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1 クズだった私のこれまで
13 二度と会う事はないと言った夫がやって来た
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そうして、穏やかな日々を送っていたところへ、突然夫がやってきたのだ。
「うーん、歌い始めが一拍遅れるんですよね。音程やリズムはさほどずれていないんだけど……」
「緊張しちゃうの。間違ってるんじゃないかとか……」
庭を散歩している時にふらりと現れた神父と雑談をしていると、遠くからざわめきが聞こえてくる。
そちらの方へ目線を向けると、アイリーンと神父の元へすごい勢いで向かってくるのは、夫であるクリストファーだった。相変わらず整った容貌をしているが、少しやつれていてひどい顔色をしている。綺麗だと昔は見惚れていた澄んだ水色の瞳は暗く陰っている。
「え? クリストファー? 本物? なんでここへ?」
「おやおや、妻を領地の片隅に追いやった公爵家御当主様の登場ですか?」
アイリーンが戸惑っているうちに、クリストファーが迫って来て、強い力でアイリーンの腕を掴むと引きずるように引っ張って行く。
「アイリーン、お前は何をやっているんだ?」
「え?」
自分は公爵家の不利益になるような何かを仕出かしていたのだろうか? 思い当たる節がなくて、混乱していると、庭の一角にある木のテーブルに押し倒される。アイリーンの両手を片手でまとめて、頭上でギリギリと締め上げる。
「……痛い!」
「なんでだ? なんで、お前は幸せそうにしているんだ? 呑気に男を連れ込んで、笑ってるんだ?」
「違う……。あの人はお世話になってる神父さんで……」
「神父と言ったって、顔立ちの整った若者じゃないか? 神父だって妻帯できるし、閨事も許されているだろう。お前はその美貌でここでも男をたらしこんでいるのか? お前には人と会うことも、話すことも許可していないだろ?」
「そんなことはしてないわよ! それにあの人は……」
「お前はもっと不幸そうな顔をしていろよ! なんでこんな境遇に置かれて幸せそうにしているんだ?」
両腕の自由が利かない中で、クリストファーの顔が近づいてくると、突然キスされた。アイリーンがぽかんとして口を開くと、そこから舌が捻じ込まれ、口内を蹂躙される。最後にアイリーンの下唇を強く噛まれた。
「うぐぅ……」
更に、アイリーンの肩に噛みつかれる。それは強い力で、クリストファーの歯がめり込んでくる。アイリーンの口の中には先ほど噛まれた唇から漏れた血で錆びたような味が広がっている。
「お前は私の妻だろう。黙って言うことを聞いていればいいんだ」
目をギラギラさせた手負いの獣のようなクリストファーに、アイリーンはただただ戸惑うことしかできない。
「そうよ。私の体もなにもかも、あなたのものよ。好きにしたらいいじゃない!」
諦めとほんの少しの怒りで、クリストファーから目を逸らさずに言い返す。そう言った瞬間、クリストファーの顔が凶悪なものになった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、好きにさせてもらおう」
そう言って、クリストファーはアイリーンのワンピースの胸元を破ると、さらけ出された胸を痛い位の力で揉んだ。スカートを性急にたくしあげると、下着も破り、なんの準備もなく、己のものをアイリーンに突きたてた。
それが、五年ぶりに突然現れた夫から蹂躙される地獄のような時間の始まりだった。
早く早くこの時間が終わりますように。
アイリーンを甚振るように続くクリストファーの行為がもたらす痛みにひたすら耐えた。
アイリーンの願いも虚しく、昼過ぎから始まった行為が終わったのは、空が茜色に染まる頃だった。クリストファーの従者が声を掛けに来なかったら、夜が更けても続いていたかもしれない。
これは今まで、周りの人をただの自分の附属品としか考えず、称賛だけを求め、努力もせず、自分の妹を駒のように扱い、婚約者であったクリストファーを欺いた自分への罰なのだろうか?
「今日した事は謝らない」
従者に呼ばれたクリストファーは地面に崩れ落ち、泥にまみれて横たわったアイリーンにそんな言葉を投げかける。
「わかってるわ。私はあなたや公爵家の所有物だもの。好きにするといいわ。ただ、こんな事をして、私に子どもができたら揉めるんじゃないの?」
荒い息の中で、クリストファーを睨みつけて言い放つ。
アイリーンが言葉を放った瞬間、クリストファーの顔が憤怒に染まり、アイリーンに馬乗りになり、首をギリギリと絞める。
「ぐぅぅ……」
さすがに、クリストファーの従者やアイリーンについている大柄な侍女がアイリーンからクリストファーを引きはがした。
「安心しろ。私に子種はない」
「かはっ……はぁ、はぁ……え……?」
首を絞められた恐怖と解放された安心感の中、クリストファーを見るとその瞳には憎悪と諦観が混じっている。
「また来る」
それだけ言うと、クリストファーは踵を返して去っていった。
「え? また来るの……?」
アイリーンに痛みと恐怖と疑問を与え、混乱に陥れて、夫は去っていった。
アイリーンはただ呆然としてそれを見送ることしかできなかった。
あれほど、鋭利で孤高で、公爵家の当主として毅然としていたクリストファーが憔悴してまるで手負いの獣のようで、目には暗くて強い感情を宿していた。
そこにあるのは、怒りなのか? 憎しみなのか? それとも―――?
