【R18】魔女と淫魔の溺愛生活 ~私たちの秘めごとには最強の秘薬が必要です!~【完結】

阿佐夜つ希

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第一章

1 淫魔を召喚してみた

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「やったあ! 召喚成功!」

 光り輝く魔方陣の中央に、ものすごく背の高いイケメンが立っている。
 マージェリィはその場で何度も小さくジャンプして喜びを爆発させながら、たった今召喚したばかりの淫魔を見上げた。
 肌は浅黒く、瞳は黄金色。艶やかな黒髪は肩までは届かない長さで、ゆるやかなウェーブを描いている。二本生えた角は先端が前に向かって大きく湾曲していた。

「わは~、背がおっきい……」

 額の前に手をかざす。頭の先まで見上げるには後ろに一歩下がりそうになるくらい仰け反らなければならなかった。
 淫魔は官能小説に出てくる写実的な挿し絵よりもずっと美しかった。肩幅は広く、盛り上がった胸筋を見せつけるようにシャツの胸元を大きく開けている。重ね付けしたネックレスには大小様々な宝石がちりばめられていてきらきらと輝いている。
 下半身は、長く逞しい脚にぴったりとフィットした革製の黒いズボンを履いて、同じく革のブーツを履いていた。

 再び視線を顔に戻す。
 宝石のような瞳をもつ端整な顔は、どの角度から眺めても『完璧!』と叫びたくなるような芸術品じみた見た目をしていた。
 その煌めく双眸がマージェリィの頭の先から爪先までを眺め始める。

「ふ。此度の召喚主は初々しい乙女であるか」
「わは~、声まで素敵……!」

 低い声は色っぽく、ぞくりと背筋に震えが走る。
 一瞬肩を竦めてしまったマージェリィは自分のその反応をごまかそうと、わざとおどけてみせた。

「淫魔さんってこんなに背が高いものなんですねえ」

 木の床の上でおおげさに踵を持ち上げる動きをして、高い位置にある顔を見上げる。すると突然手を拾い上げられた。

「我は背丈のみならず、こちらもデカいぞ?」

 そう言われた次の瞬間、マージェリィの手は淫魔の股間に導かれていた。

「わわっ!?」

 革のズボン越しに、淫魔の象徴ともいえる部位に触れさせられる。自分の体にはない部位をマージェリィは興味津々と撫でさすった。

「わはあ……こんな感じなんだ……」

 魔術や魔法薬の勉強中、人体図鑑で男性の体について学んだことがあるためその形状自体は知っている。記憶の中の図解と手から伝わる感触とを結びつけていく。

「触るの初めてなんで、どれだけ大きいかってのはわからないですすみません」
「恥じらいもせぬのだな、うら若き魔女よ」

 再び手が取り上げられる。それに釣られて再び視線を上げると、黄金色の瞳に見つめられていることに気付いた。眼差しの熱さに心臓がどくんと脈打ち、つい早口になってしまう。

「あ、わたし若くないんです三十年は生きてまして。でも自作の若返り薬を飲んでますので肉体年齢は十代を保ってます!」
「ほう。なるほどそれでくも美味そうな肉体をしておるのだな」

 大きな手のひらがマージェリィの頬を包み込む。

「肌は白く艶やか、紅を刷いたが如く上気した頬、青空を思わせる爽やかな色合いの瞳、薔薇で染めたと見紛うほどの艶やかな髪。豊かな胸も……愛でがいがありそうだ」
「わわわわっ!?」

 頬を撫でていた手が滑り落ちていき、胸に辿り着いたかと思えばワンピース型の黒いローブの上からすくうように膨らみを持ち上げ始めた。ワイングラスを揺らす風に軽く弄ばれて、初めて他人からそこを触られたマージェリィはどう反応したらいいか分からず固まってしまった。一気に顔が熱くなり、耳の中に鼓動が鳴り響く。
 その反応を見て、淫魔が口の端を吊り上げた。

「我の陰部をためらいもなくさすった割に、胸を揉まれて恥じらうとは。此度の召喚主は性交に慣れているのか不馴れなのか……。汝は我を如何様な悪魔か把握したうえで呼び出したのであろうな?」
「あ、はいもちろんです!」

 マージェリィは大きく一歩下がって淫魔の手のくすぐったさから逃れると、張り切って頷いてみせた。

「自己紹介が遅れてすいません! 私、魔女のマージェリィっていいます! 生まれてこの方男の人と関係を持ったことがなくて! 出会いを求めるもなにも亡き師匠の言いつけで老婆に変装した姿でないと街へ出ちゃいけないんです。だから素敵な男の人を見つけても声をかけられるはずもなく! というかだいたいそういう魅力的な人って相手が居るし! それでもどーしても誰かとえっちなことをしたくて、とりあえず勉強になるかな?と思って官能小説とかを買って読んだりしてたんですけど……」
「ほう?」

