【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

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1 クズだった私のこれまで

3 ほんの少しの綻び

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 マルティナの影でのサポートとクリストファーが婚約者として大切にしてくれるおかげで、アイリーンの学園生活は概ね順調だった。

 ただ、学年が上がって、学習の難易度が上がるとヒヤリとすることが何度かあった。授業中に当てられた時に即答できなかったり、生徒会の活動で意見を求められて答えに詰まったりした。それでもなんとか誤魔化してきたが、時折、アイリーンの違和感に気づく人がいた。その筆頭が侯爵家令嬢のアンジェリカで、クリストファーとの婚約を望んでいたようで、いつも鋭い目つきでアイリーンを見ていて細部を突いてくる。

 「そんなにクリストファーがいいのかしらね……」
 アイリーンにとっては、次期公爵ということとアイリーンに遜色ない美しさがあるということが重要で、クリストファー本人への執着はない。だが、アンジェリカはクリストファー自身に執着している気がする。年々、アンジェリカからクリストファーに向けられる視線に熱が加わっている気がする。

 侯爵令嬢のアンジェリカはキツめの性格と外見をしているけど、アイリーンと同じくらい優秀で、爵位もクリストファーにつりあっている。マルティナのサポート分を抜いたら、アイリーンよりクリストファーの婚約者にふさわしいのはアンジェリカかもしれない。でも、アイリーンはこの地位を譲る気はなかった。自分の柔らかい雰囲気と外見を利用して、上手く周りにかばってもらいながら、アンジェリカの攻撃をかわした。

 でも、ある日突然思わぬ所から、横槍が入った。
 「すみません、さっき授業で発表してた論文について聞きたいんですけど……」
 「なんでしょう?」
 大柄で、褐色の肌をした黒髪の留学生に話しかけられた。その時は私の美しさって国を越えちゃうのね、なんてのんきなことを思っていた。アイリーンに話しかけたいだけで、論文のことが本題だなんて思いもしなかったのだ。

 「なんで、このアビントンの空間と時間の理論をこの論文に使おうと思ったのか聞きたくて。そもそもどこで、アビントンのこと知ったんですか? うちの国では多少、名前は知られてるけど、この国ではマイナーですよね?」
 「えっ?」
 背中に冷や汗が走る。確かに、この論文については、難解でとにかく内容についてはなんとか理解したけど……。どうしてその理論を使ったのかとか、どうやって知ったのかとかアイリーンに聞かれても困る。論文を書いたのはマルティナなのだから。

 「隣国の平民が私の婚約者に話しかけるな。学園では建前上、平等を詠っているが、この国の身分制度を理解して尊重してくれ」
 言葉に詰まるアイリーンの横からクリストファーが現れてくれて、なんとか助かった。まだ心臓がドクドクしている。アイリーンは完璧だと思っていた自分に綻びが生じたのを感じた。でも、それを見ないふりをした。だって、多少なにかあってもきっと周りが助けてくれるはずだもの。

 クリストファーは相変わらず、学園の勉強のみならず次期公爵としての勉学にも励み、生徒会長も務め、合間に体も鍛えている。そして、アイリーンも婚約者として大切にしてくれている。クリストファーは周りからの称賛には特に気にもとめていないし、むしろ、群がる子息や令嬢をうっとうしそうにもしている。クリストファーの楽しみとか潤いはなんなんだろうか? たまに、アイリーンは疑問に思った。

 「来年度は、アイリーンが生徒会長を務めて欲しい。できるよね?」
 最終学年に上がる前年度に突然、クリストファーから打診された。
 「え? わたくしが? クリストファーが続投するのではないの?」
 今年度はクリストファーが生徒会の会長を務めていて、アイリーンは一歩後ろで控えていてほほ笑んで、指示されたことをしていれば問題なかった。最終学年となる来年もそのままだろうと思っていたのに。

 「卒業したら、すぐ結婚して、爵位を継ぐ予定だ。だから、そろそろ本格的に公爵家の仕事の手伝いをして、もっと公爵家について学ばないといけないんだ。いくらお飾りの生徒会長とはいえ、少々荷が重い。一年間、私の横で生徒会長の仕事を見ていたアイリーンならできるだろう? アイリーンも公爵夫人となるなら、これくらいのことは仕切れないと話にならない。できるよね?」
 「えぇ……」
 「困ったことがあったら、相談に乗るから」
 アイリーンはこの時、はじめてクリストファーと婚約したことを後悔した。クリストファーは自分もストイックに頑張るタイプで結婚相手にもそれを求める人だったのだ。もっと爵位が下でアイリーンのことを甘やかしてくれる人と婚約すればよかった……。そう思ったって今更遅いけど。

 クリストファーから引き継ぎの資料を山ほどもらって、概要を説明されるけど、さっぱりわからない。時間も差し迫っていて、妹のマルティナに泣きついた。

 さすがに生徒会長の仕事を押し付けたのはやりすぎかと思った。案の定、はじめてアイリーンに反抗してきた。有無を言わさず抑え込むと、生徒会役員の隣国の留学生達に取り入って、なんとか勉強のサポートも生徒会長のサポートもこなした。例のアイリーンの論文について聞いて来た黒髪で褐色の肌をした大柄な留学生のブラッドリーと、クリストファーに遜色ないくらい美しいすらっとした留学生のエリックだ。マルティナが二人の留学生と一緒に居ることには目を瞑ることにした。ブラッドリーの刺すような目線が時折、気になったが、クリストファーに牽制されてから直接話しかけられることはないので、放置しておいた。アイリーンにとっては自分が輝いていることが一番大事なことで、それ以外はどうでもよかった。
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