14 / 31
頑張れ厩戸係
しおりを挟む
「これでいけるんじゃないか」
鏡の中にうつる厩戸係は皇帝の寝室にはおよそ相応しくない格好である。
後ろ姿も確認し、 堯舜は深呼吸をした。
白露が後宮入りらしきものをして、すでに20日が過ぎているというのに 堯舜はまだ2回目の対面すらしていない。
母とずいぶん楽しく過ごしていると聞いたゆえに、心配など何もないが、自分も何かしたいという気持ちが日に日に募っていた。それに白露の子供たちの笑顔がもう一度見たい。
そのために、厩戸の馬を子供たちに紹介するという理由をこじつけて約束を取り付けたのである。
おふれを出したが故に、翡翠のかんざしを持つ年頃の娘たちが宮に押しかけているとの話だが偽物ばかりである。小龍は毎日の襲来に辟易している様子だった。こんなことに人手を割いているなんて、母上の耳に入っていないことは幸いであった。
ちょうど 堯舜が顔の汚しが足りないかと肌に油を塗りつけている頃、小龍のもとに新たな候補者の来訪があった。
衛兵によると、その女は白馬にのり1人でやってきたという。厩戸に白馬は繋がれているか、皇帝陛下の名馬たちに全くひけをとらない。
「私が翡翠のかんざしを持つ女だ、通せ」
その女の凄みに衛兵たちは本来は海外の要人に謁見する紫微宮の謁見の間に女を通したという。
小龍は足早に謁見の間に向かう。
「ほう、皇帝自らのお出ましではないのか」
豪華な部屋に気圧されもせず、見劣りもしない女は
小龍に一瞥をくれた。視線ひとつで男性を射抜く矢のような美しさである。髪を纏めた翡翠のかんざしを引き抜くと、銀の長い髪は眩しく空を舞い、艶やかにひとまとまりの川の如く背中の見事な刺繍を覆う。
右に掲げられた翡翠のかんざしは紛れもない本物であった。
小龍は決められた質問をする。
「出身と名をいただけるか」
「なぜ貴様に我が名を名乗る必要が?弁えよ」
鈴のような軽やかな声は辛辣だ。
「この翡翠のかんざしに関しては皇帝陛下に一任されている。どうかお名前をいただきたい」
小龍は最大限の礼を尽くし、嘆願した。
「理由もわからず名乗る名はない」
とりつくしまもない。
小龍あきらめずに質問を続ける。
「これは皆に聞いているので、気を悪くせず答えてほしいのだが、これまでに新娘になったことはあるか」
我ながら愚問だとは小龍は思った。後宮入りを望むなら処女と嘘をつく可能性が高いからだ。
「ハ!なんだそれは。父に送られ3回は政略結婚に出されている。3回とも旅の途中で逃げ出してやった。向こうに到着していたら、新郎たちは血の海を見ただろう。今では役立たずの行き遅れと父にはあきれられている」
ずいぶんとイメージが違うが、話は整合性がとれる。皇帝陛下も瀕死で良く見た目を覚えていないのだから、彼女でないとは言えない。何より翡翠のかんざしが本物である。
「まずは客人として、貴殿を紫微宮にお迎えしよう。後ほど皇帝陛下の謁見があるだろう。お泊りいただく部屋に案内させる。充分に休まれよ」
銀髪の女はさも当たり前かのように表情ひとつかえず、再び髪を団子にしてかんざしを刺した。
「それより、馬の世話がしたい。随分と長旅無理をさせたからな。厩に案内せよ」
小龍は御意にと頭を下げると、衛兵をつけ女を案内させることにした。
鏡の中にうつる厩戸係は皇帝の寝室にはおよそ相応しくない格好である。
後ろ姿も確認し、 堯舜は深呼吸をした。
白露が後宮入りらしきものをして、すでに20日が過ぎているというのに 堯舜はまだ2回目の対面すらしていない。
母とずいぶん楽しく過ごしていると聞いたゆえに、心配など何もないが、自分も何かしたいという気持ちが日に日に募っていた。それに白露の子供たちの笑顔がもう一度見たい。
そのために、厩戸の馬を子供たちに紹介するという理由をこじつけて約束を取り付けたのである。
おふれを出したが故に、翡翠のかんざしを持つ年頃の娘たちが宮に押しかけているとの話だが偽物ばかりである。小龍は毎日の襲来に辟易している様子だった。こんなことに人手を割いているなんて、母上の耳に入っていないことは幸いであった。
ちょうど 堯舜が顔の汚しが足りないかと肌に油を塗りつけている頃、小龍のもとに新たな候補者の来訪があった。
