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もうひとつの翡翠のかんざし

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翡翠のかんざしを探しているという、奇妙なおふれが全国に出された。翡翠のかんざしを持つ女を皇帝陛下が探している、などと噂にはオヒレハヒレ。持っている女が後宮に呼ばれるなどなど。

全国におふれは出されたが、唯一届かない場所。それは後宮内部である。雲泪ユンレイ白露バイルーもそんなことは梅雨知らず、毎日刺繍をしたり、お茶を飲んだり、ゆったりと日々を過ごしている。

時折厩戸係のシュンとして現れては白露バイルーと会いたいとふとした時に思うが、皇帝陛下はそんな勇気はさらさらなく、時だけが過ぎてゆくのだった。

母の翡翠のかんざしを正確に描いたおふれは全国にまかれ、似たような翡翠を刺した女性やら、そっくりのものを作らせた貴族の娘やらが溢れた。後宮がそろそろ開かれるらしいという根も葉もない噂とともに。

おふれは全国を駆け巡り、国境をも越え、遠く離れた異国で苦々しく翡翠のかんざしの絵が描かれた巻物をみつめる男がひとりいた。

「翡翠のかんざしをヤオの国が探してる…か。翡翠のかんざしを持つ女には褒美を授ける、後宮まで来られたし…翡翠のかんざしの女を奪ったのはお前だろうが」

吐き捨てると、その巻物を部下に投げつけた。
奕世イース様、お待ちくだされ」
部下が走ってついていくが、足早に去ってゆく音においつけない。

屈強な身体、漆黒の長い髪を結い、彫りの深い顔の眉間にはすでに皺が刻まれているが美男子の面影は失われていない。厚い毛皮をまとい、青毛の馬を草原にかけめぐらせる異民族の男はどことなく 堯舜ヤオシュンにも似ている。

「ああ、それとも雲泪ユンレイはまた後宮から逃げ出したかな」

少し愉快そうに、口元を歪める。どうやら笑っているらしかった。

同じ頃、奕世《イース》の投げ捨てた巻物を乙女の白い指先が拾い上げる。その髪にはまごうことなき同じ翡翠のかんざしが刺さっている。

ヤオの国…お母様の故郷…誰かが私を探してるの?」

遠くヤオの国を離れた北方騎馬民族の首都を〝皓特拉尔ハオトラル〟で、そんなことになっているとは誰もまだ知らなかった。

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