【R18】最弱魔女ですが、なぜか召喚できちゃった淫魔には即刻お帰りいただきます!

阿佐夜つ希

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第12話

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 肘枕をしていた淫魔が体を起こして、テレシュナの上で四つん這いになる。

「第2ラウンド、始めようぜ」
「え!? さっき『主人に無理強いはしない』って言ってませんでしたか!?」
「もちろん、無理強いはしねえよ? でも俺が今、『あんたのこともう一度、最高に気持ちよくしてやりてえ』って言ったら、それは無理強いになる?」
「~~~~!」

 つい先ほどまで骨の髄まで叩き込まれていた感覚が、一気によみがえる。耳まで熱くなったテレシュナは、無言で顔を背けた。
 淫魔が覆いかぶさってきて、耳元でささやく。

「……嫌、じゃないよな?」
「……。……嫌、じゃ、ない、かも……?」
「よっしゃ」

 弾んだ声が聞こえて来た次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。逞しい腕の力、熱い体温。体中が期待に燃え上がる。
 テレシュナは淫魔の腕の中でうつむくと、鼓動に震える声で懇願した。

「今度は、お手柔らかに、お願いします」
「ああ。第2ラウンドは優し~く抱いてやるよ。その次の保証はできねえけど」
「え、その次、ですか!? ……んむっ」

 驚きの声が、唇にさえぎられる。

 優しさと、激しさと。散々に翻弄されてしまい――空が白みはじめる頃になって、テレシュナはようやく淫魔から解放されたのだった。


    ***


 テレシュナは、隣で眠る淫魔を起こさないようにそっと起き上がると、眼鏡は淫魔のそばに置いたまま寝室を出た。
 体は疲れ切っているのに、目は冴えている。
 今は何より、眼鏡を外した状態で魔法薬を作ってみたかった。
 寝巻のまま作業室へ入ると、机の上でドラヒポが丸まって眠っていた。

「あ、こんなところで……」

 寝室を淫魔とふたりで独占していたせいで、ドラヒポを締め出す形となってしまっていたことに気付く。いつもなら、ドラヒポはテレシュナの枕元に丸まって眠るのだった。
 机に歩み寄れば、小型ドラゴンがすぐに目を覚ます。
 すっくと起き上がり、ぱたぱたと羽ばたきながら眠たげな顔を微笑ませた。

「おはよー、ご主人さま」
「おはようございます、ドラヒポちゃん。ごめんなさい、ベッドを占領してしまって」
「ううん、いいよ。ボク、どこでも寝れるから。気にしないで……ふぁ~あ」
「ふふ。ありがとうございます」

 テレシュナは、あくびをする使い魔の愛らしさになごまされつつ、魔法薬の調合を始めたのだった。

    ***

 魔法薬を作り終えたテレシュナは、魔法で沸かした湯を浴びると魔女のローブに着替えた。それまで着ていた大きめサイズではなく、体に合うサイズのワンピース。
 淫魔はずっと眠っているようで、寝室からは物音が聞こえてこなかった。

 ドラヒポと朝食を食べ、食器の片付けをしていると、ノックの音が聞こえて来た。
 片付けをドラヒポに任せてドアを開く。そこには昨日来たばかりの行商人が立っていた。

「朝早くに済まないね。昨日あんたに売ったハーブ、ひとつ間違えて……んん?」

 じっと顔を見つめられる。
 そこでテレシュナは、今自分が眼鏡を掛けていないことを思い出した。

(まずい、眼鏡を取ってこないと)

 昨夜、何度も淫魔から『綺麗だ』と言われた虹色の瞳。それでも他人に見られるのは、条件反射で恐怖を覚えた。
 テレシュナが『ちょっと待っていてもらえますか』と言おうとした矢先。
 行商人が、興味深げにテレシュナの顔を見ながら軽く首をひねった。

「あんた、昨日と全然印象が違うね。なんだか活き活きしてるというか」
「活き活き、ですか……?」
「ああ、いつもは自信なさげにうつむいてる印象だったけど……」
「おう、客かあ?」

 突如として、背後からの声に会話をさえぎられた。
 意外な声に、驚いて振り向く。
 するとそこには――全裸の淫魔が立っていた。眠たげにあくびをしながら、角の付け根の辺りをぼりぼりと搔いている。

「きゃああっ!」
「ひいいっ!」

 テレシュナが悲鳴を上げたのと、行商人が叫んだのはほぼ同時だった。
 淫魔は動揺するふたりを気にする様子もなく、腰に手を置いて視線を投げて寄越してきた。体を隠そうとする素振りはみじんも見せない。

「誰? そいつ」
「こ、こちらはうちに通ってくださっている行商人さんです」
「あ、あ、悪魔……!?」

 狼狽する声の方を見ると、行商人が淫魔を見て目を見開いていた。
 動揺するのも無理もない。人間は悪魔を見慣れていない。テレシュナは、なだめるような声音で行商人に説明し始めた。

「こちらの悪魔さんは、私が召喚した使い魔です。昨日、行商人さんが売ってくださったハーブの中に、希少なハーブが混ざってたんですけど、そのおかげで悪魔を呼び出せちゃったんです。差額をお支払いしますね」
「…………です」
「え?」
「おおおお代は結構です! 出直してきます! こっ今後ともごひいきにー! ひいいい!」

 悲鳴を上げながら、行商人がどたばたと走り去っていく。
 あっというまに遠ざかった後ろ姿を呆然と見ていると、淫魔の不満げなつぶやきが聞こえてきた。
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