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出逢いは曲がり角にある

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堯舜ヤオシュンは朝からの大事件の連発に既に疲れ切っていた。既に親世代のイザコザは把握しきれず、考えることも放棄した。

厩戸係の格好は既に馴染んでいたが、母も怪我をしたことだし、白露バイルーたちを食事に誘うのは日を改めた方が良いかもしれない。

すると小龍シャオロンが追いかけてきた。
「先ほどは言いそびれたことがあって…翡翠のかんざしを持った女が昨日急に現れたんだ」
「先々週からずーっと現れてるだろう」
「いや、本物の翡翠のかんざしを持っている。皇帝陛下が謁見するから待つようにと紫微宮の東の部屋に滞在してもらっている」
「この格好じゃ行けない」

それに親世代のあのトンチキ騒ぎには心底参って大恋愛なんてするものではない気分なのだ。

「本物の翡翠のかんざし…か」

ついにあの日の女に対面できると思うと、逆にどうしたいのかわからなくなってきた。物思いに耽りながら、歩いていたら、角から飛び出してきた女にぶつかる。

シュン様!申し訳ございません」
それは刺繍をたくさん持った白露バイルーであった。突然現れた癒しに堯舜ヤオシュンは心底ほっとする。

「こんなにたくさんあるね、ちゃんと休んでいるのかい」
「仕事があるって素敵ですから!休んでなんでいられなません。お母様にも早くお借りしたお金をお返ししたいんです」
頑張り屋の白露バイルーらしい答えに堯舜ヤオシュンは顔が綻んだ。

「そりゃあいけない、たまには息抜きもしないと」
堯舜ヤオシュンは刺繍の山を持つと白露バイルーの手をひく

「なにか甘い物を準備するよ」

白露バイルーの頬が赤く染まる。
「そんな、仕事をさぼったりしたらお母様に迷惑が…」
「大丈夫大丈夫、まかせて」

図書館の隠し部屋に白露バイルーを案内し、堯舜ヤオシュンはの蟠桃を一皿牡丹坊からかっぱらってきた。

「この桃、ひらぺったい?すごく立派で見たことないわ」
「母さんの好物、部屋から持ってきた」
「じゃあ、いけません」
「いいよ、山ほどあるから食べて」
ヒョイっと堯舜ヤオシュンは皿から一つ取り、かじり渡す。
「ほら、毒は入ってないから」
一瞬キョトンとして、白露バイルーは笑い出した。
堯舜ヤオシュンは冗談が上手なんですね!」
図書館の隠し部屋は襲撃に備えた場所で、暗く狭い。かじりかけの桃を手渡された白露バイルーは、鼓動の高鳴りを感じながら、躊躇いつつ、桃に口をつけようとしたが、堯舜ヤオシュンの手がそれを突然邪魔する。

「ごめん、不衛生だったよな。俺のかじりかけなんて」
堯舜ヤオシュンの感覚では、毒の耐性がつかない子供に父や母が最初の一口を毒味するのが愛を感じる瞬間でもあったが、世間では毒味など必要ないのだから、気持ち悪く感じると気がついたのだ。
「いや、では…ないです…」
白露バイルーの声は消え入りそうで堯舜ヤオシュンには「いや」しか聞こえないようだった。
ごめんごめんと謝りながら、真新しいひとつを差し出す。

「甘い」

感嘆がもれる。

「な、美味しいよな」
ふたりであっとゆうまに1つずつ平らげる。堯舜ヤオシュン白露バイルーの美味しそうに食べる顔がもっと見たくて、次を勧めるが白露バイルーは少し困ったような顔をして、手を伸ばそうとしない。
「口に合わないかい?」
「そんな…とっても美味しいです、今まで食べたことないくらい」
白露バイルーは言い淀む。
「じゃあなぜ?」
「すごく美味しいから、飛飛フェイフェイ花花ホワホワにも食べさせてあげたくて…ずうずうしくてごめんなさい!」

見ればさらには後3つ桃が残っている。
「じゃあ二つ持ち帰って。一つはあまりだから白露バイルーが食べてよ」
「いいえ、最後のは雲泪ユンレイ様のですわ。美味しいものはみんなで分けたらもっと美味しいのですよ」

薄暗い隠し部屋で白露バイルーは大輪の笑顔を咲かせたのであった。

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