【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

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エピローグ

嘘みたいな本当の話

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 「はーぁ、誰がこんな未来になるなんて、思ったかしら? 私って、人里離れた静かな屋敷で、憎しみと懇願に塗れて孤独に、残りの人生を過ごすはずだったんじゃないのかしらね?」
 アイリーンは自分のお腹のあたりに抱き着いている夫のサラサラとした髪をなでながら、つぶやく。

 「ふふふ、男の子かな? 女の子かな? 楽しみだなぁ。パパですよー聞こえますかー?」
 アイリーンの膨らんだお腹に、頬ずりしながら話しかけている夫に、かつての憔悴して影を背負っていた面影はない。眉間にいつも刻まれていた皺もだいぶ薄くなった。

 「あなた、子種ないんじゃなかったの?」

 「奇跡だよ! 私とアイリーンの愛が奇跡を起こしたんだよ!」
 紆余曲折を経て、公爵家当主の座から解放された夫は、子ども時代を取り返すかのように無邪気に振る舞う。それを可愛いなぁなんて思ってしまうのだから、アイリーンも重症だ。

 「そりゃ、猿みたいにいつでも盛っていたら、できないもんもできるんじゃないか? だいたい、お前の父親とお前って単に幼少期に流行り病にかかって高熱出したってだけで、子どもができにくいかも?ぐらいの話なんだろ?」

 「公爵家当主様がこーんな片田舎でくつろいでいていいんですか? クリストファーから爵位を簒奪したんですから、キリキリ働いてくださいよ。私達が安穏と暮らせるように」

 「相変わらず、厳しいなーアイリーンちゃんは。俺はクリストファーと違って要領いいですから。信頼できる部下を育てて、俺がちょっといなくても仕事が回るようにしてきてるよ」
 なぜかアイリーンの向かいで、叔父がコーヒーを片手にくつろいでいる。

 「「パパ―」」
 金色の髪に、青色の目をした女の子が二人よたよたと駆けてくる。
 「おーどうした、俺の天使たち」
 両手で二人の子どもを掬い上げるように、抱っこする叔父の顔はデレデレとしまりがない。

 「叔父さんはともかく、なんであんたまで来てんのよ」
 「ふんっ。あんた達が放り捨てた公爵家を立て直して、ちゃんと夫と回しているんだから、もっと労りなさいよ。公爵夫人にだって、休憩は必要なのよ」
 金髪青目のすっきりとした顔立ちの男の子の手を引いて、アンジェリカが歩み寄ってくる。
 「ふんっ。謝らないからね」
 「意外と気にするタイプなのね。もう、いいわよ。なんだかんだいって感謝もしているし」
 テーブルについて、茶菓子をつまみながら、アンジェリカがつぶやくように言う。アンジェリカは紅茶のティーカップを見るたびに、アイリーンに紅茶をかけたことを思い出すのか、同じことを言う。

 「それで、あなたも二度と会わないみたいな空気をかもし出していたけど、なんでここにいるのよ?」
 「いやーレッドフォード公爵家の隠密の村に興味あってさー。あー……すみません、冗談です。投げナイフをちらつかせるのやめてください」
 アイリーンがここに来てから、一年半後くらいに精神的にとどめを刺しに来た、従弟のマシューが今日は会いにきている。マシューがアイリーン達のいるテーブルの傍で佇む家令のダンを見て弁明している。

 「マシュー、毒見しなくていいの? あなたも今は立派なスコールズ伯爵様なんでしょ?」
 「この村に入れた時点で大丈夫だよ。殺すつもりなら、既に殺されてるよ」
 「そぉ?」
 屋敷で働いている人はもちろん、村人すべてが暗部の人であるという話が未だに信じられないアイリーンはマシューの言葉に首をかしげる。従弟のマシューの呑気なところは伯爵家当主となっても変わらないらしい。

 「そうそう、今回、村に入ることを許可されたのは、君に有益な話があったからなんだよ。君の妹のマルティナとリリアンは隣国で、それぞれ結婚して、子どもにも恵まれているみたいだよ。幸せに暮らしているみたいだ。君のお父さんも、伯爵領の片隅で元気に暮らしているみたいだ。畑仕事が性に合っているみたいで、細々と村人と交流しながら静かに暮らしているって」
 「ふーん。それだけ?」
 「それだけって。家族のこと気にならないのか?」
 「前回、マルティナとリリアンが除籍されて隣国に渡って、マルティナが結婚したって話はあなたから聞いたじゃない。クリストファーが母のお墓参りに連れて行ってくれたときに、一瞬だけど父とも会ったの。元気そうだったし、一応母を弔う気持ちはあるみたいだし。それだけ知っていれば十分なの」
 「会いたい、とか思う?」
 「ふふふっ。うちの家族、みーんな貴族じゃなくなって、なんだか笑えるわね。見事にバラバラになって。マルティナやリリアンは私になんて、今更会いたくないわよ。でも、いいんじゃないかしら? 離れていてもみんなそれぞれ幸せに暮らしているんだから。ま、空はつながっているしね」
 「アイリーン、だいぶ変わったね。これが素なのかな? 亡くなったって聞いた時はさすがにびっくりしたけど。元気そうでよかったよ。じゃあね」
 「マシューも初恋は忘れられたの?」
 「あれは! うん。ちゃんと妻と子どもを愛してるから大丈夫だよ」
 気まずそうに笑うマシューを見送ると、アイリーンの隣でおとなしくアイリーンのお腹を撫でていたクリストファーが耳元に囁く。

