【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

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番外編

周りで見守る人達の話② side タニア(アイリーン専属侍女)

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レッドフォード公爵家の暗部の者達の暮らす村で、ひそやかにアイリーン×クリストファー夫婦見守る人達の話。一話。アイリーンの専属侍女のタニア視点。Rはなし。
――――――――――――――――

  「辛かったら、いつでも下りていいんだぞ」
 気づかわし気に、この屋敷の家令でタニアの夫でもあるダンがタニアに言葉をかける。ダンは女性にしては大柄なタニアより背が大きい。斜め上を見上げて、ダンと視線を合わせてから首を横に振る。大柄で陽気なダンは、おおざっぱに見せかけて、繊細で周りをよく観察している。

 アイリーンがこの暗部の者が暮らす村に幽閉されて二年近く経った。この村に来た当初からアイリーンのヒステリーが酷くて、タニアが専属のような形で面倒を見ている。別にこの村にいる者達は背格好に関わらず鍛えているので誰が担当しても大丈夫なのだが、アイリーンもタニアのような大柄で見るからに強い者の方が大人しく従うだろうというダンの采配だった。それに、若い人達にはヒステリーを起こしたり、発狂する人の世話は、いくら鍛錬を積んでも辛いものがあるだろう。

 今、タニアを悩ませているのはアイリーンのヒステリーや癇癪ではない。アイリーンは突如として自分の過去を悔い始めて、それ以降、どんどん衰弱していって、今は介護状態にある。そのことを割り切れずに悩んでいるタニアをダンは心配しているのだ。

 「どうするのが正解なんでしょうね……」
 普段は自他共に厳しいタニアだが、ダンの前だとどうしても気が緩んで、つい本音が零れてしまう。

 「そうだね。僕にはなにもできないけど、この状況を悔しいとは思うよ。でも、タニア、生を諦めてしまった人の負の引力は強い。無理だと思ったら、他の人に交代するんだ」

 「わかった。もう少しだけ、がんばらせてほしい」
 そう言いながらも、タニアにもどうしたらよいのかわからなかった。

 アイリーンは自分の過去をとても悔いている。でも、アイリーンだって利用された駒に過ぎないのだ。クリストファーの婚約者の選定は難航した。外見、優秀さ、所作、爵位などを考えると高位貴族の子女で全てを兼ね備えているのはフェザーストン侯爵家のアンジェリカしかいない。ただ、簡単にレッドフォード公爵家がフェザーストン侯爵家の娘を娶ることはできなかった。保守派で歴史あるレッドフォード公爵家と革新派で新興貴族であるフェザーストン侯爵家、派閥の違いは大きい。それに公爵家が勢いのある侯爵家と結びつくとなると、横槍も入るだろう。両家が裏で取引し、クリストファーに一旦、仮初の婚約者を置いて、結婚直前か結婚後にアンジェリカを滑り込ませることになった。

 仮初の婚約者にちょうどよかったのが、アイリーンだったのだ。美しくてそれなりに優秀なアイリーンはよい目眩しになった。クリストファーがアイリーンに執着していることなど先代公爵夫婦にはすぐ見抜かれていた。どこか甘さの残るクリストファーを鋭利な公爵家当主にするためにも、アイリーンという生贄が必要だったのだ。アイリーンの言う所のアイリーンの悪い所も全て調べげられていた。スコールズ伯爵家にだって、レッドフォード公爵家の暗部の者が入り込んでいたのだ。アイリーンが上手く自滅してくれたおかげで、不出来な第一夫人に全てを被せて、大人達の筋書き通りに事は進んだのだ。クリストファーとアイリーンとアンジェリカの心を犠牲にして。

 そういった事情を知っていた事もあって、タニアはアイリーンがヒステリーを起こしても、発狂しても、淡々とそれにつきあい、世話をした。アイリーンに心を持って行かれないように自制していたつもりだった。タニアは自分にも部下にも、仕える主に余計な情を持たないようにと戒めている。

 それなのに、自分を責めて悔いて、自分を傷つけ、消極的に命を終わらせようとするアイリーンを見ていると、もどかしい気持ちが湧いて来た。指令は来ていないが、暗部の村に囲われたアイリーンにあわよくば儚くなってほしいというのが公爵家の総意だろう。

 このままでいいの? このまま、あなたは公爵家の思う通りに命を散らしていいの?
 体を清める時に、持ち上げるアイリーンの体はどんどん軽くなっていく。アイリーンの命が日々、体からこぼれていっているようだった。

 いいわけがない。
 ある日、突然、強い思いがタニアの中に湧いて来た。アイリーンを亡き者にせよという指示は出ていない。なら、生かしてもいいじゃないか。この忘れられたような土地で生きることくらい許されるだろう。

 そうはいっても、本人にまるで生きる気力はない。タニアの介助で最低限の水分やどろどろに溶かした流動食は口にするが、口を動かすことすら疲れるのかその量もどんどん減っていた。

 なにかないのか? アイリーンに生きる希望を持たせるものはないのか?
 なるべく天気のいい日は窓を開け放ち、口下手なタニアの代わりにダンに話しかけてもらう。部屋に花を飾ったり、匂い袋を枕元に置いてみたりした。流動食の味付けも料理人と相談して、毎日違うものにした。それでも、最近はずっと閉じられている瞼が開くことはほとんどない。

 『なんでもいいから生きて!』そんなタニアの願いが通じたのか、ぴくっとアイリーンの瞼が動いたかと思うと、ゆっくりと瞼が開いた。
 「きれい……」かすかな声でつぶやくと、涙を流している。