衛兵によると、その女は白馬にのり1人でやってきたという。厩戸に白馬は繋がれているか、皇帝陛下の名馬たちに全くひけをとらない。
「私が翡翠のかんざしを持つ女だ、通せ」
その女の凄みに衛兵たちは本来は海外の要人に謁見する紫微宮の謁見の間に女を通したという。
小龍は足早に謁見の間に向かう。
「ほう、皇帝自らのお出ましではないのか」
豪華な部屋に気圧されもせず、見劣りもしない女は
小龍に一瞥をくれた。視線ひとつで男性を射抜く矢のような美しさである。髪を纏めた翡翠のかんざしを引き抜くと、銀の長い髪は眩しく空を舞い、艶やかにひとまとまりの川の如く背中の見事な刺繍を覆う。
右に掲げられた翡翠のかんざしは紛れもない本物であった。
小龍は決められた質問をする。
「出身と名をいただけるか」
「なぜ貴様に我が名を名乗る必要が?弁えよ」
鈴のような軽やかな声は辛辣だ。
「この翡翠のかんざしに関しては皇帝陛下に一任されている。どうかお名前をいただきたい」
小龍は最大限の礼を尽くし、嘆願した。
「理由もわからず名乗る名はない」
とりつくしまもない。
小龍あきらめずに質問を続ける。
「これは皆に聞いているので、気を悪くせず答えてほしいのだが、これまでに新娘になったことはあるか」
我ながら愚問だとは小龍は思った。後宮入りを望むなら処女と嘘をつく可能性が高いからだ。
「ハ!なんだそれは。父に送られ3回は政略結婚に出されている。3回とも旅の途中で逃げ出してやった。向こうに到着していたら、新郎たちは血の海を見ただろう。今では役立たずの行き遅れと父にはあきれられている」
ずいぶんとイメージが違うが、話は整合性がとれる。皇帝陛下も瀕死で良く見た目を覚えていないのだから、彼女でないとは言えない。何より翡翠のかんざしが本物である。
「まずは客人として、貴殿を紫微宮にお迎えしよう。後ほど皇帝陛下の謁見があるだろう。お泊りいただく部屋に案内させる。充分に休まれよ」
銀髪の女はさも当たり前かのように表情ひとつかえず、再び髪を団子にしてかんざしを刺した。
「それより、馬の世話がしたい。随分と長旅無理をさせたからな。厩に案内せよ」
小龍は御意にと頭を下げると、衛兵をつけ女を案内させることにした。
10
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~
七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。
冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
見鬼の女官は烏の妻となる
白鷺雨月
キャラ文芸
皇帝暗殺の罪で投獄された李明鈴。失意の中、処刑を待つ彼女のもとに美貌の宦官があらわれる。
宦官の名は烏次元といった。
濡れ烏の羽のような黒髪を持つ美しき青年は明鈴に我妻となれば牢からだしてやろうと提案する。
死から逃れるため、明鈴は男性としての機能を捨て去った宦官の妻となることを決意する。
【完結】えんはいなものあじなもの~後宮天衣恋奇譚~
魯恒凛
キャラ文芸
第7回キャラ文芸大賞奨励賞受賞しました。応援ありがとうございました!
天龍の加護を持つ青龍国。国中が新皇帝の即位による祝賀ムードで賑わう中、人間と九尾狐の好奇心旺盛な娘、雪玲は人間界の見物に訪れる。都で虐められていた娘を助けたまでは良かったけど、雹華たちに天衣を盗まれてしまい天界に帰れない。彼女たちが妃嬪として後宮に入ることを知った雪玲は、ひょんなことから潘家の娘の身代わりとして後宮入りに名乗りを上げ、天衣を取り返すことに。
天真爛漫な雪玲は後宮で事件を起こしたり巻き込まれたり一躍注目の的。挙句の果てには誰の下へもお渡りがないと言われる皇帝にも気に入られる始末。だけど、顔に怪我をし仮面を被る彼にも何か秘密があるようで……。
果たして雪玲は天衣を無事に取り戻し、当初の思惑通り後宮から脱出できるのか!?
えんはいなものあじなもの……男女の縁というものはどこでどう結ばれるのか、まことに不思議なものである
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる