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2 少しずつ感じられる成長
9 卒業パーティー
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「もともと凛々しくて格好いいと思っていたけど、本当に素敵ね……」
もう、今日が最後。今日は素直に全て思ったことをして、思ったことを言おうと決めていたマルティナはうっとりとブラッドリーに見惚れる。
「背も高くて、体格もいいし、制服もとっても似合っていたし、商会にいるときの普段の格好もよかったけど、タキシードが本当に似合うわね。想像以上だわ。堂々としていて、撫でつけている前髪も似合っているわ。男前ってこういうことを言うのね……」
「ふふふ、ブラッドリーったら照れちゃって、耳が真っ赤じゃなーい。マルティナちゃん、今日はどうしたの? まさかもうお酒飲んでいるなんてことないわよね?」
「あっ! ブラッドリーもエリックもご卒業おめでとうございます! 今日は、最後の日だから、思ったこと全部言おうと思って……ブラッドリー迷惑かな?」
「や……大丈夫、うん……。うれしい……。んん、大丈夫、落ち着いた」
ブラッドリーの耳が赤くなっているのを見て、なんだかうれしくなる。ブラッドリーから腕を差し出される。夢にまで見たブラッドリーのエスコートに胸が高鳴る。主役でもないのに、涙が出そうだ。
「マルティナも、今日の格好似合ってる。かわいい」
耳元でささやかれる言葉に胸がときめく。ブラッドリーと二人で選んだのは、深い赤色のシンプルなマーメイドラインのドレスで、我ながらよく似会っていると思う。
「本当は装飾品を送りたかったけど、形に残るものだと困るかなと思って、用意したんだけど、髪にかざってもいい?」
そう言ってブラッドリーが差し出してくれたのは、赤い生花で、きちんと髪に刺せるよう処理されていた。マルティナがこくりと頷くと、耳の後ろのあたりにそっとつけてくれた。
「やだーマルティナちゃん、やっぱりかわいいー。その花のアイディア、私なのよーすごくなーい? 花を選んだのはブラッドリーだけど、髪の毛にさせるように、処理したのは、ア・タ・シ☆ 感謝してくれていいわよー」
「ふふふ、エリックもブラッドリーもありがとう。いつも色々考えてくれて……いつも私ばっかり嬉しい気持ちにさせてくれて、本当に感謝してるよ!」
いつものテンションのエリックの横で、ブラッドリーは静かにマルティナを見ていた。その目に熱がこもっていると思うのは、うぬぼれすぎなのかな?
今日くらいいいかな? 好きな人と歩ける最後の日くらい、浮かれてもいいかな?
ブラッドリーにエスコートされて歩いていると、今まで参加したパーティーの時とは違って景色が色づいてみえる。煌めくシャンデリアや豪華な装飾、色とりどりのドレスとそれに寄り添う黒いタキシード。全ての景色が輝いてみえる。
今年の卒業生に王族はいないので、注目の中心は、姉と公爵家嫡男の婚約者だ。相変わらず煌びやかな二人とまわりを幾重にも囲う人々を他人事のように見て、マルティナはブラッドリーとの時間を楽しんだ。
卒業したら国に帰ってしまう留学生のブラッドリーと伯爵家のハズレであるマルティナは、誰に注目されることもなかった。
姉はマルティナを様々な方法で屈服させて、無事に本懐を遂げた。次期公爵夫人として、何一つ傷のない華々しい淑女として卒業していく。そのことに、虚しさや怒りは今はない。
むしろ、マルティナの力を上手く使って、自分は楽をして、学業の結果を残し、生徒会長として華々しく卒業する。それで、本当に満足なのだろうか?と思う。
考え方は人それぞれだけど、マルティナはこの一年間、ブラッドリーやエリックに支えられて、試行錯誤して、そのたびに母や姉に叩き潰されたけど、その経験はなにものにも代えがたい思い出だ。
泥にまみれるような苦しい日々を一緒にいてくれたブラッドリーとの絆はマルティナの宝物だ。姉はいつも優雅な仮面を婚約者にすらかぶって、本当の自分を見せれなくて苦しくはないのだろうか?