 なに? 今、アイリーンの心を動かしたのはなに? 
 タニアは耳を澄まし、辺りの匂いを嗅ぐ。「歌……?」開け放たれた窓から美しい歌声が聞こえてくる。確か、今日は教会が補修の工事で使用できなくて、公爵家の屋敷の庭を聖歌隊の練習に貸している。タニアはなりふりかまわず聖歌隊の面々に事情を話し、頭を下げて協力を仰いだ。毎日のように聞こえる歌声に、アイリーンは命を吹き返した。

 人の心は簡単に動かない。でも、伝わるものもある。アイリーンの心を聖歌隊の皆の合唱が動かしたように。ただ、死を待つばかりだったアイリーンがタニアの心を動かしたように。アイリーンの生きざまの変化に村人達も静かに影響を受けた。

 「この村に奥様を捨て置いたのは公爵様でしょう? あれだけ公爵家は奥様を利用して! それでも、気がすまないんですか? 今はただ静かに暮らしているだけなのに! ……なんで、なんで……」
 隣でアンの呪詛のようなつぶやきが聞こえる。アンももちろん村人達も公爵家の裏側の事情を知っている。アンはアイリーンが衰弱から回復してから、アイリーンの専属侍女となったが、今ではタニアを越えるくらいアイリーンに心酔している。

 五年前、アイリーンを連れて来た時のように突然クリストファーが現れて、アイリーンを蹂躙し始めた。初めはうめき声をあげていたが、途中からは虚ろな瞳で空を見て魂のない人形のようになってしまったアイリーンを蹂躙しつづける獣のようなクリストファーを見守った。それは身を切られるような時間だった。かつて短い期間ではあるがダンと自分が可愛がっていたクリストファーが、大切に慈しんでいたアイリーンを蹂躙する様はこの世の地獄のようだった。

 なんでだろう? 訓練すれば、表情や感情はある程度制御できるようになる。でも、結局心を強くすることなんてできない。いつまでたっても、タニアの心は強くならない。この光景が辛くて仕方ない。

 隣で涙を零して殺気を放つアンを諫めながら、ただ早くこの時間が終わるように祈った。
 
 アイリーンは、アンの憤りも涼しい顔で聞き、痛みに弱音を吐くことも、公爵家やクリストファーに怒る事も恨む事もなかった。アイリーンは過去の自分を省みてから、自分を傷つけられることに鈍くなり、自分の命を軽んじる傾向にあった。どんな言葉なら、アイリーンに届くのだろう? 公爵家の内情を話した所で、それでも自分を責めるのだろう。アイリーンの体を丁寧に処置しながら、紙にアイリーンの負った傷や怪我の詳細を書きこんでいく。

 タニアはアイリーンをこんな目に遭わせるために、生かしたのではないのに……
 紙に涙の跡が滲む。タニアは自分の無力さと浅はかさを味わった。

 それからは、だんだんとクリストファーの態度が軟化したことに、ほっとした。だが、今度は二人は自分たちの立場に悩まされている。自分達の置かれた立場と自分の気持ちに板挟みになっているクリストファーやアイリーンを見ると貴族も暗部の者も一緒なのではないかと思う。自分の役割の為に心を殺さないといけない。

 「いつの時代も、暗部の者も貴族も世知辛いものですからね。義務や責務と自分の心に挟まれて。もっと、楽に生きていければいいんですけどね……」
 そんな二人を見て、いつもの軽い調子で言っているダンの言葉もタニアには重く感じた。

 幸せになってほしい、楽に生きて欲しい。
 柄にもなくそう願っていた二人の笑顔があふれている。アイリーンとクリストファーは泥の中でもがくようにお互いを求めて、そして奇跡を起こした。

 「ねー、ダンもタニアもそろそろ引退してのんびりしたいなーとか思わないの?」
 アイリーンは、ソファでのんびりハーブティーを飲みながら大きくなってきたお腹をさする。

 「私もタニアも、のんびりしているのは性に合わないんです。それに、奥様も旦那様もまだまだ半人前ですから。目が離せませんよ。これから人手もいりますしね」
 口数の少ないタニアの代わりに、今日もダンが返事をしてくれる。

 「まー、ダンとタニアがいてくれると本当に心強いんだけどね。ゆっくり旅行したりして暮らしたいのかなって思ったりして……」
 暗部という仕事柄、この村の者達の引退は早い。引退した者達が旅行したり、趣味に勤しんでいるのを見て思う所があったのだろう。

 「それに、私達には子どもがいませんから、小さい頃に少しお世話した坊ちゃまのお子様は孫のようなものなんですよ。もちろん、村の子ども達も私達の子どものようなものですがね。奥様も手のかかる子どものようでしたし、思い入れがあるんですよ」

 「ふふっ。それなら、ありがたいけど」
 柔らかい笑みを浮かべるアイリーンの腰を抱いて、クリストファーも猫のように隣でくつろいでいる。

 その光景はタニアの好きな恋愛小説の結末のようだった。そして、この先も小説よりも幸せな光景が近くで見られるのだろう。それは、旅行より趣味よりなによりも老後の自分の潤いになるだろう。

 いつだって、正解なんてわからない。アイリーンもクリストファーも、そしてタニアも自分の気持ちにつき動かされてここまでやってきた。暗部の者としては失格かもしれない。それでも、タニアはあの時の自分は間違ってなかったと確信を持って言える。

【sideタニア end】
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