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眠りたくない。

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食後に小さなリンゴを半分こにして、2人で食べる。

見渡すとアンリの部屋は極限にシンプルだった。クローゼットもない。テーブルとベッドだけの部屋。洗濯籠に何着かかけてある服が全てだろうか。

まだ公爵ではないアンリはバイオリンの演奏で日銭を稼いでいたはずだ。貧しい暮らしの中、私の服や食事を用意したのかと思うと申し訳ない気がする。

私はベッドにちらばる外した装飾品やドレスをかき集めるとアンリに言った。

「これ、売ってお金に変えれるかな?」
「なんで?」
「だってアンリに迷惑かけちゃうから…生活費に…」
もごもごと口籠る。貧乏だからとも言えないし、プライドを傷つけないか心配だ。

アンリは笑ってる。
「大丈夫だよ。養うくらいは稼いでる。なんかね、俺拾ったことないけど子猫みつけた気分なんだ。正直誰にも見せたくないし、元の場所にも返したくない。君が記憶喪失だろうがそうじゃなかろうが、ね」

ウインクすると、その瞳はきらめいた。

「それにねえ、そのドレスもアクセサリーも簡単にさばけるもんじゃないんだよね。似合ってるし、大事にとっておこう。それに君を追ってる人たちがもしいるとしたら?居場所見つかっちゃうよ」

アンリはドレスや装飾品をわたしごと抱き上げると、ベッドに戻す。

「すごい宝物みつけたら、誰にも取られないよう隠しておきたいよ」

アンリは私のおでこにキスをする。

なんだか、安心して私は眠りに落ちかける…

嫌、眠りたくない。
だって眠ったら夢から目覚めてしまう。

私はアンリの首にしがみつく。
「名前…ください」

彼がつけてくれた名前があれば、また私たちを繋げてくれる絆になる気がした。

「じゃあ、ミア…僕の母の国の言葉で美しいという意味だよ。猫の鳴き声みたいで可愛いしね」

私は意識に縋り付きたくて、彼の唇を重ねようとする。

「ミア…すごく似合うね」

吐息のかかる距離で、しかし、唇に届かぬまま私は意識を手放した。
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