「エリックはエスコートはどうしたの?」
「卒業パーティーは学生だけの参加だし、エスコートなしでもOKらしい。あいつはそつなく輪に混じれるから、心配いらないよ」
「あの社交性はうらやましいわね」
実際に、おしゃれな女の子達の群れの中で楽しそうに会話して盛り上がっている。
「いくら卒業生を引き立てる日だからって、その生地は安っぽいんじゃなくて?」
いつの間にか、姉がブラッドリーとマルティナの背後に立っていた。
「お姉様! ご卒業おめでとうございます」
形ばかりの祝福の言葉とカーテシーを贈る。ブラッドリーも隣で静かに頭を下げる。
「卒業生を祝福する日だというのに浮かれて、姉への祝福も忘れているなんて、妹失格ね。まぁ、でも浮かれていられるのも今日までかしらね……またマルティナは一人ぼっちになるんだものね、ふふふ。わたくしもそこの留学生もいなくなって」
姉は自分が華々しく主役になっている日でもマルティナを貶めないと気が済まないのだろうか?
姉の言葉に、影響されたくない。せっかくのブラッドリーとの最後の日なのに。それでも、心は落とされる。考えたくない。明日からのことなんて。ブラッドリーがいなくなることなんて。
「テラスに出よう」
誰かに声をかけられたのか、姉の姿はいつの間にか消えていた。優しく手をひくブラッドリーにそのままついていく。テラスは開放感があって広かった。広間で卒業する仲間との別れを惜しんでいるのか、交流を深めているのか、テラスには人の気配はなかった。
「マルティナ、踊ろう」
大柄なブラッドリーは意外と器用で、広間から流れるダンス曲に合わせて、スムーズにマルティナをリードしてくれる。マルティナは全てをブラッドリーに預けて、踊った。
いつもより近い距離で、感じるブラッドリーの体温とまとっている新緑の香り。幸せな気持ちと切ない気持ちが混じる。
「ふふふ、私、はじめ本当にブラッドリーのこと、なんて人なのって思ったの。唐突で失礼で、ちっとも人の話を聞かないし、強引だし……」
「はぁー。確かにその通りだよな。最低だよなー」
「でもね、そのおかげで、壁が壊されたというか……ちゃんと生きてるって思えるようになったっていうか……自分を生きれるようになったと思うの。感謝しているわ」
「ははっショック療法みたいな? 俺だって、こんなに興味を惹かれて、突撃しちゃう人はマルティナが初めてだよ」
「まるで珍獣みたいね」
「うん、それは否定しない。マルティナは俺達になんの得があるのか気にしてたけど、一年間一緒にいられて、本当に楽しかったし、充実してたよ。ありがとう」
「ブラッドリー、こちらこそ一年間ありがとう。私のお願いを聞いて、話を聞いて、支えてくれて。あなたとエリックがいなかったら、きっと、問題が山積みなこの一年間でつぶれていたわ。本当に感謝しているの」
「マルティナ……」
「私、ブラッドリーに恥じないように生きるから。今まで助けてもらった分、ちゃんとがんばるから。私もやればできるって証明して、胸をはって生きていくわ」
涙がこぼれそうになって、一気にまくしたてるように言いたいことを言う。
全部、全部言わなくては。忘れていることはない?
