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1 クズだった私のこれまで
6 結婚式で感じた違和感
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なにかがおかしいと思ったのはいつだったのかしら?
なんだって簡単にできると思っていたのよ。マルティナは学園を卒業するまでの便利な使い捨ての駒のはずだった。卒業して、結婚したら、マルティナを頼れないことはわかっていたし、マルティナにできたことなら、私が本気を出せばできるって思いこんでいたの。
卒業して、マルティナと話す暇もなく、結婚式の準備と、花嫁修業のために公爵家へ居を移した。まぁ、マルティナの心は散々折っておいたから、口止めしなくても、これまでの事を言いふらす心配はなかった。それに、マルティナに侍っていた留学生達もアイリーンと共に卒業して、今頃自分の国へ帰っただろう。マルティナは独りぼっちだ。
結婚式までの数カ月は穏やかで楽しい日々が続いた。結婚式の段取りは終わっているし、ドレスの最終チェックをしたり、クリストファーと観劇に行ったり、お茶をしたりして過ごした。
まだ、爵位の継承はしていないので、本宅に公爵夫婦も住んでいる。義理の父と母になる公爵夫婦は、小さい頃からの婚約者のアイリーンにやさしくしてくれる。公爵夫人の仕事についての確認のようなことはあったが、概ねゆったりとした時間が流れた。
結婚式の日は天気も体調も肌の調子も絶好調だった。式自体は豪華に滞りなく行われ、そこかしこから花嫁で本日の主役でもあるアイリーンを褒め称える声が聞こえる。今日も有頂天だった。
違和感を感じたのは披露宴のパーティーかしら?
公爵家の領地は海と接していて、外交の窓口であり、交易も盛んで、他国の人間の行き来も多い。その関係で披露宴パーティーでも、他国の賓客がみえていた。
まかせてちょうだい。語学は得意なの。共通言語はもちろんのこと、公爵家が直接取引のある三カ国の言語も読み書きできるし、話すだけなら、さらに国を隔てた二カ国の言語もできる。
彼と共に挨拶にまわる。基本的には彼の後ろで控えていたけど、時折話かけられることもあった。緊張することもなく笑顔を振りまいて、得意の言語を操る。教師や彼にも発音を褒められたんだから。
『私どもの地域の特産物について、御存じですか? あまりこちらの国ではなじみのない食べ物ですが……』
『ええ、確かエビを乾燥して加工したものですよね?……』
えっと、こういう時になんと答えればいいのかしら? まるで、試験の問答みたい。学園で習った以上の事は知らないし、下手な事を言ったら失礼にあたる。なによりわからないことをわからないと言うにはプライドが邪魔をした。言葉につまったアイリーンに代わってクリストファーが上手く答えてくれたようだ。
「どうしたんだい?緊張しているのか? 言葉は聞き取れているんだろう?」
「ごめんなさい。ちょっとコルセットの締め付けが苦しくて…」
クリストファーにしては珍しく苛立ちを見せている。自然と言い訳の言葉がでてくる。
「次はうまくやってくれよ」
いつもはやさしいクリストファーの冷やりとした物言いに背中に冷たいものが走る。せっかく俯いて、儚げな表情をしたのに、クリストファーには一つも響いていないようだった。
今までの茶会や夜会では、ほとんど同年代か後輩と話していたので、大人や年配の方と話す機会はほとんどなかったし、一方的に褒められるのをほほ笑んで聞いているだけでよかった。
それが、次期公爵となるクリストファーと結婚した途端、次期公爵夫人として、内容のある会話を求められた。それは今までアイリーンが避けていたもので、学園で教えられる知識を詰め込むだけで、それを分析したり、情報をつなげて考えたり、熟考したことのないアイリーンには難しいものだった。そう、それらの面倒くさいと、意味などないとマルティナに丸投げしていたものこそが必要となったのだ。
だって、誰もそんなこと教えてくれなかったじゃない!
こんなことになるなら、マルティナにどう考えるのかのコツを聞いておけばよかった……
結局、披露宴のパーティーでは、アイリーンの自信はボロボロと崩れていった。アイリーンと会話して、あからさまにがっかりした顔をして去っていく客人もいた。隣に立つクリストファーの温度がどんどん冷えていって、それが怖くてクリストファーの顔を見ることはできなかった。
なんだって簡単にできると思っていたのよ。マルティナは学園を卒業するまでの便利な使い捨ての駒のはずだった。卒業して、結婚したら、マルティナを頼れないことはわかっていたし、マルティナにできたことなら、私が本気を出せばできるって思いこんでいたの。
卒業して、マルティナと話す暇もなく、結婚式の準備と、花嫁修業のために公爵家へ居を移した。まぁ、マルティナの心は散々折っておいたから、口止めしなくても、これまでの事を言いふらす心配はなかった。それに、マルティナに侍っていた留学生達もアイリーンと共に卒業して、今頃自分の国へ帰っただろう。マルティナは独りぼっちだ。
結婚式までの数カ月は穏やかで楽しい日々が続いた。結婚式の段取りは終わっているし、ドレスの最終チェックをしたり、クリストファーと観劇に行ったり、お茶をしたりして過ごした。
まだ、爵位の継承はしていないので、本宅に公爵夫婦も住んでいる。義理の父と母になる公爵夫婦は、小さい頃からの婚約者のアイリーンにやさしくしてくれる。公爵夫人の仕事についての確認のようなことはあったが、概ねゆったりとした時間が流れた。
結婚式の日は天気も体調も肌の調子も絶好調だった。式自体は豪華に滞りなく行われ、そこかしこから花嫁で本日の主役でもあるアイリーンを褒め称える声が聞こえる。今日も有頂天だった。
違和感を感じたのは披露宴のパーティーかしら?
公爵家の領地は海と接していて、外交の窓口であり、交易も盛んで、他国の人間の行き来も多い。その関係で披露宴パーティーでも、他国の賓客がみえていた。
まかせてちょうだい。語学は得意なの。共通言語はもちろんのこと、公爵家が直接取引のある三カ国の言語も読み書きできるし、話すだけなら、さらに国を隔てた二カ国の言語もできる。
彼と共に挨拶にまわる。基本的には彼の後ろで控えていたけど、時折話かけられることもあった。緊張することもなく笑顔を振りまいて、得意の言語を操る。教師や彼にも発音を褒められたんだから。
『私どもの地域の特産物について、御存じですか? あまりこちらの国ではなじみのない食べ物ですが……』
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「ごめんなさい。ちょっとコルセットの締め付けが苦しくて…」
クリストファーにしては珍しく苛立ちを見せている。自然と言い訳の言葉がでてくる。
「次はうまくやってくれよ」
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今までの茶会や夜会では、ほとんど同年代か後輩と話していたので、大人や年配の方と話す機会はほとんどなかったし、一方的に褒められるのをほほ笑んで聞いているだけでよかった。
それが、次期公爵となるクリストファーと結婚した途端、次期公爵夫人として、内容のある会話を求められた。それは今までアイリーンが避けていたもので、学園で教えられる知識を詰め込むだけで、それを分析したり、情報をつなげて考えたり、熟考したことのないアイリーンには難しいものだった。そう、それらの面倒くさいと、意味などないとマルティナに丸投げしていたものこそが必要となったのだ。
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