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第12話
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肘枕をしていた淫魔が体を起こして、テレシュナの上で四つん這いになる。
「第2ラウンド、始めようぜ」
「え!? さっき『主人に無理強いはしない』って言ってませんでしたか!?」
「もちろん、無理強いはしねえよ? でも俺が今、『あんたのこともう一度、最高に気持ちよくしてやりてえ』って言ったら、それは無理強いになる?」
「~~~~!」
つい先ほどまで骨の髄まで叩き込まれていた感覚が、一気によみがえる。耳まで熱くなったテレシュナは、無言で顔を背けた。
淫魔が覆いかぶさってきて、耳元でささやく。
「……嫌、じゃないよな?」
「……。……嫌、じゃ、ない、かも……?」
「よっしゃ」
弾んだ声が聞こえて来た次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。逞しい腕の力、熱い体温。体中が期待に燃え上がる。
テレシュナは淫魔の腕の中でうつむくと、鼓動に震える声で懇願した。
「今度は、お手柔らかに、お願いします」
「ああ。第2ラウンドは優し~く抱いてやるよ。その次の保証はできねえけど」
「え、その次、ですか!? ……んむっ」
驚きの声が、唇にさえぎられる。
優しさと、激しさと。散々に翻弄されてしまい――空が白みはじめる頃になって、テレシュナはようやく淫魔から解放されたのだった。
***
テレシュナは、隣で眠る淫魔を起こさないようにそっと起き上がると、眼鏡は淫魔のそばに置いたまま寝室を出た。
体は疲れ切っているのに、目は冴えている。
今は何より、眼鏡を外した状態で魔法薬を作ってみたかった。
寝巻のまま作業室へ入ると、机の上でドラヒポが丸まって眠っていた。
「あ、こんなところで……」
寝室を淫魔とふたりで独占していたせいで、ドラヒポを締め出す形となってしまっていたことに気付く。いつもなら、ドラヒポはテレシュナの枕元に丸まって眠るのだった。
机に歩み寄れば、小型ドラゴンがすぐに目を覚ます。
すっくと起き上がり、ぱたぱたと羽ばたきながら眠たげな顔を微笑ませた。
「おはよー、ご主人さま」
「おはようございます、ドラヒポちゃん。ごめんなさい、ベッドを占領してしまって」
「ううん、いいよ。ボク、どこでも寝れるから。気にしないで……ふぁ~あ」
「ふふ。ありがとうございます」
テレシュナは、あくびをする使い魔の愛らしさになごまされつつ、魔法薬の調合を始めたのだった。
***
魔法薬を作り終えたテレシュナは、魔法で沸かした湯を浴びると魔女のローブに着替えた。それまで着ていた大きめサイズではなく、体に合うサイズのワンピース。
淫魔はずっと眠っているようで、寝室からは物音が聞こえてこなかった。
ドラヒポと朝食を食べ、食器の片付けをしていると、ノックの音が聞こえて来た。
片付けをドラヒポに任せてドアを開く。そこには昨日来たばかりの行商人が立っていた。
「朝早くに済まないね。昨日あんたに売ったハーブ、ひとつ間違えて……んん?」
じっと顔を見つめられる。
そこでテレシュナは、今自分が眼鏡を掛けていないことを思い出した。
(まずい、眼鏡を取ってこないと)
昨夜、何度も淫魔から『綺麗だ』と言われた虹色の瞳。それでも他人に見られるのは、条件反射で恐怖を覚えた。
テレシュナが『ちょっと待っていてもらえますか』と言おうとした矢先。
行商人が、興味深げにテレシュナの顔を見ながら軽く首をひねった。
「あんた、昨日と全然印象が違うね。なんだか活き活きしてるというか」
「活き活き、ですか……?」
「ああ、いつもは自信なさげにうつむいてる印象だったけど……」
「おう、客かあ?」
突如として、背後からの声に会話をさえぎられた。
意外な声に、驚いて振り向く。
するとそこには――全裸の淫魔が立っていた。眠たげにあくびをしながら、角の付け根の辺りをぼりぼりと搔いている。
「きゃああっ!」
「ひいいっ!」
テレシュナが悲鳴を上げたのと、行商人が叫んだのはほぼ同時だった。
淫魔は動揺するふたりを気にする様子もなく、腰に手を置いて視線を投げて寄越してきた。体を隠そうとする素振りはみじんも見せない。
「誰? そいつ」
「こ、こちらはうちに通ってくださっている行商人さんです」
「あ、あ、悪魔……!?」
狼狽する声の方を見ると、行商人が淫魔を見て目を見開いていた。
動揺するのも無理もない。人間は悪魔を見慣れていない。テレシュナは、なだめるような声音で行商人に説明し始めた。
「こちらの悪魔さんは、私が召喚した使い魔です。昨日、行商人さんが売ってくださったハーブの中に、希少なハーブが混ざってたんですけど、そのおかげで悪魔を呼び出せちゃったんです。差額をお支払いしますね」
「…………です」
「え?」
「おおおお代は結構です! 出直してきます! こっ今後ともごひいきにー! ひいいい!」
悲鳴を上げながら、行商人がどたばたと走り去っていく。