感謝とこれからの意気込み。
だって、隣国に行くか?って誘ってくれたブラッドリーの手をとらなかったのは私なのよ。
もちろん、そんなことをして、ブラッドリーが罰せられるのが一番怖い。
それでも、貴族令嬢としての義務に縛られて、未知のことに飛び込む勇気がないのも事実。
学園を卒業して、家族と縁を切って、隣国に行きたい、そんな夢はある。でも、父に命令されれば、貴族令嬢としてどこかへ嫁ぐだろうし、うまく事が進むとは限らない。
そんな飛沫のようなマルティナの夢にブラッドリーを巻き込むわけにはいかない。
踊り終わって、名残惜しくて手はつないだまま、テラスの手すりに身を寄せて、二人で宵闇に散る星を眺める。
「マルティナ、俺、まだあと一年はこの国にいるから。いつでもリリアンみたいに商会に遊びに来てよ。いつでも話聞くから」
国に帰ってしまうと思っていたマルティナははっと顔を上げる。だめだ、そんな優しい言葉をかけられたら、期待してしまう。甘えてしまう。だめだ。涙がこらえられなくなる。
マルティナは静かに首を横に振った。
きちんと断ち切らないと。自分で決めたのだから、中途半端はだめだ。泣いては駄目だ。
「大丈夫。もう私の足場になってくれなくても大丈夫。姉からは本当に嘘みたいに解放されたの。母も最近はだいぶマシになったし。
大丈夫なの、私。まだ頼りないかな? 一人でもがんばれるから、大丈夫。ブラッドリーも元気でお仕事がんばって……」
せっかく最後は心配させないように、明るく終わろうと思ったのに、涙声になって震えてしまう。
だめだ、シャンとしなくちゃ。これから、私は一人で立って行かなくちゃいけないから。
「マルティナ、がんばらなくてもいい。ただ、自分が幸せになることだけ考えて。どうしても辛くなったら、いつでも会いにきて」
どこまでもやさしいブラッドリーの言葉に、マルティナの涙腺は決壊した。
いつの間にブラッドリーはマルティナにとって、こんなに大切な存在になっていたんだろう。
離れがたい。そんな思いを抱えて、マルティナはブラッドリーと手を固く固くつないだまま、涙を流した。
私はいつの間にこんなに泣き虫になったんだろう。
このまま二人でどこかに行きたい。でも、それはできない。
どうにもならない別れのひと時はひどく苦かった。
「マルティナの幸せを祈ってる」
ブラッドリーの言葉が星のきらめく夜空に吸い込まれていった。
もう、今日が最後。今日は素直に全て思ったことをして、思ったことを言おうと決めていたマルティナはうっとりとブラッドリーに見惚れる。
「背も高くて、体格もいいし、制服もとっても似合っていたし、商会にいるときの普段の格好もよかったけど、タキシードが本当に似合うわね。想像以上だわ。堂々としていて、撫でつけている前髪も似合っているわ。男前ってこういうことを言うのね……」
「ふふふ、ブラッドリーったら照れちゃって、耳が真っ赤じゃなーい。マルティナちゃん、今日はどうしたの? まさかもうお酒飲んでいるなんてことないわよね?」
「あっ! ブラッドリーもエリックもご卒業おめでとうございます! 今日は、最後の日だから、思ったこと全部言おうと思って……ブラッドリー迷惑かな?」
「や……大丈夫、うん……。うれしい……。んん、大丈夫、落ち着いた」
ブラッドリーの耳が赤くなっているのを見て、なんだかうれしくなる。ブラッドリーから腕を差し出される。夢にまで見たブラッドリーのエスコートに胸が高鳴る。主役でもないのに、涙が出そうだ。
「マルティナも、今日の格好似合ってる。かわいい」
耳元でささやかれる言葉に胸がときめく。ブラッドリーと二人で選んだのは、深い赤色のシンプルなマーメイドラインのドレスで、我ながらよく似会っていると思う。
「本当は装飾品を送りたかったけど、形に残るものだと困るかなと思って、用意したんだけど、髪にかざってもいい?」
そう言ってブラッドリーが差し出してくれたのは、赤い生花で、きちんと髪に刺せるよう処理されていた。マルティナがこくりと頷くと、耳の後ろのあたりにそっとつけてくれた。
「やだーマルティナちゃん、やっぱりかわいいー。その花のアイディア、私なのよーすごくなーい? 花を選んだのはブラッドリーだけど、髪の毛にさせるように、処理したのは、ア・タ・シ☆ 感謝してくれていいわよー」
「ふふふ、エリックもブラッドリーもありがとう。いつも色々考えてくれて……いつも私ばっかり嬉しい気持ちにさせてくれて、本当に感謝してるよ!」
いつものテンションのエリックの横で、ブラッドリーは静かにマルティナを見ていた。その目に熱がこもっていると思うのは、うぬぼれすぎなのかな?
今日くらいいいかな? 好きな人と歩ける最後の日くらい、浮かれてもいいかな?
ブラッドリーにエスコートされて歩いていると、今まで参加したパーティーの時とは違って景色が色づいてみえる。煌めくシャンデリアや豪華な装飾、色とりどりのドレスとそれに寄り添う黒いタキシード。全ての景色が輝いてみえる。
今年の卒業生に王族はいないので、注目の中心は、姉と公爵家嫡男の婚約者だ。相変わらず煌びやかな二人とまわりを幾重にも囲う人々を他人事のように見て、マルティナはブラッドリーとの時間を楽しんだ。
卒業したら国に帰ってしまう留学生のブラッドリーと伯爵家のハズレであるマルティナは、誰に注目されることもなかった。
姉はマルティナを様々な方法で屈服させて、無事に本懐を遂げた。次期公爵夫人として、何一つ傷のない華々しい淑女として卒業していく。そのことに、虚しさや怒りは今はない。
むしろ、マルティナの力を上手く使って、自分は楽をして、学業の結果を残し、生徒会長として華々しく卒業する。それで、本当に満足なのだろうか?と思う。
考え方は人それぞれだけど、マルティナはこの一年間、ブラッドリーやエリックに支えられて、試行錯誤して、そのたびに母や姉に叩き潰されたけど、その経験はなにものにも代えがたい思い出だ。
泥にまみれるような苦しい日々を一緒にいてくれたブラッドリーとの絆はマルティナの宝物だ。姉はいつも優雅な仮面を婚約者にすらかぶって、本当の自分を見せれなくて苦しくはないのだろうか?
「エリックはエスコートはどうしたの?」
「卒業パーティーは学生だけの参加だし、エスコートなしでもOKらしい。あいつはそつなく輪に混じれるから、心配いらないよ」
「あの社交性はうらやましいわね」
実際に、おしゃれな女の子達の群れの中で楽しそうに会話して盛り上がっている。
「いくら卒業生を引き立てる日だからって、その生地は安っぽいんじゃなくて?」
いつの間にか、姉がブラッドリーとマルティナの背後に立っていた。
「お姉様! ご卒業おめでとうございます」
形ばかりの祝福の言葉とカーテシーを贈る。ブラッドリーも隣で静かに頭を下げる。
「卒業生を祝福する日だというのに浮かれて、姉への祝福も忘れているなんて、妹失格ね。まぁ、でも浮かれていられるのも今日までかしらね……またマルティナは一人ぼっちになるんだものね、ふふふ。わたくしもそこの留学生もいなくなって」
姉は自分が華々しく主役になっている日でもマルティナを貶めないと気が済まないのだろうか?