 「ねー、二人きりになりたいから、散歩に行こうよ」
 どうしよう、結婚して七年……ちゃんと結婚して一緒に暮らし始めてからは一年経つのに未だに夫にときめいてしまう。

 「アイリーンは人気者だから、困るなー。私が見つけたのに」
 手をつないで、花が咲き誇る屋敷の庭を歩いていると、隣でクリストファーがむくれている。
 「別に私に会いに来てるわけじゃないでしょう?」
 「アイリーンは自分のこと、全然わかってない」
 立ち止まったクリストファーの足元に屋敷に最近住み着いたでっぷりとした猫がすり寄ってくる。
 
 「ねーこの猫アイリーンに似てない? なんかさー、ふてぶてしくて、図太いのに、時々すごく繊細で。たまんないよなー。ね、似てるでしょ?」
 「……? それ褒めてるの貶してるの?」
 半分本気で不安になる。クリストファーの方を困った顔をして見ると、キスされた。

 「可愛い、アイリーン。大好き」
 公爵の肩書を外してからのクリストファーは素直に思うままにアイリーンへ気持ちを伝えてくれる。キスや行為より、クリストファーの直球の言葉に頬が赤くなる。

 「もし、私がちゃんと公爵夫人の仕事をしていて、クリストファーとの間に子どもができていたら、きっと疑われていたでしょうね」
 「うん、きっと信じたいのに疑ってしまって苦しかったと思う」
 「今は?」
 「信じてる。私を愛してくれているのも知ってるし、アイリーンが私を裏切らないことも知っているし、アイリーンが私の顔や体に夢中なのも知ってるから」
 「最後の理由、余分じゃない?」
 「でも、本当でしょ?」
 ぷくっと頬を膨らませるけど、きっとアイリーンの気持ちなんて夫にはお見通しなんだろう。楽し気にクリストファーは笑っている。その笑顔を見て、彼は苦悩する表情より楽し気な表情のが似合うとしみじみ思う。

 「アイリーンがそうやって幸せそうに笑ってるのっていいね」
 クリストファーがアイリーンの頬を撫でて、その整った顔が再び近づいてくる。お互いの口を食べるようにキスを交わす。咲き誇る花の香りが漂い、ぽかぽかと天気がいい。クリストファーもアイリーンも晴れやかな気持ちで、青い空の下で愛のある口づけをしている。そのことに幸せを感じる。

 「まったく、公衆の面前でいちゃいちゃいちゃいちゃしないで下さいよ」
 「ここは、プライベートな敷地なんだけど?」
 「一応、私も身内ですからねー。出入り自由なんですよ」
 クリストファーは唇を離すと、アイリーンを抱きしめたまま、声をかけてきた人物に言い返す。
 そこに立っていたのは、神父だった。クリストファーの叔父の隠し子である彼は公爵家の別宅であるこの家に好きに出入りしている。

 「だいたい、ここは暗部の者達が暮らす村なんだから、プライベートスペースだろうが、どこだろうがなにをしてても筒抜けなんですけど?」
 神父の言葉に、アイリーンはこの村の野外や屋敷でところかまわずクリストファーと行為をしていたことを思い出して真っ赤になる。

 「そうやって、アイリーンにちょっかいかけるなよ。ただでさえ、私と顔が似ていてうっとうしいのに」
 「クリストファー、何回も言っているけど、彼の恋愛対象は男性だから大丈夫よ」
 クリストファーはアイリーンと離れている間に、神父がなにくれとなくアイリーンを気にかけていたことが気に食わないらしく、未だに突っかかっていく。
 「ふふふふ。男性も好きだけど、女性も好きなんですよ。どっちでもいけるんです。それにけっこう奥様はタイプなんですよ。母親の面影があるからだけじゃなくて。あながち、クリストファーの心配も的を射ているんですよ」
 「お前、結婚式の時に諦めたって言っただろう!」
 「そんなこと、言いましたっけ?」
 「また、そんな冗談言って。私なんかを好きになるもの好きはクリストファーくらいしかいないわよ」
 クリストファーに似た青い目でアイリーンを見て、妖艶に笑う。神父の色気もからかうような口説き文句も、自己評価の低いアイリーンには全く響かない。
 「じゃ、そろそろ仕事に行ってきまーす。あなた達が来てくれたおかげで、事務仕事は減ったし、出張仕事もできるから、こちらとしても助かりますけどね」
 現れた時と同じように、前触れもなく神父の姿が消えた。
 「まったく、油断も隙もない」
 クリストファーが疲れたようにぼやく。

 「なんか、私達、遠回りしちゃったわねー」
 クリストファーに抱きしめられたままのアイリーンはそのままクリストファーに寄りかかってつぶやく。どこまでも広がる青い空に浮かぶ雲を眺める。

 「でも、きっと必要だった」
 クリストファーの年を重ねても美しい顔を見る。今日の空のように澄んだ空色の瞳はまっすぐにアイリーンを見つめている。頭を撫でられて、猫のようにクリストファーに顔をすりつける。

 未だに、過去の自分があんな事をしなければ、もっとああしていればと思う事もある。それが、今に至るのに必要だったと言われても素直には頷けない。自分もクリストファーもボロボロに人を傷つけ、自分も傷つけた。そうではない方法があったのではないか、と思ってしまう。
 
 「そうね、そうかもね」
 それでも、今は、自分の手にある幸せを今度こそは違えないように大切にしていくしかない。きっと、アイリーンはもう間違えない。自分の大きなお腹を優しく撫でる。クリストファーとダンとタニアとアンと村の人達と、そしてレッドフォード公爵家の人々と一緒なら、きっと大丈夫。

 「探されていても面倒くさいから、そろそろ戻ろうか」
 差し出されるクリストファーの手をとり、賑やかな家族の待つ場所へとアイリーンは一歩踏み出した。

 これは恵まれた環境に生まれたのに、クズだった私の嘘みたいな本当の物語。

【end】
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