【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

文字の大きさ
上 下
45 / 46
番外編

side アンジェリカ③ 私の拗れた恋の行方

しおりを挟む
 もう、アイリーンの元へ通っていることを隠すことをしなくなったクリストファーにアンジェリカは焦れた。

 「あなたって、お祖父さまとお義母さまの子どもなのよ」
 それでも、どうしても、アンジェリカを見てほしくて、クリストファーの地雷を踏む。もうクリストファーはアンジェリカを見ることもなく姿を消した。アンジェリカはその場に崩れた。彼を今度こそ失ったかもしれない。でも、もういっそ消えてほしいとも思う。自分はいつまでこの恋心を持っていないといけないのだろう?

 「なーアンジェリカ、もうクリストファーのこと諦めないか? あいつをこの家から解放してやらないか? もう、クリストファーもアンジェリカも十分、苦しんだし、がんばっただろ? クリスのこと好きなままでいいから、ちょっとずつでいいから俺と新しい関係を作っていかないか? 子ども達と一緒に。アンジェリカ、君はもう楽になってもいいんだよ」
 ひどい嵐の中で、クリストファーの安否もわからず泣きじゃくるアンジェリカに叔父の言葉が響く。アンジェリカは小さく頷いた。どの道、彼はもうアンジェリカの元へは戻ってこない、そんな確信があった。

 その後のことは、嘘みたいにスムーズに進んだ。元気な姿で公爵邸に帰ってきた夫の顔はすっきりしていた。真摯な顔で、アンジェリカにこれまでのことを謝罪し、これからの公爵家を頼むと頭を下げられた。相変わらず誠実な態度の彼に、残っている恋心がうずいた。

 クリストファーは馬車の事故で亡くなったと偽装された。遺体は無残な姿なのでと棺は閉じられた状態だったが、棺に縋り号泣するアンジェリカの姿に、クリストファーの死は疑われることはなかった。これでアンジェリカは拗れた恋心と決別できた気がした。

 それ以来、つきものが落ちたみたいにすっきりした。

 「なんで、あんなしょーもない顔だけの男に執着してたのかしら?」
 アイリーンの膨らんだお腹にほおずりして、顔をだらしなくゆるませる男を眺めて、ハーブティーを啜る。

 「刷り込みって怖いわね。夫のが、包容力も余裕もあるし、夜もすてきだし、よっぽどいい男なのに。視野が狭かったのかしら?」
 その死を偽装して、アイリーンと辺境の村で夫婦として暮らす元夫を眺めながら一人ごちる。

 果たして、私はアイリーンにべったり甘えて、無邪気で情けないこの男の本性を知っても受け止められたのかしら?

 私の中で、クリストファーは孤高で、清廉で、冷たくて、正義感と責任感が強いイメージだった。そんな彼に恋していた。中身がこんなんだって知ったら、冷めていたかもしれない。

 「アンジェリカはわざわざこんな辺境まで、クリストファーの悪口をわざわざ言いにきたわけ? クリストファーほどいい男はいないわよ! クリストファーは確かにかっこいいけど、それだけじゃなくって優しいし、頼りになるし、それにあっちのほうも最高なんだから!」
 アイリーンは愛おしそうにクリストファーの髪をなでながら吠える。クリストファーはアイリーンのお腹に夢中でアンジェリカは眼中にないようだ。

 「ほんっと、男の趣味悪いわねー」
 アイリーンの毒のある軽口にアンジェリカは癒される。なんでだろう、以前のおっとりと嫋やかな雰囲気の彼女より親近感がある。社交界で公爵夫人として気の抜けない日々を送っているアンジェリカの良い息抜きになっていることは、本人には内緒だ。

 「まぁ、そう言ってやるなよ。蓼食う虫も好き好きって言うだろ?」

 「それ、全然フォローになってませんけど? もー好きなときに来て、好き放題言って!」
 叔父からのフォローにもならない言葉に、ぷりぷりと怒りながらも、アンジェリカの好物のハーブティーや料理を用意してくれるのを知っている。結局のところ、アイリーンって人垂らしなのかしらね? アイリーンの妊娠が発覚してからは、前公爵夫婦まで出入りするようになった。王都からほどよい距離。公爵家の暗部の者達が暮らす村だから、警備もばっちり。アイリーンや屋敷の者達の配慮で居心地もいい。自然豊かで、からかいがいのある友達もいる。

 「意外と、幸せなのかもね?」
 隣でほほ笑む夫と近くで猫と戯れる子ども達を見て、笑みを返す。

 これが私の拗らせた恋の物語の行く末よ。

【アンジェリカside end】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...