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第一章
14 欲望を注がれたあとで(☆)
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「っ……!」
ヒナリが隣の部屋から聞こえてきた声に驚いた瞬間、アルトゥールが息を詰めた。繋がっているところを締め付けてしまったらしい。
しかしすぐに交わる動きを再開させる。静寂に、規則正しいリズムが刻まれる。
先ほど聞こえてきた声は確かにミュリエルの声だった。疲れ切って首すら動かせず、目だけで書斎の方を見る。姿は見えなかった。主人の恥態を見てしまわぬように、見えない位置から声掛けしてくれたのだろう。
アルトゥールは余程没頭しているのだろうか、無言で腰を揺らし続けている。
「んっ、んっ……」
止まぬ快感に、嬌声を洩らしてしまわぬように唇を引き締める。
返事をしなくてはと必死で鼻から息を吸い込んでいると、今度はレイチェルが話し掛けてきた。
「朝になりましたが、長時間儀式を続けられているご様子なので御身に障らないかと思い、僭越ながらお声掛け致しました。ヒナリ様、ご無理はされておりませんでしょうか」
状況を察してくれたのだろうか、今度はヒナリだけに限定して呼び掛けてきた。
やまぬ快感をこらえて、平静を装った声を出そうと試みる。
「あっ、あり、がとう……」
こんな状況でも容赦なく叩き付けられる衝撃に、声が途切れさせられる。
「私はっ、……大丈夫、だからあっ……!」
声量をコントロールできるはずもなく、最後は悲鳴になってしまった。快楽に震える声を賢者以外の人に聞かれてしまい、泣きたい気持ちになってくる。
ごめんねミュリエル、レイチェル――そう心の中で必死に呼び掛けていると、
「かしこまりました。失礼します」
落ち着き払った声が聞こえてきたあと、壁の向こうで扉の閉まる音がした。
再びアルトゥールとふたりきりの世界が戻ってくる。
正直止めて欲しかったとは思う。
しかし全部受け止めると言ったのは自分だ。聖女として、賢者の欲望を拒絶してはならない。
「ああ、ヒナリ、ヒナリっ……!」
またアルトゥールの動きが激しくなってくる。その切なげな声が昇り詰める直前の合図であることは、幾度も聞かされたせいでもうすっかり憶えてしまった。
強く腕を引かれて逃げることも許されず、一番奥を繰り返し突き上げられる。気が触れそうになるほどの快楽に襲われて、叫び出さずにはいられない。
「あ! あ、アルトゥール、またイっちゃう、イっちゃうのっ、あ! はあっ! はああっ、――はあああっ……!」
何度目かも知れぬ絶頂に耐えきれず、ヒナリは意識を手放したのだった。
◇◇◆◇◇
ヒナリが目を覚ますと、見知らぬどこかに寝そべっていた。
霧らしきものに包まれていて周りの状況を全く確認できない。視界全体が淡く発光している。
ぼんやりした頭の中で記憶を探る。アルトゥールの部屋で儀式をしていたはずなのに――。
(どこだろ、ここ。アルトゥールの部屋じゃないのかな。アルトゥールはどこに行っちゃったんだろ)
身じろぎした途端、滑らかな薄布をまとっていることに気付く。誰かが身繕いをしてくれたのだろうか。
ゆっくりと起き上がると、女性の声が聞こえてきた。
「はぁい♪ お疲れ、聖女ちゃん♪」
心の穢れが一瞬にして洗い流されるような澄み渡った声。しかし口調は驚くほどに軽かった。
ヒナリが顔を上げた途端に霧が晴れていく。
声の主は少し高い台座の上にだらしなく横たわり、大きな白いクッションに身を沈め、上体を少し起こした姿勢を取っていた。笑顔で手を振っている。
輝く黄金色の瞳。ゆるやかなウェーブを描く長い髪は白く、毛先だけがピンク色で、大きな胸を見せつけるように胸の谷間があらわになった装束をまとっている。
目を奪われる美貌の女性を前にして、自然と状況を理解する。
ああ、これが女神ポリアンテス様か――。
誰かと尋ねなくても直感でそう思った。それくらい、現実離れした美しさに目が眩みそうになる。
女神の周りには少年ふたりと青年ふたりが居て、女神に寄り添っていた。布を軽くその身にまとわせた彼らは恐らく天使なのだろう。皆恐ろしいほどに整った顔で、ヒナリの方には目もくれず、恍惚とした顔付きで女神を眺めている。
(随分淫らな神様だなあ)
率直にそう思った。
七つの大罪ってやつのどれかにこういうのなかったっけ、などと思いながらぽかんとしてると、
「さて、何かご用かしら? 聖女ちゃん♪」
女神の方から問い掛けてきた。
そんなことを聞かれても困る――ヒナリはその思いを素直に口にした。
「御用といいますか……なんで私、ここに居るんでしょう」
「質問はそのひとつでいい?」
「え、ひとつだけしか質問しちゃダメですか?」
「そうね~、わたくしもそんなに暇じゃないのよね~」
「あ、そうですか、すみません」
恐らく貴重であろう、神に直接物を尋ねる機会に何を問うべきか――。
「ではなぜ、私を別の世界に転生させたのですか?」
真っ先に思い付いた疑問を即座に口にする。
「んー? そうねえ……」
女神がゆるりと手を持ち上げ、宙の一点を指す。優雅な所作に、自然と目が奪われる。
詩歌を吟するかのような清らかな声で、女神が語り出した。
「そよ風が吹き木の葉が舞い上がり、そのうちのひとひらが川に落ちて流れゆく。何物にも遮られず流れ流れていつしか海に辿り着いたとして――」
そこで言葉を区切り、にっこりと微笑んだ。
「……その木の葉は、選ばれし一枚だと思う?」
「――!」
答えは明らかだった。
ただの偶然――女神は言外にそう宣った。
ショックで声も出ない。
涙すら浮かんでこない。
「この世界はわたくしのものだけれども、わたくしの世界に辿り着く前、別の世界にある魂そのものに直接働きかけることは許されていないの。『そちらの世界の魂をおひとつくださいな♪』って風を吹かせる程度のことはさせてもらえるけどね」
女神は木の葉の【そのうちのひとひら】と言っていた。
(私が死んだ瞬間に、私以外の誰かも亡くなったってこと?)
「別にいいでしょ? 聖女ちゃんが気にしてた子たちなんだし」
「え?」
心を読まれているらしい。
しかも【気にしてた子】というと、アルバイト先でヒナリに陰口を叩いていた子たち――。
「わ、私はそんな、あの人たちに死んで欲しいなんて思ってたわけじゃ……!」
「それはわたくしだって一緒よ。たまたま近い範囲に居たんだから仕方ないじゃない」
(『仕方ない』なんてレベルの話じゃない! それに『近い範囲』だなんて、全然別の場所に住んでたのに……!)
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