某中学校事変

染 夏芽

文字の大きさ
上 下
1 / 2

口は災いの元 (前編)

しおりを挟む
生まれてこの方、修羅場というものにあった事が無い。
夫婦喧嘩は少々目にしてはいるが、修羅場という程のインパクトは無いと思う。
部活動にも学業にも大して打ち込んでこなかったもので、特に何も思い出もなく、義務教育の9年が終わると思っていた。
卒業まであと9日。
僕のクラスで事件が起きた。
人生初めての修羅場。
どこからか高揚感が湧いた。

YさんとMさんは仲が良かった。
いや、そう見えていただけかもしれない。
彼女らはよく愚痴を吐く。
誰にでも。そう、誰にでも。
もちろん僕にも。
その日、Mさんが女子を中心に噂を撒いた。
「Yちゃんがみんなに悪口言ってたよ」
Mさんはしょっちゅうこんな風に、会話で生まれた悪口を他人に言う癖がある。
皆も毎度の様に流そうとしている雰囲気だったが、今回ばかりは少し違った。
具体的というか、なんというか。
欠点を指摘していると言うよりかは、悪意に満ちている口ぶりだった。
チビ、一軍気取り、デブ、調子に乗っている、ぶりっ子、運動音痴など。
だが、所詮他人の戯言。
怒るどころか、それをネタにして自己紹介を考えるなど、ユニークな行動に走る者ばかりだった。
僕はそれを傍から見ているだけだったが、言葉の節々に敵意を感じた。
言われていたのは女子だけだった。
中にはメンタルの弱い子もいたが、他の子が自虐のように励まして、何とか平静を保っていた。

その日Mさんに聞く限り、言われていた女子は約10人。
その女子全員のヘイトがYさんに向いた。
Yさんも少し性格に難アリで、校則に違反したスクールメイクをしていたり、完全に主観になってしまうが、話し方が特徴的だったり、自分のことを可愛いと思い込んでる人の特徴にあてはまっていた。
それも相まって、10人のヘイトはYさんに集まった。


卒業まであと7日。
また数人、悪口を言われた人が増えた。
その中には間接的に僕も入っていた。
実はこうなった心当たりがあるのだ。
中学校3年生1学期。
丁度プログラミングで遊んでいた頃、アイデアを思いついた。
「裏サイトを作ろう」
勿論好奇心だけではなく、ちゃんとした理由もあった。
広告費だ。
なにか中学校内で組織を作りたい、イベントを開催してみたい、などという人達から小額のお金を受け取り、サイト内で告知をして儲けようと考えていた。
それには気を引けるような記事を書かなければならない。
恋愛、学校内の問題児の行動、臨時連絡など、様々なジャンルを設けて、案を練っていた。
僕はそこで失態を犯してしまったのだ。
作業は学校で支給された端末でしており、基本自分の席でしていた。
その時はMさんと席が近かったため、YさんもよくMさん席に来ていた。
その他にも1人仲良くしている人が来ていた
そのため、僕の画面も見えてしまっていたのだ。
「何作ってるの?」
何気なく3人が話しかけてきた。
偽る必要も無いと思い、素直に答えた。
「裏サイトだよ」
「なんで作ってるの?」
「まあ、色々」
素っ気なく返しているつもりなのだが、あちらが手動で話が続く。
でも、自分の好きな分野について掘り下げてくれるのは嬉しいことだ。
そのうちに僕も乗り気になっていった。

「じゃあ、みんなの記事でも書く?そういえばあの子と仲良かったじゃん」
Yさんとあまり親交がなかったため、仲良くなろうと話を持ちかけた。
照れ隠しなのか苦笑いなのか、Yさんは少しニヤニヤしていた。
それ以外は乗り気な表情だった。
即興でそれっぽいページが出来上がり、Yさんに見せてみても先程と同じ反応。
興ざめした僕は、笑いを混じらせながら冗談でこう言った。
「これ公開してみる?」
Yさんは困っているのか、何も反応がなかった。
その他の人は「え~、やめてよ~」という感じの反応をしていた。
すると、Yさんはいきなり教室をとび出てトイレに向かった。
僕は終始頭の上にハテナが浮かんでいたが、宥めるように2人が説明してくれた。
「あの人、冗談を真に受けるの。今回に限ったことじゃなくて、もう何回も見てる」
その事を聞いて安心したのも束の間、悲報が耳に飛び込む。
「Yさん、トイレで泣いてたんだって」
え?たかが冗談で?しかも暴言でもないのに?
面倒事はとにかく避けたいと思っていたので、即行証拠となるものを消して、裏サイトの作成を断念した。
数週間が経ち、どうやらYさんは勝手に和解したと思っていたらしく、今まででは考えられない距離感で話しかけてくる。
今思えば、泣いた、というのも自分をピュアに見せるための演技だったのだろう。
実際に涙を見た者は一人もいなかった。
裏サイトが引き金となり、その頃から悪口が頻繁に会話に出るようになったそうだ。
後悔はしているが、反省は微塵もしていない。
悪事を働いたと言い切れる程のことはしていないからだ。
Mさんを伝ってYさんとの会話を聞いた。
「夏芽のことも言ってたよ。仲良くなれたって」
は?
意味がわからなかった。
思い違いで距離をとる羽目になったのにも関わらず、仲良くなった?
ふざけるのもいい加減にしろ、と言いかけた。
それが今回の事件に関わっていたのだ。

僕が間接的に関係したというのは、卒業間近ということで、3日に1回席替えをしようということになり、ある女子と席が近くなった。
その子とは仲良く会話していただけだった
まあ、色々と意気が投合したもので。
それを見ていたYさんが、
「あの子って夏芽に釣り合ってないよね」
と言ったらしい。
これまたMさん伝いの情報だ。
お互いに恋愛感情なんて無かった。
それなのにも関わらず、身勝手にそう言い切ったのだ。
でも、所詮Yさんのことだと思っていたため、大してダメージもなかった。
相手の子も傷ついてなかったようなので安心した。
それと同時に大きな高揚感を覚えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

おしがま女子をつける話

りんな
大衆娯楽
透視ができるようになった空。 神からの司令を託され、使うことに......って、私的に利用しても一緒でしょ!

処理中です...