【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

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1 クズだった私のこれまで

7 義務的な初夜

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 やっと、最悪な披露宴パーティーが終わり、無事、初夜を迎えた。

 ちょっと失敗しちゃった部分もあるけど、きっとこれからもクリストファーがフォローしてくれるはず。それにマルティナができたことが、私にできない訳がないわ。

 夫婦の寝室のベッドに腰掛けて、アイリーンはざわざわする胸騒ぎを抑え込んだ。侍女達にピカピカに磨き上げられて、アイリーンに似合う清楚だけど色気の漂う下着に薄手のガウンを羽織っている。こんなに美しい私なんだから、きっとあれくらいのこと許されるはずよ……。

 しばらくして、夫婦の寝室に現れたクリストファーは、無言でアイリーンを一瞥すると、アイリーンの隣にどさっと腰掛けた。しばらく無言で両手で頭を抱え込んでいた。

 「クリストファー……?」
 経験のないアイリーンはどうしたらよいのかわからずに、不安になっていると、ふいにアイリーンの方を向いたクリストファーの空色の瞳と目が合う。やはり、その瞳にはなんの感情もない。クリストファーは無言で、アイリーンのガウンをするりと落とすと、アイリーンをベッドに横たえる。

 クリストファーの顔が近づいて来たので、目を閉じると、唇に柔らかいものが当たる感触がした。それが、アイリーンとクリストファーの初めてのキスだった。真面目なクリストファーは婚約中、手を繋ぐ以上のことはしなかった。キスって、もっと特別な感じがするかと期待していたのに、意外となんの感慨もない。

 しばらく、無言の時間が続いたので、そっと目を開けると、クリストファーが昏い目をしてアイリーンを観察していた。クリストファーはアイリーンの胸に手を置くと、強い力で揉んだ。

 「痛いっ……」
 閨教育では、『殿方に任せればいいんですよ』とだけしか教わっていない。しかも、伯爵家の侍女は『キスもその先も蕩けるくらい気持ちがいいんですよー』なんて言っていた。アイリーンの言葉に、胸を揉んでいたクリストファーの手が止まった。そのことに、ほっとした。

 「えっ?」
 クリストファーはアイリーンの下着を下ろし、アイリーンの膝を曲げると、腿を持って両足を広げた。あまりの恥ずかしい体勢に足を閉じようとするけど、足を持つクリストファーの手の力が強くて動かせない。クリストファーはアイリーンが自分でもよく見たことのない股の間を凝視している。おもむろに、小瓶を取り出すと冷たくてぬるっとしたものを股に塗りこめた。

 「くっ、狭いな……」
 「うう……」
 アイリーンの中へ、クリストファーの指が捻じ込まれる。痛みを感じるが、痛いと言うと止めてしまうかと思い、アイリーンは言葉を飲みこんだ。せめて、初夜は完遂して、昼間のミスを取り戻さないといけない。クリストファーの指が出し入れされる度に軋むような痛みが走る。

 「んんぅっ……」
 なんの前触れもなくクリストファーのものが入ってきた。指とは比べ物にならないくらいの質量で、張り裂けそうな痛みを感じた。クリストファーが腰を振る間、アイリーンは両手で顔を覆い、涙と声を押し殺した。しばらくして、クリストファーが中で果てた。そんなに時間がかからなかったことにほっとする。

 いつも優しく大切にしてくれるクリストファーとの初夜はアイリーンの想像していたロマンチックなものではなく、潤滑油を使って、一度交わるだけのひどく義務的なものだった。シーツで涙をこっそりと拭い、それでも無事初夜を終えたことにアイリーンは安堵した。
 
 きっとクリストファーも緊張して疲れているんだわ。気を取り直して、クリストファーにしなだれかかる。
 「やっと、この日を迎えられたわね」
 甘えるように、腕に腕を絡めると、上目遣いに見上げる。そこには冷え冷えとした表情のクリストファーがいた。クリストファーはそっけなくアイリーンの腕をひきはがすと、顔を真正面から見つめる。そこには愛などの甘い感情はなかった。

 「それより、今日の君はなんだったんだ? 自分でもわかっているよね?」
 
 「ねぇ、今日はちょっと調子が悪かっただけじゃない。少しの失敗くらい見逃してくれないの? 私のこと愛してくれているんじゃないの? どんな私でも愛してくれるんじゃないの?」
 初夜を迎えた後の甘い雰囲気などまるでなく、厳しく叱責されて、瞳が潤む。今日、教会でクリストファーはアイリーンに愛を誓ってくれたではないか。それに、学園時代、クリストファーはアイリーンを溺愛していると評判だった。
 
 「私は、次期公爵夫人にふさわしい君を愛しているんだ。今日の君のふるまいはなんだ? 学園では優秀だったのに、気が抜けたのか? 今日、客人に聞かれた内容を君は立派なレポートにまとめていたじゃないか? なんで答えられなかったんだ?」

 「………」
 だって、そのレポートを苦労してまとめたのはマルティナであって、アイリーンじゃない。書き写す時に、全体は把握したし、質疑応答に答えられるように、細部まで疑問はつぶした。ただ、自分で調べ、考え、まとめたわけではないので、時間の経過とともにするりと頭から抜けてしまった。
 クリストファーに言われてはじめて、客人との会話に関連のあるレポートを書いていたと知ったぐらいだ。

 「君には失望したよ。私が次期公爵夫人としてふさわしいと思えるよう、せいぜい挽回してくれ」
 クリストファーの蔑むような目線はいつも妹のマルティナに向けられていたものだ。クリストファーは一つ大きなため息をつくと、ガウンを羽織り、ベッドから出ていく。

 「えっ、ここは夫婦の寝室なのに……どこに行くの?」

 「今日は一人になりたい気分なんだ。夫婦としての義務は果たしただろう。ああ、君を婚約者に選んだのは、美しくて賢くて所作が美しかったからだ。君より高位の貴族令嬢で条件に適う子もいたけど、単に君のおっとりとした雰囲気と顔が好みだったんだ。同じ条件なら好みにあう容姿の方がいいだろう? 次期公爵である私に選ばれたんだ。次期公爵にふさわしい妻でいてくれ。私を失望させないでくれ」
 淡々と告げると、クリストファーは静かに部屋を出て行った。広い寝室に取り残されたアイリーンはぎゅっとシーツを掴んで、くやしくて歯ぎしりする。

 自分が誇りに思っている部分を、クリストファーは求めてくれた。
 美しい。賢い。所作が美しい。
 なのに、なぜかアイリーンは胃に重い石を詰め込まれたような息苦しさを感じた。違う。求めていたのは、伴侶に求めていたのはそういう愛ではない。

 こんな、少しのミスで切り捨てられてしまうような薄っぺらい愛ではない。

 この披露宴の短い時間にクリストファーに何か感づかれてしまったのかもしれない。それでも、この時はまだがんばれば、挽回できるとアイリーンは思っていた。
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