「うーん、歌い始めが一拍遅れるんですよね。音程やリズムはさほどずれていないんだけど……」
「緊張しちゃうの。間違ってるんじゃないかとか……」
庭を散歩している時にふらりと現れた神父と雑談をしていると、遠くからざわめきが聞こえてくる。
そちらの方へ目線を向けると、アイリーンと神父の元へすごい勢いで向かってくるのは、夫であるクリストファーだった。相変わらず整った容貌をしているが、少しやつれていてひどい顔色をしている。綺麗だと昔は見惚れていた澄んだ水色の瞳は暗く陰っている。
「え? クリストファー? 本物? なんでここへ?」
「おやおや、妻を領地の片隅に追いやった公爵家御当主様の登場ですか?」
アイリーンが戸惑っているうちに、クリストファーが迫って来て、強い力でアイリーンの腕を掴むと引きずるように引っ張って行く。
「アイリーン、お前は何をやっているんだ?」
「え?」
自分は公爵家の不利益になるような何かを仕出かしていたのだろうか? 思い当たる節がなくて、混乱していると、庭の一角にある木のテーブルに押し倒される。アイリーンの両手を片手でまとめて、頭上でギリギリと締め上げる。
「……痛い!」
「なんでだ? なんで、お前は幸せそうにしているんだ? 呑気に男を連れ込んで、笑ってるんだ?」
「違う……。あの人はお世話になってる神父さんで……」
「神父と言ったって、顔立ちの整った若者じゃないか? 神父だって妻帯できるし、閨事も許されているだろう。お前はその美貌でここでも男をたらしこんでいるのか? お前には人と会うことも、話すことも許可していないだろ?」
「そんなことはしてないわよ! それにあの人は……」
「お前はもっと不幸そうな顔をしていろよ! なんでこんな境遇に置かれて幸せそうにしているんだ?」
両腕の自由が利かない中で、クリストファーの顔が近づいてくると、突然キスされた。アイリーンがぽかんとして口を開くと、そこから舌が捻じ込まれ、口内を蹂躙される。最後にアイリーンの下唇を強く噛まれた。
「うぐぅ……」
更に、アイリーンの肩に噛みつかれる。それは強い力で、クリストファーの歯がめり込んでくる。アイリーンの口の中には先ほど噛まれた唇から漏れた血で錆びたような味が広がっている。
「お前は私の妻だろう。黙って言うことを聞いていればいいんだ」
目をギラギラさせた手負いの獣のようなクリストファーに、アイリーンはただただ戸惑うことしかできない。
「そうよ。私の体もなにもかも、あなたのものよ。好きにしたらいいじゃない!」
諦めとほんの少しの怒りで、クリストファーから目を逸らさずに言い返す。そう言った瞬間、クリストファーの顔が凶悪なものになった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、好きにさせてもらおう」
そう言って、クリストファーはアイリーンのワンピースの胸元を破ると、さらけ出された胸を痛い位の力で揉んだ。スカートを性急にたくしあげると、下着も破り、なんの準備もなく、己のものをアイリーンに突きたてた。
それが、五年ぶりに突然現れた夫から蹂躙される地獄のような時間の始まりだった。
早く早くこの時間が終わりますように。
アイリーンを甚振るように続くクリストファーの行為がもたらす痛みにひたすら耐えた。
アイリーンの願いも虚しく、昼過ぎから始まった行為が終わったのは、空が茜色に染まる頃だった。クリストファーの従者が声を掛けに来なかったら、夜が更けても続いていたかもしれない。
これは今まで、周りの人をただの自分の附属品としか考えず、称賛だけを求め、努力もせず、自分の妹を駒のように扱い、婚約者であったクリストファーを欺いた自分への罰なのだろうか?
「今日した事は謝らない」
従者に呼ばれたクリストファーは地面に崩れ落ち、泥にまみれて横たわったアイリーンにそんな言葉を投げかける。
「わかってるわ。私はあなたや公爵家の所有物だもの。好きにするといいわ。ただ、こんな事をして、私に子どもができたら揉めるんじゃないの?」
荒い息の中で、クリストファーを睨みつけて言い放つ。
アイリーンが言葉を放った瞬間、クリストファーの顔が憤怒に染まり、アイリーンに馬乗りになり、首をギリギリと絞める。
「ぐぅぅ……」
さすがに、クリストファーの従者やアイリーンについている大柄な侍女がアイリーンからクリストファーを引きはがした。
「安心しろ。私に子種はない」
「かはっ……はぁ、はぁ……え……?」
首を絞められた恐怖と解放された安心感の中、クリストファーを見るとその瞳には憎悪と諦観が混じっている。
「また来る」
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「え? また来るの……?」
アイリーンに痛みと恐怖と疑問を与え、混乱に陥れて、夫は去っていった。
アイリーンはただ呆然としてそれを見送ることしかできなかった。
あれほど、鋭利で孤高で、公爵家の当主として毅然としていたクリストファーが憔悴してまるで手負いの獣のようで、目には暗くて強い感情を宿していた。
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