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私の居場所

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破られている本。
冷たい玄関に倒れ込む、私。
切れた唇から血が滲んで、鉄の味がする。

舞うカラーページにはアンリの姿。
そう、彼を見つめて永遠に続くかと思う時を耐えた。

痛くない。怖くない。寒くない。

私にはきっとアンリがいる。

◆ ◆ ◆

ハッと夜中に目を覚ました。公爵家の温かな寝具が私を包んでいる。横に目を向けると、長いまつ毛を閉じて、アンリが彫刻のような鼻から可愛い寝息をたてている。

良かった。

これはただの悪夢。私はハルファティカの身体のまま、眠っていただけ。私の胸元に咲いた薔薇の花びらのようなアンリの口づけの痕が、この世界と私を繋ぎ止めてくれているようで、愛おしく思いなぞる。

ミア、愛してる

アンリの囁きはリフレインのように聞こえ、私は彼に愛された痕跡と余韻に浸った。私は公爵家に公式に降嫁し、もう王太子といえど口出しすることはできない。

王は、すでに何の判断もつかぬ狂人である。この国では政に関して王の判断を必要としないのだ。それでも崩壊しないのは、この国にシステムが良く出来ているからに違いない。

私の濃い青い血の呪いについて、アンリには説明した。彼には知る権利があると思ったから。健康的な女性と交わり、子孫を残す権利がある。

不健康で遺伝的欠陥があるのに、伝えないのは卑怯だ。

アンリは「ミアがいいんだ」と答えた。
私はちゃんと説明したのだけど、もしかしたらこの世界の人には伝わらないのかもしれない。
「ミアに子供が出来なくても、ミアがいい。公爵家が終わろうと、なんなら世界が終わろうといいよ」

なおも悩み顔で説明しようとする私の唇に人差し指をあて、シュッと制した。

「信じて。ミアを愛してる」

そして私は身を委ねることにしたのだ。

「ところで魔王退治するの、手伝えることある?」
気負いなくサラっと言うアンリはすごい。

「今んとこないから、明日から色々準備しよ」
ハルファティカ姫もこんなに緩くて心配ではなかろうか。しかし、焦っても仕方ないのだ。

気になるのは、ユティカの動向ぐらい。
今ある情報を整理するとジュリアンのハルファティカ婚約破棄イベントを起こしておきながら、ユティカはアンリルートの出会いイベントに戻ったことになる。

多分、ユティカの中身がユイカになったからだろう。しかし、アンリルートは出会いイベントから進んでいないはずだ。

目の前で眠るアンリがユティカとの二股をかけているわけがない。きっとジュリアンは好みじゃないのだろう。他の攻略候補といるのか、もしかしたら魔王ルートにいるのかもしれない。

ユティカを探る事が、この世界の平和を守るために今1番必要なことだと思う。ユイカがこの世界にどれだけ詳しいかはわからないが、私が須藤あかりだということは何もしらないはずだ。

アンリとの生活は私が守る。
私の居場所はここだから。

私は安らかに眠るアンリの腕に潜り込み、目を閉じた。
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