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第七章 天涯海角
伝言
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もうすぐ、私が浩特拉尔にきて一月が経とうとしている。奕世は無頓着なのが、私と銀蓮の月事が無いことには全く気がついていない。
しかし遅れというには、もはや長すぎる。疑惑は日々確信にかわっていく。銀蓮は思い悩んでいる様子はあるが、何ができるわけでもない。私たち2人は奕世の屋敷に既に慣れ、平穏な暮らし、毎日を繰り返していた。奕世がいれば、私は奕世と過ごし、いない日は銀蓮と過ごした。
諸国から王の結婚を祝う贈り物や奕世が私の為に手に入れてきた贈り物が日々屋敷に増えてゆく。銀蓮と異国の品を見るのは楽しく、きっと銀蓮の気も紛れるに違いない。
私は贈り物の中にあの鳥を見つけた。翡翠色の翼、胸の赤、黄色い嘴。奕晨の恋文を運んだ鳥ではないだろうかと思い細部まで見てみるが、同じ鳥だという確信ができない。しかし、この鳥が計画的に贈り物として届けられたとしたら?私は皇帝陛下へ何か伝えられるということになる。銀蓮も小龍に伝えられる。1方通行で1回きりの機会だった。
私は銀蓮に話してみることにした。もちろん、あの鳥である確証がないという件も言い添えた。
「私たちは陛下や小龍に何かを伝えられるのね」
銀蓮はそう呟いて黙った。
俯いて黙ったまま、私たちは悩み、長い時間がすぎた。
「銀蓮、言っていなかったけど、私も月事が来ていないの」
私が沈黙を破った。銀蓮は顔を上げ、私をみる。
「どちらの子かは分からない」
銀蓮の眉間に皺がより、泣き出しそうな顔になる。
「でも、私の子には違いないわ」
それが私が辿り着いた唯一の答えだった。
銀蓮は泣き出しながらも、大きく頷いた。
「そうね。誰が父でも私の子には違いないわ」
そして震える声で続ける。
「私、この子を産みたい。無事育てるためには、どうしたらいいの…」
難しい質問だった。銀蓮の腹の子が小龍の子だろうが、先王の子だろうが、奕世が許すとは思えなかった。自分の従姉妹ですら男たちに陵辱させた挙句に殺せと命じる、あの日の冷たい眼差しを思い出すと怖かった。私が慈悲を乞うて何とかなるだろうか?
私の子が皇帝陛下の子であるという可能性を奕世が疑う可能性もある。私は皇帝陛下と市井の宿で結ばれてからずっと月事が無かった。奕世に言わねば知らないだろう。しかし奕世の子とも陛下の子とも言えない状況であった。
「小龍の子の可能性はないから、彼の元へは戻れないわ」
決心したように、銀蓮が言った。
「雲泪の願いなら、聞いてくれるかもしれない。どうか私の子を殺さぬようにあなたから彼に頼んでほしい。あなたもここで子を産むつもりなのでしょう?」
そう、私はどちらの子であろうと、産み育てるつもりだった。陰謀渦巻く後宮より、こちらの方がずっと良かった。
「わかった。一緒に産み育てましょう。私たちの子よ。奕世には私から話してみる」
目の前の鳥が鳴いた。
「何か最後に伝えたいことある?」
◆
花発多風雨
人生別離足
(花開けど風雨多し
人は別れゆくもの)
再也不見
别来找我
(さようなら
探しに来ないで)
銀蓮・雲泪
◆
書き上げた布は綺麗にたたみ、鳥の脚にくくりつけた。届いても、届かなくても正直どちらでも良かった。出来れば、戦争を起こさずにいてくれた方がいい。私は奕世にも戦争を起こさぬように頼むつもりだったから、皇帝陛下も助けに来ない方がいいと思った。
銀蓮と私の最後の手紙を持って、鳥は高く舞い上がった。空は青い、翡翠色の翼はすぐ見えなくなった。
私たちはこの青空と悠久の大地で、子を産み育てる決心をしたのだ。あとは奕世に話をするだけだ。銀蓮は部屋に戻り、私は奕世をひとり待つ。私たちの子の未来のために。