姉の言葉に、影響されたくない。せっかくのブラッドリーとの最後の日なのに。それでも、心は落とされる。考えたくない。明日からのことなんて。ブラッドリーがいなくなることなんて。
「テラスに出よう」
誰かに声をかけられたのか、姉の姿はいつの間にか消えていた。優しく手をひくブラッドリーにそのままついていく。テラスは開放感があって広かった。広間で卒業する仲間との別れを惜しんでいるのか、交流を深めているのか、テラスには人の気配はなかった。
「マルティナ、踊ろう」
大柄なブラッドリーは意外と器用で、広間から流れるダンス曲に合わせて、スムーズにマルティナをリードしてくれる。マルティナは全てをブラッドリーに預けて、踊った。
いつもより近い距離で、感じるブラッドリーの体温とまとっている新緑の香り。幸せな気持ちと切ない気持ちが混じる。
「ふふふ、私、はじめ本当にブラッドリーのこと、なんて人なのって思ったの。唐突で失礼で、ちっとも人の話を聞かないし、強引だし……」
「はぁー。確かにその通りだよな。最低だよなー」
「でもね、そのおかげで、壁が壊されたというか……ちゃんと生きてるって思えるようになったっていうか……自分を生きれるようになったと思うの。感謝しているわ」
「ははっショック療法みたいな? 俺だって、こんなに興味を惹かれて、突撃しちゃう人はマルティナが初めてだよ」
「まるで珍獣みたいね」
「うん、それは否定しない。マルティナは俺達になんの得があるのか気にしてたけど、一年間一緒にいられて、本当に楽しかったし、充実してたよ。ありがとう」
「ブラッドリー、こちらこそ一年間ありがとう。私のお願いを聞いて、話を聞いて、支えてくれて。あなたとエリックがいなかったら、きっと、問題が山積みなこの一年間でつぶれていたわ。本当に感謝しているの」
「マルティナ……」
「私、ブラッドリーに恥じないように生きるから。今まで助けてもらった分、ちゃんとがんばるから。私もやればできるって証明して、胸をはって生きていくわ」
涙がこぼれそうになって、一気にまくしたてるように言いたいことを言う。
全部、全部言わなくては。忘れていることはない?
感謝とこれからの意気込み。
だって、隣国に行くか?って誘ってくれたブラッドリーの手をとらなかったのは私なのよ。
もちろん、そんなことをして、ブラッドリーが罰せられるのが一番怖い。
それでも、貴族令嬢としての義務に縛られて、未知のことに飛び込む勇気がないのも事実。
学園を卒業して、家族と縁を切って、隣国に行きたい、そんな夢はある。でも、父に命令されれば、貴族令嬢としてどこかへ嫁ぐだろうし、うまく事が進むとは限らない。
そんな飛沫のようなマルティナの夢にブラッドリーを巻き込むわけにはいかない。
踊り終わって、名残惜しくて手はつないだまま、テラスの手すりに身を寄せて、二人で宵闇に散る星を眺める。
「マルティナ、俺、まだあと一年はこの国にいるから。いつでもリリアンみたいに商会に遊びに来てよ。いつでも話聞くから」
国に帰ってしまうと思っていたマルティナははっと顔を上げる。だめだ、そんな優しい言葉をかけられたら、期待してしまう。甘えてしまう。だめだ。涙がこらえられなくなる。
マルティナは静かに首を横に振った。
きちんと断ち切らないと。自分で決めたのだから、中途半端はだめだ。泣いては駄目だ。
「大丈夫。もう私の足場になってくれなくても大丈夫。姉からは本当に嘘みたいに解放されたの。母も最近はだいぶマシになったし。
大丈夫なの、私。まだ頼りないかな? 一人でもがんばれるから、大丈夫。ブラッドリーも元気でお仕事がんばって……」
せっかく最後は心配させないように、明るく終わろうと思ったのに、涙声になって震えてしまう。
だめだ、シャンとしなくちゃ。これから、私は一人で立って行かなくちゃいけないから。
「マルティナ、がんばらなくてもいい。ただ、自分が幸せになることだけ考えて。どうしても辛くなったら、いつでも会いにきて」
どこまでもやさしいブラッドリーの言葉に、マルティナの涙腺は決壊した。
いつの間にブラッドリーはマルティナにとって、こんなに大切な存在になっていたんだろう。
離れがたい。そんな思いを抱えて、マルティナはブラッドリーと手を固く固くつないだまま、涙を流した。
私はいつの間にこんなに泣き虫になったんだろう。
このまま二人でどこかに行きたい。でも、それはできない。
どうにもならない別れのひと時はひどく苦かった。
「マルティナの幸せを祈ってる」
ブラッドリーの言葉が星のきらめく夜空に吸い込まれていった。
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