブラッドリーの顔が泣きそうにくしゃっと崩れる。
「うん、クマのぬいぐるみは手元にないけど、今年の誕生日は実物がいるから、満足!」
マルティナが茶化すように言うと、なぜかブラッドリーの頬には涙が伝っていた。びっくりして、マルティナは立ち止まる。
「うん。このルビーを贈れる日がくるなんて思ってもいなかった。マルティナが産まれてきてくれて、こうして一緒に隣を歩けることに感謝してるよ」
ぐいっと拳で自分の涙をぬぐうと、マルティナの手をひいて、ブラッドリーは歩きだした。今日は何回、胸がいっぱいになるんだろう? ブラッドリーの精悍な顔を見ながら、マルティナも涙ぐんだ。
今日は仕事が休みの日だったが、朝早くに目覚めて、台所でのんびりと温かいお茶を飲んでいると、ブラッドリーから散歩に誘われた。マーカス家からほど近いマルティナお気に入りの花が咲き乱れる散歩道でブラッドリーにお祝いを言われて、今日が自分の誕生日だとはじめて気づいた。
「えーと、これプレゼント」
ブラッドリーから細長い包みを渡される。ブラッドリーのはにかんだような笑顔に胸がきゅんとする。
「ありがとう。開けていい?」
「うん、気に入ってもらえるとうれしいんだけど……」
散歩道で立ったままだったけど、気がはやって、包みを開くと、黒色のベルベット生地の長方形のアクセサリーケースが出てくる。パカッと開くと、鮮やかな赤色が美しいルビーを配置した花を象ったネックレスが鎮座している。
感極まって言葉も出ないマルティナにブラッドリーが言葉を続ける。
「シンプルなものより、モチーフがいいかなって。ハートとか蝶々とか鳥とか迷ったけど……マルティナが笑うと花が咲いたみたいだから……花にしてみたんだけど……つけていい?」
ブラッドリーの耳は真っ赤に染まっている。マルティナは何も言えずにただ頷く。マルティナにネックレスを付けながら、ブラッドリーはさらに言葉を重ねる。
「本当は二年前、クマのぬいぐるみじゃなくて、このルビーで作ったアクセサリーを贈りたかったんだ」
「えっ、でも、あの頃ってまだ会ってそんなに時間が経ってなかったよね?」
「うん。あの頃からマルティナがずっと好きなんだ」
首でネックレスの留め金を止めるブラッドリーの手の体温が高い気がする。
マルティナの顔も真っ赤に染まる。
「えーと、私も長期休暇の頃には、ブラッドリーが好きだったわ。うん、それからずっと好きで忘れられなかったの。今でも好き」
そのまま後ろから抱きしめられる。
ブラッドリーの大きな体に包まれて、マルティナは幸せを感じた。
ずっと、ずっとこの大きな胸板に身を預けたかった。
「あー今日はこのまま、ずっと二人でいたい……マルティナを一人占めしたい……でも、そんなわけにもいかないな。マルティナの誕生日をお祝いしたい人が列をなしてるから」
そっと抱擁がとかれて、手をつないで歩きだす。横で並んで歩くブラッドリーの照れたような横顔を眺めて、マルティナは幸せな気持ちに包まれた。
毎年、毎年、ブラッドリーは私の欲しいものをくれる。いつもこれ以上ないってほど、満たされた気持ちにしてくれるのに、また更にそれを上回るものをくれる。胸に弾む赤い花のネックレスを眺めて、自分の幸せをかみしめた。
「マルティナは今日は台所立ち入り禁止な。あ、他の家事も禁止だから。ブラッドリーと街でもぶらぶらしてきなよ」
長男家族がせわしなく台所仕事をする横で、一番上の息子のイーサンが言い放つ。朝食後に、いつものように家事を手伝おうとして、拒否された。
「だって。行こう。マルティナ」
仕事のある日は、ブラッドリーの母が中心となって、通いのお手伝いさんが洗濯や掃除、食事の準備をしてくれている。仕事が休みの日は男女問わず、家族のうちの手の空いている人が家事をするシステムだ。どうやら、誕生日は免除らしい。
その言葉に甘えて、ブラッドリーと街をぶらぶらする。午前中しか開いていないという市場を見て回る。この国に来てだいぶ経ったが、まだまだ知らない食べ物がある。生で食べられる果物は試食もあって、色々な果物を食べてみた。
果物のジュースを飲んで、一休みして、串に刺さったかわいく細工された飴をブラッドリーに買ってもらって、飴をかじりながら、のんびり歩く。その間、ずっとブラッドリーと手をつないだままだ。
「あのね、ブラッドリーこのネックレスもすごくうれしい。二年前はクマのぬいぐるみで、一年前はメッセージカードだったよね。クマのぬいぐるみはリリアンにあげてしまったけど……」
「うん、そうだね」
「クマのぬいぐるみもメッセージカードも、ブラッドリーが隣にいないときに、私の心を守って、奮い立たせてくれたの。ありがとう。ブラッドリーはいつも私がその時、一番欲しい言葉や物をくれるね」
「そうかな……その時、その時に、自分なりに精一杯のものを贈ったつもりではあるけど。それが、マルティナを支えてくれてたなら、うれしいな」
隣を歩くブラッドリーの顔が泣きそうにくしゃっと崩れる。
「うん、クマのぬいぐるみは手元にないけど、今年の誕生日は実物がいるから、満足!」
マルティナが茶化すように言うと、なぜかブラッドリーの頬には涙が伝っていた。びっくりして、マルティナは立ち止まる。
「うん。このルビーを贈れる日がくるなんて思ってもいなかった。マルティナが産まれてきてくれて、こうして一緒に隣を歩けることに感謝してるよ」
ぐいっと拳で自分の涙をぬぐうと、マルティナの手をひいて、ブラッドリーは歩きだした。今日は何回、胸がいっぱいになるんだろう? ブラッドリーの精悍な顔を見ながら、マルティナも涙ぐんだ。
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