しかし遅れというには、もはや長すぎる。疑惑は日々確信にかわっていく。銀蓮は思い悩んでいる様子はあるが、何ができるわけでもない。私たち2人は奕世の屋敷に既に慣れ、平穏な暮らし、毎日を繰り返していた。奕世がいれば、私は奕世と過ごし、いない日は銀蓮と過ごした。
諸国から王の結婚を祝う贈り物や奕世が私の為に手に入れてきた贈り物が日々屋敷に増えてゆく。銀蓮と異国の品を見るのは楽しく、きっと銀蓮の気も紛れるに違いない。
私は贈り物の中にあの鳥を見つけた。翡翠色の翼、胸の赤、黄色い嘴。奕晨の恋文を運んだ鳥ではないだろうかと思い細部まで見てみるが、同じ鳥だという確信ができない。しかし、この鳥が計画的に贈り物として届けられたとしたら?私は皇帝陛下へ何か伝えられるということになる。銀蓮も小龍に伝えられる。1方通行で1回きりの機会だった。
私は銀蓮に話してみることにした。もちろん、あの鳥である確証がないという件も言い添えた。
「私たちは陛下や小龍に何かを伝えられるのね」
銀蓮はそう呟いて黙った。
俯いて黙ったまま、私たちは悩み、長い時間がすぎた。
「銀蓮、言っていなかったけど、私も月事が来ていないの」
私が沈黙を破った。銀蓮は顔を上げ、私をみる。
「どちらの子かは分からない」
銀蓮の眉間に皺がより、泣き出しそうな顔になる。
「でも、私の子には違いないわ」
それが私が辿り着いた唯一の答えだった。
銀蓮は泣き出しながらも、大きく頷いた。
「そうね。誰が父でも私の子には違いないわ」
そして震える声で続ける。
「私、この子を産みたい。無事育てるためには、どうしたらいいの…」
難しい質問だった。銀蓮の腹の子が小龍の子だろうが、先王の子だろうが、奕世が許すとは思えなかった。自分の従姉妹ですら男たちに陵辱させた挙句に殺せと命じる、あの日の冷たい眼差しを思い出すと怖かった。私が慈悲を乞うて何とかなるだろうか?
私の子が皇帝陛下の子であるという可能性を奕世が疑う可能性もある。私は皇帝陛下と市井の宿で結ばれてからずっと月事が無かった。奕世に言わねば知らないだろう。しかし奕世の子とも陛下の子とも言えない状況であった。
「小龍の子の可能性はないから、彼の元へは戻れないわ」
決心したように、銀蓮が言った。
「雲泪の願いなら、聞いてくれるかもしれない。どうか私の子を殺さぬようにあなたから彼に頼んでほしい。あなたもここで子を産むつもりなのでしょう?」
そう、私はどちらの子であろうと、産み育てるつもりだった。陰謀渦巻く後宮より、こちらの方がずっと良かった。
「わかった。一緒に産み育てましょう。私たちの子よ。奕世には私から話してみる」
目の前の鳥が鳴いた。
「何か最後に伝えたいことある?」
◆
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再也不見
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探しに来ないで)
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◆
書き上げた布は綺麗にたたみ、鳥の脚にくくりつけた。届いても、届かなくても正直どちらでも良かった。出来れば、戦争を起こさずにいてくれた方がいい。私は奕世にも戦争を起こさぬように頼むつもりだったから、皇帝陛下も助けに来ない方がいいと思った。
銀蓮と私の最後の手紙を持って、鳥は高く舞い上がった。空は青い、翡翠色の翼はすぐ見えなくなった。
私たちはこの青空と悠久の大地で、子を産み育てる決心をしたのだ。あとは奕世に話をするだけだ。銀蓮は部屋に戻り、私は奕世をひとり待つ。私たちの子の未来のために。
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