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第八章 尭天舜日
吹雪
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冷気で目が覚めた。
外套を纏ったままの奕世が揺籠の中の赤子を見ている。血の匂いがする。
「奕世」と声をかける。
私の言葉に、彼はこちらを見た。
「なぜ、外套をきたままなの。待ってたわ」
私は床から降りて、彼に近寄る。外套には雪が積もったままだ。彼と並んで、赤子をみると寝息をたてて眠っている。頬がぷっくりで可愛い。
彼の外套を脱がせながら、私は話を続ける。
「さびしかったわ」
彼は私を抱きしめて、言った。
「俺もだ」
彼が返事をしてくれたことに、私は安堵して外套を脱がせる手が止まる。涙が溢れてくる。
「お前を失ってしまうかと思うと気が気じゃなかった。2度と子供なんていらない」
そういうと彼は外套のまま私を抱きしめる。ひんやりと外の匂いがした、そしてやはり血生臭い。
私は彼に外套を脱ぐように促し、彼は脱ぐ。私は暖かい湯に浸した布で彼の身体を拭く。私の身体が抱き上げられて浮いた。高床に私を戻し「休んでいろ」といい、彼は自分で身体を拭いた。
「子供の名前は決めたのか」
彼は私に尋ねる。
「奕舜か奕堯はどうかなって」
「なら堯舜はどうだろう。奕を継がなくていい」
私に異論は無かった。彼は目を細めて続けた。
「ならば、銀蓮の子は蕣花にしよう」
私の胸の澄んだ水に水墨が落ちる。いつから私はこんなに嫉妬深くなったのだろう。銀蓮の子を同等に扱うように頼んだのは私で、彼はきっとそのようにしているだけなのに。
「奕世は堯舜を抱かないの?」
「いやいい。小さくて壊れてしまいそうで怖い」
奕世は高床に乗り、私を抱きしめて続ける。
「俺が抱くのはお前だけでいい」
私は了承したが、身体的には難しかった。
「いや抱いて眠るだけでいい。お前を失ってしまうかもしれないから、孕ませるのが怖い」
私たちは抱き合い、口づけをし、暖かい寝床で互いの体温を感じ合う。私は彼の腕の中で、眠りについた。
それからも、私が喚いて追い出してから私と銀蓮は会うことは無くなった。奕世は頻繁に行っているようで、それが私の心を濁らす。嫌だと私が言えばいいだけなのに、きっと奕世は私の気持ちを優先してくれるのに。私が殺せと頼めばきっと2人を殺してくれるのが私の奕世なのに。そんな事まで考えてしまう自分の変貌が恐ろしかった。私は何故こんなに嫉妬深くなってしまったのだろう。
奕世が私を抱かぬまま、三月が過ぎた。私たちが出逢い、愛し合った季節がまた来た。私を抱いて眠る奕世の髪から銀蓮の香が匂った。私は彼らを疑っている。
堯舜の成長を見守ることだけが、私の支えだった。色んな理由をつけて、私は部屋の外に堯舜の出すことは無く、私も部屋を出ることはない。
ただ、今日は窓の外に銀蓮が奕世を出迎える姿が見えた。その夜奕世はこちらの部屋には帰って来なかった。
もう全ての答えが出ているじゃないか。私が疑い、打ち消し、見ないようにした全てが2人の顔を見れば一目瞭然だった。
私は吐いて、泣いて、それでも堯舜に乳を与えた。何故、誰かを信じて自分の人生を委ねてしまったのか。何故、彼だけは信じられると思ったのか。今となっては何も分からなかった。
外套を纏ったままの奕世が揺籠の中の赤子を見ている。血の匂いがする。
「奕世」と声をかける。
私の言葉に、彼はこちらを見た。
「なぜ、外套をきたままなの。待ってたわ」
私は床から降りて、彼に近寄る。外套には雪が積もったままだ。彼と並んで、赤子をみると寝息をたてて眠っている。頬がぷっくりで可愛い。
彼の外套を脱がせながら、私は話を続ける。
「さびしかったわ」
彼は私を抱きしめて、言った。
「俺もだ」
彼が返事をしてくれたことに、私は安堵して外套を脱がせる手が止まる。涙が溢れてくる。
「お前を失ってしまうかと思うと気が気じゃなかった。2度と子供なんていらない」
そういうと彼は外套のまま私を抱きしめる。ひんやりと外の匂いがした、そしてやはり血生臭い。
私は彼に外套を脱ぐように促し、彼は脱ぐ。私は暖かい湯に浸した布で彼の身体を拭く。私の身体が抱き上げられて浮いた。高床に私を戻し「休んでいろ」といい、彼は自分で身体を拭いた。
「子供の名前は決めたのか」
彼は私に尋ねる。
「奕舜か奕堯はどうかなって」
「なら堯舜はどうだろう。奕を継がなくていい」
私に異論は無かった。彼は目を細めて続けた。
「ならば、銀蓮の子は蕣花にしよう」
私の胸の澄んだ水に水墨が落ちる。いつから私はこんなに嫉妬深くなったのだろう。銀蓮の子を同等に扱うように頼んだのは私で、彼はきっとそのようにしているだけなのに。
「奕世は堯舜を抱かないの?」
「いやいい。小さくて壊れてしまいそうで怖い」
奕世は高床に乗り、私を抱きしめて続ける。
「俺が抱くのはお前だけでいい」
私は了承したが、身体的には難しかった。
「いや抱いて眠るだけでいい。お前を失ってしまうかもしれないから、孕ませるのが怖い」
私たちは抱き合い、口づけをし、暖かい寝床で互いの体温を感じ合う。私は彼の腕の中で、眠りについた。
それからも、私が喚いて追い出してから私と銀蓮は会うことは無くなった。奕世は頻繁に行っているようで、それが私の心を濁らす。嫌だと私が言えばいいだけなのに、きっと奕世は私の気持ちを優先してくれるのに。私が殺せと頼めばきっと2人を殺してくれるのが私の奕世なのに。そんな事まで考えてしまう自分の変貌が恐ろしかった。私は何故こんなに嫉妬深くなってしまったのだろう。
奕世が私を抱かぬまま、三月が過ぎた。私たちが出逢い、愛し合った季節がまた来た。私を抱いて眠る奕世の髪から銀蓮の香が匂った。私は彼らを疑っている。
堯舜の成長を見守ることだけが、私の支えだった。色んな理由をつけて、私は部屋の外に堯舜の出すことは無く、私も部屋を出ることはない。
ただ、今日は窓の外に銀蓮が奕世を出迎える姿が見えた。その夜奕世はこちらの部屋には帰って来なかった。
もう全ての答えが出ているじゃないか。私が疑い、打ち消し、見ないようにした全てが2人の顔を見れば一目瞭然だった。
私は吐いて、泣いて、それでも堯舜に乳を与えた。何故、誰かを信じて自分の人生を委ねてしまったのか。何故、彼だけは信じられると思ったのか。今となっては何も分からなかった。
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