7 / 14
第7話
しおりを挟む
「ぷはあっ……!」
気付けばテレシュナは、自分の部屋へと戻ってきていた。途端に圧迫感が失せ、必死で呼吸を繰り返す。
目の前では、淫魔も水面から顔を出した瞬間のように、わずかに顎を上げて幾度も深呼吸をしていた。
ひとまず死なずに済んだ――淫魔に抱き上げられているという落ち着かない状況ながらもほっと胸をなでおろす。
すると、すぐそばからのんびりとした声が聞こえてきた。
「おかえり、ご主人さま、淫魔さん。もうえっちした?」
「いいや。まだだ」
「ちょ!? ドラヒポちゃん!?」
かわいい使い魔が言ったとは信じたくない発言に、テレシュナは淫魔の腕の上で身じろぎした。
「ドラヒポちゃん、なんてこと言うんですか!」
「えーだって、結構長いこと帰ってこなかったから、もしかしたらその場で始めちゃったのかと思ってさ。中間層に長居すると危険だって聞いたことあるから、心配してたんだよ? ボク」
「それは、ごめんなさい……。心配してくれてありがとう、ドラヒポちゃん」
「ううん。無事でよかったよ。さて淫魔さん、寝室はこの部屋を出て左に進んだところにあるよ」
「よし来た。気が利くじゃねえか、小型ドラゴンくん」
「ちょちょちょっと待ってドラヒポちゃん!? なんで急にそんなこと教えちゃうんですか!?」
テレシュナが叫ぶ間にも、淫魔はずんずんと勢いよく目的の場所へとむけて移動し始める。小型ドラゴンの使い魔の姿が遠ざかっていく。
助けを求めて使い魔に視線をすがらせると、ドラヒポがにっこりと笑った。
「そこまでがっつり抱き合った男女がすることなんて、決まりきってるでしょ。ボクは千年生きているからね、人型の生物について詳しいんだ」
「それは一般論じゃありませんか? それに抱き合ってるわけじゃなくて、一方的に支えていただいているだけでして……!」
必死な叫びは届かなかった。あっという間に寝室に到着していたのだった。
慎重な手つきで、そっとベッドの上に横たえられる。
見上げれば、淫魔はテレシュナのすぐそばに腰を下ろしていた。今までにひとりと一匹しか乗せたことのないベッドが、聞いたことのない軋んだ音を立てる。
腰を落ち着けて振り向いた淫魔は、嬉しそうな、それでいて切なげな顔をしてテレシュナを見下ろし始めた。
「なあ、主サマ」
「え、あ、そうですよね。私があなたの召喚主だから、主人ってことになるんですね……」
「ああ。無事に人間界へと主サマを連れ戻せたってことで、この下僕めにひとつ、褒美をくれねえか」
「あ、はい。もちろんです。何がいいですか?」
使い魔をねぎらうというのは召喚主にとっての義務である、とテレシュナは思っている。主従関係とはいえ、一方的にこき使うのは、テレシュナの性に合わないのだった。
問いかけた途端、少しだけ眉をひそめていた淫魔が、輝くような笑顔に変わった。
「もちろん、俺にとってのご褒美は、ご・主・人・サ・マ。一択だぜぃひゃっはー!」
雄たけびと共に、淫魔がテレシュナに覆いかぶさってくる。
「ちょ!? 待っ……、んん!」
驚きの声は、熱い唇にさえぎられた。
初めてのキスに頭が混乱する。
強引に奪われたファーストキス。
一方的で乱暴なそれは、すぐに穏やかなふれあいへと変わった。
「ん、ん、……っは、ん、ん……」
ちゅっ、ちゅっ、と軽やかに吸い上げられる。しばらくそれが繰り返されたあと、わずかに唇を浮かせて息継ぎの間を与えてくれる。そして今度は、このまま食われてしまうかと錯覚するほどに、熱心に唇を食んでくる。
頬にかかる吐息。時折洩れ聞こえてくる、淫魔の熱い吐息と微かな声。その切なげな響きは、淫魔が自分とのキスに没頭していることをありありと示していた。
それに気付いた瞬間、体に変化が起きた。唇が重ねられるたびに、下腹部に感じたことのない疼きを覚える。
ずっと、唇を重ねていて欲しい――。初めてのキスにもかかわらずそんなはしたない願いを抱いてしまうほどに、淫魔とのふれあいは心地よかった。
不意に、ワンピースの下に淫魔の手が滑りこんでくる。強引に背の下に滑り込んだ手は、いともたやすくブラジャーの留め具を外す。ワンピースと共にブラジャーがぐいっと押し上げられて、肌がさらされた。
あらわになった胸を、淫魔がじっと見下ろす。赤い目が見開かれる。
「わっ。み、見ないでください……!」
