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償いの方法

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アンリは押し黙っている。
私を見ることもない。
体温の熱さだけが、伝わる。
私も黙っている。

何を言っても、言い訳にしかならない。

この数ヶ月間、アンリとシュヴァルツに愛されて心地良かった。薄氷の上の長くは続かない幸せと知ってて、何もしなかった。

シュヴァルツが魔王になって、アンリと私を喰い殺すなら育て方が悪いから、それで良かった。私は。

しかし、アンリは何も知らない。知らないままにしたのは、私のエゴだ。知らなければ選びようもない。シュヴァルツと私が秘密を共有していたこと自体が、きっとアンリの愛を裏切っている。

アンリは無理やりシュヴァルツが私の唇を奪ったことに、失望しているんじゃない。

だから、何も言い訳はなかった。

「ごめんなさい」

長い沈黙の果てに、私はその言葉だけを搾り出す。
アンリからは返事がない。

だんだんと冷めていくアンリの熱を感じながら、針のような沈黙に耐える。

そして、アンリは私から離れた。
そのままドアから出てゆき、その晩は部屋に戻らなかった。

私も探しに行かなかった。

もしかしたら、アンリは部屋のすぐ外にいたかもしれない、屋敷の外に出たかもしれない。私は寝台から動かず、アンリの行方を知らない。

ひとりぼっち。

アンリとシュヴァルツと賑やかな家族ごっこをした部屋でひとりぼっちだった。

これがゲームなら、どこからやり直せると思う?

シュヴァルツを助けようとした時?
いいえ、アンリは誇らしかった。

痩けた頰の奴隷の少年を引き取らずにはいられなかった。私だけが、きっと魔王になるかもしれない子と気づいていたけれど、きっと何度も同じ場面に遭遇しても、私はシュヴァルツを暖かい湯で洗い家族として迎えるだろう。

そして記憶の波に呑まれ迷子になった私を、この世界に引き戻してくれたのは間違いなくあの小さな手の温もりだった。

私はシュヴァルツを愛している。
男性としてではなくて、家族として。
聖女や大神官と戦わせて、死なせたくない。

私は知ってる。
シュヴァルツは優しい子だから、きっと私たちを助けるためになんでもするだろう。

シュヴァルツはアンリが好きだ。
アンリもシュヴァルツを愛してる。
このまま見捨てたら、アンリにだって傷が残る。

正義なんて知らない。
正しさも神もしらない。
シュヴァルツが魔王だからって
私たちの息子をみすみす死なせない。

夜はしらじら明けようとしている。

私はドアを開く。
アンリはそこにいた。

「アンリ、私たちの息子を助けにいきましょう」

アンリは優しく微笑んだ。
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