 黄金色の目がきらりと光った。

「そういった類の書を読み、自身を慰めていたと?」
「わ!? わううう……ま、まあ、そういうこと、です」

 改めて指摘されると途端に恥ずかしくなる。
 しかし恥ずかしがっている暇なんかないと、首を振って恥じらいを打ち消した。

「でもでもやっぱり小説に出てくるような素敵なセックスっていうのをいっぺんしてみたくて! だからあなたを呼び出したんです。セックスのエキスパートである淫魔のあなたに毎日毎晩これでもかってくらいめちゃくちゃにして欲しいの!」
「ふむ。我に適任だな。むしろ我以外の悪魔にその大役は務まるまいよ」

 煌めきを放っていた目がすっと細められる。
 淫魔は自身の厚い胸板に手を置くと、お辞儀するように顔を近付けてきた。

「その願い、承った。では主従契約を交わすとしよう」
「あ、は、はいっ、……んむっ!?」

 顎をすくわれ唇を重ねられた次の瞬間舌を差し込まれていた。
 淫魔との契約は、互いの体液を交わさなければならないのだった。

「んふ、んんっ……」

 くちゅっくちゅっと舌が絡み合う生々しい音と感触に背筋がぞくりとして、今までに一度として発したことのない上擦った声が漏れる。

(官能小説で読んだことがある気がする、こういうキスシーン)

 物語の中でなら散々見てきた女性の反応を今まさに自分がしているかと思うと顔が爆発しそうなくらいに熱くなる。ゆだった頭は混乱するばかりだった。

(キスだけでこんなに気持ちいいなんて、ホントにあるんだ……)

 他人の熱を味わわされているという初めての状況にどぎまぎしつつ薄目を開くと、伏せられた濃い睫毛が見えた。

(本当にかっこいいな、この淫魔さん……)

 溶けるほどに熱い舌が、頬ずりをする風にじゃれついてくる。その肉感的な感触は下腹部を疼かせて、たちまち腰が抜けてしまう。
 その場にくずおれそうになった瞬間、ぐっと腰を抱き寄せられた。

「はふう……」

 解放された唇から間の抜けた声が洩れてしまう。
 腰を支えてくれる腕が力強く、その頼もしさにますますどきどきしてしまう。
 すっかり淫魔の腕に体重を預けつつ熱いキスの余韻に浸っていると、黄金色の瞳と目が合った。その眼差しは優しげな笑みを浮かべていた。
 視線はそのままに息を弾ませながら、恐る恐る問い掛ける。

「えっと、あの、その……今ので契約完了ですよね……?」
「ああ。我が名はレヴィメウス。これにて我は汝のしもべとなった。さああるじよ。めくるめく官能の世界へと旅立とうではないか。我に全てを委ねるが良い」
「わはあ……やったあ、お手柔らかに、いえ、思う存分やっちゃってください!」
「ふ。承ったぞ、主よ。ならば速やかに寝室へと参るとしよう」
「はい、よろしくお願い……わわっ」

 あっという間に膝裏をすくい上げられてお姫様抱っこをされる。突然視界が高くなり、動揺したマージェリィは咄嗟にレヴィメウスにしがみついた。
 直後、馴れ馴れしく抱きついてしまったことに気付いてぱっと手を離す。

「あ、ご、ごめんなさい」
「なにゆえ謝るのだ、主よ。これから主は幾度となく我にしがみつくことになるのだぞ。望もうと望むまいと反射的にな」
「反射的に? どうして?」
われあるじに与える快楽は、主が我にしがみついていなければ耐えられぬほどに甘美であるぞ。先ほど主より『存分に』とのめいが下されたゆえ、我も淫魔の力の限りを尽くさん」
「わううう……。や、やっぱりお手柔らかにして欲しいような、でも淫魔さんに手加減してもらうってのも失礼なのかな……?」
「レヴィメウス、だ」
「え?」
「我が名はレヴィメウスであると申したであろう。主よ、その愛らしい声で下僕めの名を呼んではもらえぬだろうか」
「え、あ、レヴィメウス……?」
「ああ、そうだ」
「レヴィメウス。素敵な名前だね」
「ふ。召喚主に名まで褒められた覚えはついぞない。主の名マージェリィも、可憐な響きで主に良く似合っておる」
「え!? わはあ、ありがとう……!」

 マージェリィは自分の名前を気に入っているものの、誰かに褒められた経験はなかった。お姫様抱っこされているだけでもどきどきするのにさらに胸が高鳴ってしまう。

 間近にある端整な顔にも心臓が騒ぐし、魔女の黒いローブ越しに伝わってくる筋肉の硬さと体温の熱さにもときめくしで、すっかり落ち着きをなくしてしまう。
 廊下に出て寝室の方向を案内すれば、歩幅の広い淫魔に運ばれてあっという間にふたりの目的地に到着する。恭しい手付きで床に立たされて、その扱いにもまた鼓動が速くなってしまう。

(これからたくさんたくさん、気持ちいいことをしてもらえるんだ……!)

 何が起こるか分からない不安、きっと素敵な時間が訪れるという期待。マージェリィは緊張感の高まる中、ぐっと息を呑み込んだのだった。
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