気付けばテレシュナは、自分の部屋へと戻ってきていた。途端に圧迫感が失せ、必死で呼吸を繰り返す。
目の前では、淫魔も水面から顔を出した瞬間のように、わずかに顎を上げて幾度も深呼吸をしていた。
ひとまず死なずに済んだ――淫魔に抱き上げられているという落ち着かない状況ながらもほっと胸をなでおろす。
すると、すぐそばからのんびりとした声が聞こえてきた。
「おかえり、ご主人さま、淫魔さん。もうえっちした?」
「いいや。まだだ」
「ちょ!? ドラヒポちゃん!?」
かわいい使い魔が言ったとは信じたくない発言に、テレシュナは淫魔の腕の上で身じろぎした。
「ドラヒポちゃん、なんてこと言うんですか!」
「えーだって、結構長いこと帰ってこなかったから、もしかしたらその場で始めちゃったのかと思ってさ。中間層に長居すると危険だって聞いたことあるから、心配してたんだよ? ボク」
「それは、ごめんなさい……。心配してくれてありがとう、ドラヒポちゃん」
「ううん。無事でよかったよ。さて淫魔さん、寝室はこの部屋を出て左に進んだところにあるよ」
「よし来た。気が利くじゃねえか、小型ドラゴンくん」
「ちょちょちょっと待ってドラヒポちゃん!? なんで急にそんなこと教えちゃうんですか!?」
テレシュナが叫ぶ間にも、淫魔はずんずんと勢いよく目的の場所へとむけて移動し始める。小型ドラゴンの使い魔の姿が遠ざかっていく。
助けを求めて使い魔に視線をすがらせると、ドラヒポがにっこりと笑った。
「そこまでがっつり抱き合った男女がすることなんて、決まりきってるでしょ。ボクは千年生きているからね、人型の生物について詳しいんだ」
「それは一般論じゃありませんか? それに抱き合ってるわけじゃなくて、一方的に支えていただいているだけでして……!」
必死な叫びは届かなかった。あっという間に寝室に到着していたのだった。
慎重な手つきで、そっとベッドの上に横たえられる。
見上げれば、淫魔はテレシュナのすぐそばに腰を下ろしていた。今までにひとりと一匹しか乗せたことのないベッドが、聞いたことのない軋んだ音を立てる。
腰を落ち着けて振り向いた淫魔は、嬉しそうな、それでいて切なげな顔をしてテレシュナを見下ろし始めた。
「なあ、主サマ」
「え、あ、そうですよね。私があなたの召喚主だから、主人ってことになるんですね……」
「ああ。無事に人間界へと主サマを連れ戻せたってことで、この下僕めにひとつ、褒美をくれねえか」
「あ、はい。もちろんです。何がいいですか?」
使い魔をねぎらうというのは召喚主にとっての義務である、とテレシュナは思っている。主従関係とはいえ、一方的にこき使うのは、テレシュナの性に合わないのだった。
問いかけた途端、少しだけ眉をひそめていた淫魔が、輝くような笑顔に変わった。
「もちろん、俺にとってのご褒美は、ご・主・人・サ・マ。一択だぜぃひゃっはー!」
雄たけびと共に、淫魔がテレシュナに覆いかぶさってくる。
「ちょ!? 待っ……、んん!」
驚きの声は、熱い唇にさえぎられた。
初めてのキスに頭が混乱する。
強引に奪われたファーストキス。
一方的で乱暴なそれは、すぐに穏やかなふれあいへと変わった。
「ん、ん、……っは、ん、ん……」
ちゅっ、ちゅっ、と軽やかに吸い上げられる。しばらくそれが繰り返されたあと、わずかに唇を浮かせて息継ぎの間を与えてくれる。そして今度は、このまま食われてしまうかと錯覚するほどに、熱心に唇を食んでくる。
頬にかかる吐息。時折洩れ聞こえてくる、淫魔の熱い吐息と微かな声。その切なげな響きは、淫魔が自分とのキスに没頭していることをありありと示していた。
それに気付いた瞬間、体に変化が起きた。唇が重ねられるたびに、下腹部に感じたことのない疼きを覚える。
ずっと、唇を重ねていて欲しい――。初めてのキスにもかかわらずそんなはしたない願いを抱いてしまうほどに、淫魔とのふれあいは心地よかった。
不意に、ワンピースの下に淫魔の手が滑りこんでくる。強引に背の下に滑り込んだ手は、いともたやすくブラジャーの留め具を外す。ワンピースと共にブラジャーがぐいっと押し上げられて、肌がさらされた。
あらわになった胸を、淫魔がじっと見下ろす。赤い目が見開かれる。
「わっ。み、見ないでください……!」
22
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる