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第十章 黎明

男装

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3度目の男装である。文官で皇帝陛下付きになると顔が紫琴宮ズーチンゴンで知れていなければおかしい。ますます火種の元ということで、今回用意されたのは宦官の衣装である。

紫琴宮ズーチンゴンにも後宮にも出入りできるし、顔が知れていない新人を陛下が側に取り立てていてもおかしくはない。

早速取り寄せた衣装を身につけて、陛下に見せる。中性的な衣装が文官よりも似合っている気もする。

「そなたは今回も倒錯的な気分にさせてくれる」
陛下が満足気に私を引き寄せる。
「やはり今日は紫琴宮ズーチンゴンに行かずに、その姿のまま堪能したい」
「もう、何のために男装したか分からなくなるじゃありませんか」
「側にずっといるためだろう?もはやどちらでもいいのだ。今抱かなかったら、紫琴宮ズーチンゴンで執務中に抱いてしまうぞ」
ダメだ、これをご乱心と言わずに何というのだろう。
「結局後宮に入り浸る暗愚な皇帝陛下どころか、若い宦官に惚けた傀儡って後世に伝わってしまいますよ」

「既にそなたは傾城傾国と言われているし、朕は龔鴑ゴンヌに貴妃を2人寝取られた愚鈍とまで言われている。今更だ。言わせておけ」

奕晨イーチェンに返す言葉は無かった。

心をお慰めするためには、身体を捧げるしかないのだろうか。そんなことで歪になってしまったこの関係を本当に修復できるのだろうか。

奕晨イーチェンが半開きの唇から艶やかな舌を覗かせる。要求されているのが分かった。

私は少し背伸びをして、その舌に吸い、自らの口腔内に含める。意地悪で奕晨イーチェンが舌を引っ込めるのが分かる。懸命に背伸びをしても舌先しか届かない。私は口を開けて舌先で誘い、笑って再び唇を近づけてきた彼の唾液が溢れるのも構わず、受け入れる。

浅ましい媚びを要求されて、それを理解し受け入れてしまう。そして身体も頭も多幸感に耐え切れずに、ふわふわと馬鹿な状態になってしまう自分すらも疎ましかった。いつから私はこんな女になってしまったのだろう。そして、奕晨イーチェンは楽しみながらも、その変貌に失望しているのだ。他人によって変えられた形跡をそこに見つけるたびに、奕晨イーチェンに嫌われてしまう恐怖を感じる。けれども抗えない衝動が私を襲い、突き動かしてゆく。

ぴったりと寄り添った身体から、私の身体の火照りを確認した奕晨イーチェンは意地悪く布地の上から胸の先を軽く摘んで潰す。思わぬ刺激に甘き嬌声が溢れた。

「胸元に布を巻かないと宦官には成りきれないな」

背伸びをしたままの私の腕を首に絡ませさせた陛下は、執拗にそのまま両手の指先で双丘の先を弄びつづける。

「…いや…っ…」

へたり込みそうになるのに、陛下の指が私が膝から崩れ落ちるのを禁じていて、許してもらえない。

「嫌がる雲泪ユンレイを無理やり抱くのは良くないから今は我慢しようか?」

涼しい顔をして、続ける。

「せっかく準備したのに、執務に行けないのは困るものな?」

そして長いまつ毛を伏せ、見下すような目で再度口づけをするように合図をしてきた。無言の命令に従い、吐息を飲み込んで唇に甘える。膝がガクガク震えて、陛下にしだれかかるのが精一杯だ。

彼の指に抵抗する術なく翻弄されていて、私の意思が介在する余地など何もないのに陛下は私に質問を続ける。
「どうした?随分顔が赤いぞ?具合が悪いなら高床に運んでやろうか」
頬を赤く染めた私が、半泣きで頷く。必死な私の顔を見て、奕晨イーチェンが意地悪そうな顔で被りを振る。
「言葉にしないと伝わらないよ?雲泪ユンレイ?そなたを無理矢理に犯す男と一緒にされては困る」

奕晨イーチェンの言葉に身体がビクンと跳ねる。悲しそうな顔で言葉が続く。
「気づいてる?雲泪ユンレイの身体はあの男の話をすると、すごく反応がいい」
体が強張る。冷ややかなものを陛下の声に感じて思わず身を引こうとする私の身体を陛下の指は逃してくれない。

「昨日の夜も今朝も皇帝だから仕方なく、受け入れている?だとしたら申し訳ないからやめようか?」
やめようかと言いつつも、全く容赦なく私の身体は弄ばれている。答えられないでいる、私に畳み掛けるように
陛下は言葉をつなぐ。

雲泪ユンレイが抱かれたくないなら、他に通っても処理して来てもいい。他の男が心にあるまま、気が乗らない男に抱かれるのは嫌だろう?それとも抱かれながら彼を思ってる?思い出しながらすると気持ちいい?じゃあ、奕世イースと呼ばせようか?」

奕晨イーチェンのあまりの言葉に大粒の涙が溢れた。何故こんな意地悪ばかりいうの?

「何故泣くの?他に通っても雲泪ユンレイのことずっと考えてするから安心してほしい」

奕晨イーチェンが怖かった。

怯える私の目線に奕晨イーチェンが微笑む。
「あ、やっとこっちを見てくれた。帰ってきてからずっと遠い誰かを見ていたでしょう?」

奕晨イーチェンのことがますます分からなかった。

「仕切り直そうか、何度でも」
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