【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

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番外編

side アンジェリカ③ 私の拗れた恋の行方

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 もう、アイリーンの元へ通っていることを隠すことをしなくなったクリストファーにアンジェリカは焦れた。

 「あなたって、お祖父さまとお義母さまの子どもなのよ」
 それでも、どうしても、アンジェリカを見てほしくて、クリストファーの地雷を踏む。もうクリストファーはアンジェリカを見ることもなく姿を消した。アンジェリカはその場に崩れた。彼を今度こそ失ったかもしれない。でも、もういっそ消えてほしいとも思う。自分はいつまでこの恋心を持っていないといけないのだろう?

 「なーアンジェリカ、もうクリストファーのこと諦めないか? あいつをこの家から解放してやらないか? もう、クリストファーもアンジェリカも十分、苦しんだし、がんばっただろ? クリスのこと好きなままでいいから、ちょっとずつでいいから俺と新しい関係を作っていかないか? 子ども達と一緒に。アンジェリカ、君はもう楽になってもいいんだよ」
 ひどい嵐の中で、クリストファーの安否もわからず泣きじゃくるアンジェリカに叔父の言葉が響く。アンジェリカは小さく頷いた。どの道、彼はもうアンジェリカの元へは戻ってこない、そんな確信があった。

 その後のことは、嘘みたいにスムーズに進んだ。元気な姿で公爵邸に帰ってきた夫の顔はすっきりしていた。真摯な顔で、アンジェリカにこれまでのことを謝罪し、これからの公爵家を頼むと頭を下げられた。相変わらず誠実な態度の彼に、残っている恋心がうずいた。

 クリストファーは馬車の事故で亡くなったと偽装された。遺体は無残な姿なのでと棺は閉じられた状態だったが、棺に縋り号泣するアンジェリカの姿に、クリストファーの死は疑われることはなかった。これでアンジェリカは拗れた恋心と決別できた気がした。

 それ以来、つきものが落ちたみたいにすっきりした。

 「なんで、あんなしょーもない顔だけの男に執着してたのかしら?」
 アイリーンの膨らんだお腹にほおずりして、顔をだらしなくゆるませる男を眺めて、ハーブティーを啜る。

 「刷り込みって怖いわね。夫のが、包容力も余裕もあるし、夜もすてきだし、よっぽどいい男なのに。視野が狭かったのかしら?」
 その死を偽装して、アイリーンと辺境の村で夫婦として暮らす元夫を眺めながら一人ごちる。

 果たして、私はアイリーンにべったり甘えて、無邪気で情けないこの男の本性を知っても受け止められたのかしら?

 私の中で、クリストファーは孤高で、清廉で、冷たくて、正義感と責任感が強いイメージだった。そんな彼に恋していた。中身がこんなんだって知ったら、冷めていたかもしれない。

 「アンジェリカはわざわざこんな辺境まで、クリストファーの悪口をわざわざ言いにきたわけ? クリストファーほどいい男はいないわよ! クリストファーは確かにかっこいいけど、それだけじゃなくって優しいし、頼りになるし、それにあっちのほうも最高なんだから!」
 アイリーンは愛おしそうにクリストファーの髪をなでながら吠える。クリストファーはアイリーンのお腹に夢中でアンジェリカは眼中にないようだ。

 「ほんっと、男の趣味悪いわねー」
 アイリーンの毒のある軽口にアンジェリカは癒される。なんでだろう、以前のおっとりと嫋やかな雰囲気の彼女より親近感がある。社交界で公爵夫人として気の抜けない日々を送っているアンジェリカの良い息抜きになっていることは、本人には内緒だ。

 「まぁ、そう言ってやるなよ。蓼食う虫も好き好きって言うだろ?」

 「それ、全然フォローになってませんけど? もー好きなときに来て、好き放題言って!」
 叔父からのフォローにもならない言葉に、ぷりぷりと怒りながらも、アンジェリカの好物のハーブティーや料理を用意してくれるのを知っている。結局のところ、アイリーンって人垂らしなのかしらね? アイリーンの妊娠が発覚してからは、前公爵夫婦まで出入りするようになった。王都からほどよい距離。公爵家の暗部の者達が暮らす村だから、警備もばっちり。アイリーンや屋敷の者達の配慮で居心地もいい。自然豊かで、からかいがいのある友達もいる。

 「意外と、幸せなのかもね?」
 隣でほほ笑む夫と近くで猫と戯れる子ども達を見て、笑みを返す。

 これが私の拗らせた恋の物語の行く末よ。

【アンジェリカside end】
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