【R18】最弱魔女ですが、なぜか召喚できちゃった淫魔には即刻お帰りいただきます!

阿佐夜つ希

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第13話

しおりを挟む
「ちぇ。傷つくよなあ。人間って、悪魔を見るとたいがいああいう反応するんだよな」

 淫魔が行商人の背中を睨み付けながら、唇を尖らせる。
 テレシュナは、ただ悪魔であるというだけで恐れおののかれるという出来事に、胸を痛めずにはいられなかった。

「すみません、朝からご不快な思いをさせてしまって」
「なあんであるじサマが謝るんだよ。悪いのはあの人間だろ? 生意気に、あんたのことを口説こうとしやがって」
「口説く!? そんなことしてましたっけ!?」
「『活き活きとしてる』とか言ってやがったけど、あれってつまり、あるじサマの可愛さに今気付きました!って宣言してんのと一緒。あのまましゃべらせ続けてたら、あんたのこと褒めたたえ始めてただろうよ。あんたが最高に綺麗なことも、誰よりも可愛いことも、体中どこもかしこも甘くて美味いってことも、俺だけが知ってりゃいーの」
「ふぎゃっ。そ、そうですか……」

 自分に向けられたとは思えない賛辞を並べ立てられて動揺する。しかも昨晩の出来事も匂わされて、テレシュナは熱くなった頬を両手でぐっと押さえた。
 深くうつむき、視界の端に淫魔の姿を捉える。ちらっと裸足が見えた途端、淫魔が全裸であることを思い出した。『そろそろ服を着てください』と――そう言おうとした矢先、家の外から重々しい足音が聞こえて来た。

「あ、ハピニルさんがいらっしゃいました」

 急いで作業室へと飛んで行き、作りたての魔法薬の入った瓶を手に外へと飛び出す。
 すると、ゴーレムの肩に乗っているハピニルが、ふわふわの金髪を手で払いつつ、挑発的な目付きで見下ろしてきた。

「テレシュナ~? ……あら? あんたそんな目の色してたっけ?」

 碧眼が、テレシュナに視線を突き刺してくる。しかし大して興味を持たなかったのか、テレシュナが何かを言い返すより先に、別の話を切り出した。

「……まあいいわ。それよりあんた、行商人から希少なハーブを売ってもらったらしいじゃない。それ、あたしに寄越しなさいよ。あんな希少な素材、どうせあんたには使いこなせやしないんだから」
「あ、すみません。もう、使ってしまいました」
「はあ? 何それ。なに勝手に使ってんの?」

 まるで既に自分の物であったかのような口振り。これまでのテレシュナだったらすぐに『ごめんなさい』と平謝りしていただろう。しかし今は、作ったばかりの魔法薬を渡したくて仕方なかった。

「希少なハーブを使ってしまったことは、すみません。その代わりというわけではないのですが、昨日お渡しした魔法薬、もう一度作り直しました。見ていただけますか」
「はあ? 作り直しなんて要求してないけど?」

 不機嫌にそう言い放ちつつも、ゴーレムに命じて手を差し出させる。テレシュナは、のっそりと近付いてきた大きな手に魔法薬の瓶を乗せた。
 ゴーレムから瓶を受け取ったハピニルが、顔の前にそれを掲げる。面倒くさげな顔をしていた魔女は、瓶の中の液体を見るなり目を見開いた。

「はあ? 何これ、完璧じゃない……! あたしが作ったのより高性能なんてあり得る? あんた一体何した……ぎゃあっ!?」

 苛立たしげな顔をしていたハピニルが、ゴーレムの肩の上で跳ね上がった。
 その視線を追って、振り向いてみる。そこには相変わらず全裸姿のままの淫魔が、腕組みした姿勢で玄関ドアに寄り掛かっていた。
 ゴーレムの肩あたりを見上げて、にやりと笑う。

「よお、どこぞの魔女さんよお。俺は、淫魔リウミオスってんだ。これからよろしくな」
「淫魔!? テレシュナ、あんた悪魔を召喚できたの!?」
「ええ、まあ、はい」

 小さくうなずいてみせれば、愕然とした表情に変わったハピニルが『信じらんない……!』とつぶやく。
 手に持っていた瓶を取り落とす。ゴーレムが素早く手を差し出して、落下した瓶を受け止めた。

 その動きで姿勢を崩したハピニルが、八つ当たりするようにゴーレムの頭にぎゅっと抱きつきながら、わなわなと震えだした。

「な、な、なんで! このあたしですら呼び出せない最上級の使い魔をあんたが呼び出せんのよ! しかもなんで全裸なの!? 服くらい着せてあげたらいいじゃない!」
「あ~、お気遣いなく魔女さん。これはあるじサマの命令じゃなくて、俺がしたくてしてることだから。どうせこれからすぐに脱ぐんでね、今は何も着なくてもいいかなって」
「なによ、すぐに脱ぐって。……はっ、まさか……」
(うう、恥ずかしいです……)

 テレシュナがその言葉の意味に気付いて赤面するのと、ハピニルが目を丸くしたのはほとんど同時だった。
 淫魔が歌うように楽しげに語り出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...