あっというまに遠ざかった後ろ姿を呆然と見ていると、淫魔の不満げなつぶやきが聞こえてきた。
「第2ラウンド、始めようぜ」
「え!? さっき『主人に無理強いはしない』って言ってませんでしたか!?」
「もちろん、無理強いはしねえよ? でも俺が今、『あんたのこともう一度、最高に気持ちよくしてやりてえ』って言ったら、それは無理強いになる?」
「~~~~!」
つい先ほどまで骨の髄まで叩き込まれていた感覚が、一気によみがえる。耳まで熱くなったテレシュナは、無言で顔を背けた。
淫魔が覆いかぶさってきて、耳元でささやく。
「……嫌、じゃないよな?」
「……。……嫌、じゃ、ない、かも……?」
「よっしゃ」
弾んだ声が聞こえて来た次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。逞しい腕の力、熱い体温。体中が期待に燃え上がる。
テレシュナは淫魔の腕の中でうつむくと、鼓動に震える声で懇願した。
「今度は、お手柔らかに、お願いします」
「ああ。第2ラウンドは優し~く抱いてやるよ。その次の保証はできねえけど」
「え、その次、ですか!? ……んむっ」
驚きの声が、唇にさえぎられる。
優しさと、激しさと。散々に翻弄されてしまい――空が白みはじめる頃になって、テレシュナはようやく淫魔から解放されたのだった。
***
テレシュナは、隣で眠る淫魔を起こさないようにそっと起き上がると、眼鏡は淫魔のそばに置いたまま寝室を出た。
体は疲れ切っているのに、目は冴えている。
今は何より、眼鏡を外した状態で魔法薬を作ってみたかった。
寝巻のまま作業室へ入ると、机の上でドラヒポが丸まって眠っていた。
「あ、こんなところで……」
寝室を淫魔とふたりで独占していたせいで、ドラヒポを締め出す形となってしまっていたことに気付く。いつもなら、ドラヒポはテレシュナの枕元に丸まって眠るのだった。
机に歩み寄れば、小型ドラゴンがすぐに目を覚ます。
すっくと起き上がり、ぱたぱたと羽ばたきながら眠たげな顔を微笑ませた。
「おはよー、ご主人さま」
「おはようございます、ドラヒポちゃん。ごめんなさい、ベッドを占領してしまって」
「ううん、いいよ。ボク、どこでも寝れるから。気にしないで……ふぁ~あ」
「ふふ。ありがとうございます」
テレシュナは、あくびをする使い魔の愛らしさになごまされつつ、魔法薬の調合を始めたのだった。
***
魔法薬を作り終えたテレシュナは、魔法で沸かした湯を浴びると魔女のローブに着替えた。それまで着ていた大きめサイズではなく、体に合うサイズのワンピース。
淫魔はずっと眠っているようで、寝室からは物音が聞こえてこなかった。
ドラヒポと朝食を食べ、食器の片付けをしていると、ノックの音が聞こえて来た。
片付けをドラヒポに任せてドアを開く。そこには昨日来たばかりの行商人が立っていた。
「朝早くに済まないね。昨日あんたに売ったハーブ、ひとつ間違えて……んん?」
じっと顔を見つめられる。
そこでテレシュナは、今自分が眼鏡を掛けていないことを思い出した。
(まずい、眼鏡を取ってこないと)
昨夜、何度も淫魔から『綺麗だ』と言われた虹色の瞳。それでも他人に見られるのは、条件反射で恐怖を覚えた。
テレシュナが『ちょっと待っていてもらえますか』と言おうとした矢先。
行商人が、興味深げにテレシュナの顔を見ながら軽く首をひねった。
「あんた、昨日と全然印象が違うね。なんだか活き活きしてるというか」
「活き活き、ですか……?」
「ああ、いつもは自信なさげにうつむいてる印象だったけど……」
「おう、客かあ?」
突如として、背後からの声に会話をさえぎられた。
意外な声に、驚いて振り向く。
するとそこには――全裸の淫魔が立っていた。眠たげにあくびをしながら、角の付け根の辺りをぼりぼりと搔いている。
「きゃああっ!」
「ひいいっ!」
テレシュナが悲鳴を上げたのと、行商人が叫んだのはほぼ同時だった。
淫魔は動揺するふたりを気にする様子もなく、腰に手を置いて視線を投げて寄越してきた。体を隠そうとする素振りはみじんも見せない。
「誰? そいつ」
「こ、こちらはうちに通ってくださっている行商人さんです」
「あ、あ、悪魔……!?」
狼狽する声の方を見ると、行商人が淫魔を見て目を見開いていた。
動揺するのも無理もない。人間は悪魔を見慣れていない。テレシュナは、なだめるような声音で行商人に説明し始めた。
「こちらの悪魔さんは、私が召喚した使い魔です。昨日、行商人さんが売ってくださったハーブの中に、希少なハーブが混ざってたんですけど、そのおかげで悪魔を呼び出せちゃったんです。差額をお支払いしますね」
「…………です」
「え?」
「おおおお代は結構です! 出直してきます! こっ今後ともごひいきにー! ひいいい!」
悲鳴を上げながら、行商人がどたばたと走り去っていく。
あっというまに遠ざかった後ろ姿を呆然と見ていると、淫魔の不満げなつぶやきが聞こえてきた。
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