上 下
34 / 120

第33話 能力とその秘密

しおりを挟む
「愛に、愛ぉぉっぉおぉお」
 
 絶叫し、ガリガリと髪を掻き毟るアプリ
 
 おいおい、何だってんだよ…マジでやばい奴じゃねーか、誰がどう見ても狂っていやがる
 
 だが、これが普通と言わんばかりに、男はそんなアプリを見ても微動だにしない
 
「キョウヤ様ぁ、ふふふ、ははははは、さぁ! 今こそ貴方の命を!」
 
「おい、ちょっと待てよ、なんなんだよそれはっ」
 
「は?」
 
 信じられないモノを見るかの様にアプリの動きが止まる
 さも、それを知っているのが当然かの様に
 
「キョウヤ様ぁ…ォ戯れを、これは魔王ですわぁ そうっ、教団の教団による、教団のための…私の魔王様ぁあああ」
 
 アプリは髪を振り乱し、そこに何かがあるかの様に天井を見据える

「そういぇば、キョウヤ様は教団を探っていらしたんでしたねぇ」
 
 ふと、思い出したかの様に呟く、先ほどの牢獄でのやり取りなんて既に昔の事の様に思える
 
「あぁ、教団の人間が、村に頻繁に出入りしていたとか、何かを運び込んでいたとか、それくらいしか分からなかったけどな」
 
「それでしたら、そこに転がっているのがその何かですわぁ」
 
 大量の骨…
 
 その骨の太さから少なくとも人間の物ではないのは分かるが…
 どっかで見た事が…尖がった、口か?
 
 爬虫類…
 
 まさか
 
「そう、ドラゴンの骨ですわぁ、まぁそこに転がってるのは低級のドラゴンモドキが主ですけれどぉ」
 
「っーーー、一体何のために、お前らはドラゴンを崇めている狂信者共じゃなかったのか」
 
 アプリは何処か虚ろな目で凶夜を見ながら凶夜の言葉をかみ締めるように、うんうんと頷く
 
「心外ですわぁ、それそれそれっ、とぉーっても心外ぃぃぃ」
 
 ガリガリと髪の毛を掻き毟る
 
「それですわぁ、元々教団はドラゴンを信仰するものではありませんの、昔気まぐれにドラゴンを助けた信徒を見て、どっかの馬鹿共が勝手に勘違いしただけの話ですのよ、まぁ…材料としてドラゴンは必要なんで噂を利用させて貰ったりはしてましたけどぉ」
 
「なっ…じゃあお前らは一体なんなんだよ」
 
「言ったじゃぁありませんか? 魔王を教団のための魔王様を作るのですのぉ」
 
 魔王を…作る?
 そんな事が可能なのか…
 
 …いや待てよ
 
 確かに、俺のやったゲームにも魔物を合成して魔王を作ることが出来たモノはあったが…
 
 大量のドラゴンの骨…
 
 棺桶…
 
 ドラゴン…
 
 強い人間の贄…
 
 複数のワードからゲームの記憶を手繰り寄せる、思い出せ俺はこれを知っている
 
「ドラゴニュート…か?」
 
「す…素晴らしいぃぃぃぃですわぁぁぁ」
 
 髪を振り乱し、愉悦の笑みを浮かべ、棺桶をガンガンと叩く
 
「流石はキョウヤ様ぁ、これだけの情報でよ くよく よくよくそこに気がつきましたわっ」
 
 そう、ドラゴニュート 半人半龍…古くは八大竜王、四海竜王伝承、西遊記の竜王の絵や像に語られる伝説の生物
 完全に人と龍に化ける事ができ、ゲームでもトップクラスの魔王だった
 
 だが…
 
「だが、ドラゴニュートを作るならこれだけじゃ足りない筈だ」
 
「そうですわぁ、実に博識でいらっしゃいますね…まるで実際に見てきたみたぃ」

「…」

「まぁいいですわぁ」
 
 なんなんだコイツ…、見てきたか、まぁそうとも言えなくもないか?そう、ドラゴンの宝玉…確か、そんな合成アイテムが必要だったはずだ…
 
「あらぁ?何か不思議そうなお顔ですわねぇ? もしかして気が付いているのですかぁ?一体どこで…まぁいいですわぁ、ここで質問ですぅ、これはなんでしょーか?」
 
「…!?」
 
 アプリが懐から出したのは虹色に輝く球体だった
 
「そう、教団に前々から取り入ろうとしていたぁ、どっかのおバカさんから献上されましたのぉ…キョウヤ様の情報と一緒にねぇ」
 
 ふふふ、と珠を恍惚の表情で眺める
 
 あれは、村の入り口でマークにドラゴンの素材と一緒に預けた魔石…
 
 やられた…あの門番のおっさんグルだったのか、たしかに素材を態々隠すなんてよくよく考えれば可笑しな話だ、ミールの上司って言うから警戒が薄れちまってた
 
 後悔は先に立たないってよく言ったもんだ…だがっ
 
「スロット!」
 
 
 掛け声と共に凶夜の前に透明なスロットマシンが出現する
 
 
 状況は把握した
 
 
 教団全体の意思かは分からないが、少なくともこの村にいる教団は魔王を作って操ろうとでもしているんだろう、悪党の考えることなんて大体の検討はつく
 
 条件は俺の命と魔石、そして棺桶の中にある何か…あとはこれらを組み合わせる糊しろとしての術式か何か
 
 これが揃ったら、魔王ドラゴニュートは作られるはずだ
 
 なら、話は簡単だ、アプリを倒すか、魔石を奪っちまえば事足りる
 
 凶夜はアプリを標的に見据え、無駄なくスロットのレバーを倒す
 
「キョウヤさまぁどうなさいましたのぉ?」
 
 スロットが見えていないのか、はたまた取るに足らないモノだと思っているのか、アプリは微動だにせずこちらのやる事を見ている
 
 (油断…しているのか?なんだかわかんねぇが、このチャンス、逃してたまるかよ)
 
 絵柄が回転し、同じ柄を目掛けボタンを押していく
 
 タンッタンッ
 
 凍らせるっ
 
 その思いにスロットが呼応し、氷のマークが揃っていく
 
「くらいやがれっ…」
 
 
 タンッ
 
 
 しかし、最後のボタンを押したにも関わらず、何も起こらず場は静寂に包まれ
 
 
「ふふふ、あーっはっはっはっはぁぁ」
 
 
 ただ、そこに狂ったようなアプリの笑い声だけが響く
 
 
「なっ…」
 
 
 (どうして何も起こらないんだっ!?)
 
「どうしたんですのぉ?愛を私からの愛を受け入れる準備がぁぁあ出来たんですの? ぁあ もしかして’ソレ’が上手く動かなかったとかぁ?」
 
 やはりアプリにもスロットは見えている
 だとしたら何が…
 
 
 不審に思った凶夜がスロットを見ると
 
 
 確かに揃った筈の絵柄は全て出鱈目な柄を表示していた
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...