皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり

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厩戸係のお仕事

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終わり良ければ全て良し。
波乱に満ちた1日も白露バイルーに会えたことで、良い一日に上書きされた気がする。
堯舜ヤオシュンは気分上々で月華宮に向かおうとした。たが、ひとつ気がかりなのは、「本物の翡翠のかんざし」のことだ。

「紫微宮の東側の部屋か」

絶対に彼女を正妃にしたいという気持ちは既に薄れている。ただ、小龍シャオロンの話を聞いた後では、彼女が望むなら人生をめちゃくちゃにした償いはしたかった。しかし彼女が償いとして結婚をのぞんだら?

親世代の惚れた腫れたを目の当たりにした今、大恋愛などより穏やかな生活を望む。

皇帝としてではなく、このままの姿ならば彼女の人となりを見れるのではないだろうか。

「よし。厩戸係はもう一仕事と」

紫微宮の東側に差し掛かると、蕣花シュンホワが扉から出てくるところであった。ようやく堯舜ヤオシュンにも、見慣れない女が宮に増えた合点がいく。

堯舜ヤオシュンではないか、ちょうどいい」
蕣花シュンホワは厩戸に向かうつもりだったらしい。自然に連れ立って歩くことになる。

「やはりな」
「ん?なんだ?」
蕣花シュンホワの髪には翡翠のかんざしである。まごうことない。母上の翡翠のかんざしである。

「いや、綺麗なかんざしだと思ったんだ」
ヤオの人間はなんで、そんなにこのかんざしに夢中なんだ?」
聞き出すには怪しすぎる切り口だった。失敗したと思いつつ、自然に会話を続ける。
「いや、なんでこの宮に滞在しているのかと思って」
完全に失敗だ。この会話は成立していない。

蕣花シュンホワは怪訝な顔をしている。だが、訝しげながらも、性根が優しいのか答えてくれた。
「皇帝の謁見を待っている」
「…」
通常の厩戸係はひれ伏すだろう。皇帝陛下の謁見を待つ、紫微宮に滞在する女性に厩戸係が馴れ馴れしく会話していいわけがない。
しかし、堯舜ヤオシュンは正解を知らなかった。
奇しくも蕣花シュンホワも正しいヤオ国の貴族の作法や身分制度を知らなかった。
「それにしても皇帝って人を待たせるのだな、。誰かにこんな待たされるの初めてだ」
「そんなに会いたい?」
「そりゃ、会いたくなかったらわざわざ来ない。まあ皇帝謁見なんて、知らなかったが」
「知らなくてもわざわざ遠方から翡翠のかんざしを持ってきたんだな」

堯舜ヤオシュンは口を滑らせた。
蕣花シュンホワはそれを見逃さなかった。
「やっぱり、この翡翠のかんざしは何かあるのか?厩戸係すら知ってるぐらいに」

堯舜ヤオシュンはしまったと思いつつも、顔に出さないように答える。
「俺は母の代からずっとここに住んでいるからね、それが国宝なことぐらいは知ってる」
「あ、そんなことか」

国宝を軽く流した蕣花シュンホワ堯舜ヤオシュンの方が驚く番だった。
「このかんざしが何か知りたいってわけじゃないのか?」
「宝玉としての価値を知りたいわけじゃない。これを私に残した人が何者なのか知りたいだけだ。その人の記憶がほとんどないからな。大事な人なのに」
その言葉は堯舜ヤオシュンの胸にズシリと重くのしかかる。

「自分が何者かわからないままじゃ、ここにいていいのか。それとも自分の居場所はどこか違う場所にあるのか前に進めない気がしてる」

「分かるよ」

「だから、ここに来た。分からないまま誰か人の思惑で嫁がされるなんて絶対嫌だから、道は自分で切り開きたいんだよ」

蕣花シュンホワは一層輝いてみえた。厩戸につくと淡々としかし愛情を持って雪風シュエフェンの世話をし、くだらない冗談をいいあう。

正直なところ蕣花シュンホワとあの熱い抱擁を交わした記憶は蘇っていないのだが、どこか懐かしい感じもして、他人と思えないシンパシーも感じた。むしろ母に似ている。

とろけるような大きな瞳と熱い吐息が断片的に思い出される。しかし、彼女の言葉は堯舜ヤオシュンに真摯に彼女を正妃にすえることを考えさせるに充分であった。

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